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移民、難民、そしてシリア発の人達…他国からの来訪者に人々はどのような姿勢を見せるのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 様々な理由で他国から移住を求める人達。その人達への該当国民の心境は

大よそ国家とは地域性、民族性、歴史性を鑑み、近しい人たちが集まる地域的集団として構築されている。そしてその場に他の国から移住してくる人達は「自分達とは異なる存在」であり、該当国に元から住んでいる人達の心境も様々。その実情をイギリスの公共放送局BBC(The British Broadcasting Corporation)が2016年4月に発表した調査結果「Global Citizenship A Growing Sentiment Among Citizens Of Emerging Economies: Global Poll」(2015年12月から2016年4月に渡り、対面調査や電話応対インタビュー形式によって18歳以上の成人男女に対し、大よそ1国あたり1000人を対象に実施。一部を除き全体調査(ブラジルやインドネシア、中国などは都市部限定)。調査対象国は21か国。日本は含まれていない)から探る。

まず最初に示すのは、他国からやってきた移民の人達をどのように見ているか。肯定的に見るか、否定的に見るかを4段階+回答留保・無回答のいずれかで答えてもらったもの。なお今調査では移民と難民を明確に仕切り分けしている。今項目はあくまでも移民。

↑ 他国からの移民に対する見方(2016年)
↑ 他国からの移民に対する見方(2016年)

「世界全体」とは当然調査対象国全体を意味するが、その値としては6割が肯定派で3割が否定派。肯定する向きが多数派。アメリカ大陸ではほぼ肯定派が7割に達しており、カナダでは8割に届いている。他方ヨーロッパではスペインが8割と高い値を示しているものの、イギリスやフランスでは6割に留まり、ロシアでは2割にも届かず、否定派が7割近く。この数年、移民・難民問題に頭を抱えているドイツでは、移民との設定項目でも1/3が意見留保の判断を示しており、同国国民の心境がうかがえる。

アジア地域ではオーストラリアが8割近くの肯定派、中国は7割、韓国もほぼ同率。インドやパキスタン、インドネシアなどでは5割程度に留まっている。

続いて難民について。回答者自身の所属国家が直接関与する紛争では無く、第三国間の争いによる難民を意味する。具体的な個別事案に関する問いでは無く、ケースとして「他国で発生した紛争に伴い、その難を逃れるためにやってきた難民」を想定し、その人たちを受け入れるか否かについて。

↑ 他国における紛争から逃れてきた難民の受け入れ(2016年)
↑ 他国における紛争から逃れてきた難民の受け入れ(2016年)

全体意見は移民に対するものと変わらない。他方地域別では、ヨーロッパでは移民の場合と比べるとやや肯定派が増えているが、他地域ではいくぶん否定派が増えている。誤差の範囲といえばそれまでだが、現状を受けての反応と解釈すれば、納得もできる。もっとも、今回調査の限りでは、ロシア以外はすべての国で肯定派が否定派を上回っていることに違いは無い(パキスタンやインドネシアではギリギリだが)。

抽象的な話では無く、具体的にシリアにおける紛争から逃れてきた難民の受け入れとの設問では、少々異なる反応が示される。

↑ シリアにおける紛争から逃れてきた難民の受け入れ(2016年)
↑ シリアにおける紛争から逃れてきた難民の受け入れ(2016年)

全体値はやや否定が増える。地域別ではアメリカ大陸諸国やアジア地域は単なる難民の場合とさほど変わりは無い、むしろ肯定派が増える国もあるほどだが、それ以外の地域、ヨーロッパやアフリカ大陸では反発がいくぶん高まっている。これは多分に、陸続きで大量の該当者がやってくる可能性が高いか否か、つまりは直接多数事例に対応する可能性があるか否かの差異だと考えられる。

シリア事案でスポットライトを当てられることが多いドイツでは、賛成派は5割強で単なる難民との設問よりも高い値を示しているが、意見留保の回答率は1/4でほぼ変わらず。ヨーロッパ地域ではまだ大きな違いは無いものの、アフリカでは明らかに単なる「難民」との設問と比べて拒否反応が強く出ているのが目に留まる。

一連のシリア問題では直接の移民・難民で影響を受けるヨーロッパ地域において、欧州連合欧州委員会(European Commission)が年2回行っている世論調査「Standard Eurobarometer」の中でも、具体的事案名こそ挙げてはいないものの、懸念が高まる実情が確認できている。

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つ選択、Standard Eurobarometerより作成)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つ選択、Standard Eurobarometerより作成)

今回の調査ではヨーロッパ各国は肯定的な意見が過半を占めているが、今後情勢によりいかなる変化が生じ得るのか。Standard Eurobarometerの最新版の公開も合わせ、注目したいところではある。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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