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各国政策がすけて見える主要国のエネルギー源の種類と量、その違い

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ ダムによる水力発電も地形に左右され、国によって利用度合いが変わる

一次エネルギー利用トップは米国では無く中国

世界各国のエネルギー政策・事情を知るため必要となる観点の一つが、エネルギーの源としていかなる一次エネルギー(石油や石炭など)を利用しているか、その動向。今回はイギリスに本拠地を構える国際石油資本BP社のエネルギー白書「Statistical Review of World Energy」を元に、状況を推し量ることにした。

「一次エネルギー」とは自然界に存在するそのままの形を用い、エネルギー源に使われているものを指す。化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)、ウラン、そして水力、火力、さらには太陽熱・太陽光・地熱などの再生可能エネルギーが該当する。ちなみに「二次エネルギー」とは電気やガソリンなど、一次エネルギーを加工して得られるエネルギーなどが対象。今回は「一次エネルギー」を対象にしているため、「国内外を問わず、どのような自然の恵みをどれだけ用い、エネルギーを取得しているか」を知ることになる。

まずは消費量動向。

↑ 主要国一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2011~2015年)
↑ 主要国一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2011~2015年)

2015年に至る動向だが、多くの国でエネルギー消費量は増加を示している。これは曲がりなりにも景況感の回復により、エネルギー消費量が増加したことを意味する。特に中国は前年比で1.5%、インドは5.1%の増加が確認されており、新興国の伸び具合が大いに注目される状況となっている。とりわけ中国は今資料の限りでは世界最大の一次エネルギー消費量を示し、さらに大きな増加の動きを止めていない(米中間の順位はすでに2009年時点で逆転している)。

他方、同じ新興国ながらブラジルの上昇ぶりが止まり、直近年では前年比でむしろマイナスに転じているのがやや気になる。同国では現在オリンピックが開催中ではあるが、それに向けた動きの中で政情の不安定化と経済の低迷が伝えられていたが、それがエネルギー消費量にも表れたと見て良いのだろう。

数字の上では中国、アメリカ合衆国から大きく差をつけられる形ではあるが、インドとロシアが続き、そして日本がようやく入ってくる。もっとも日本は今回上位入りした10か国の中では、唯一5年連続しての減少傾向を示している(ロシアは2011年から2012年にかけてわずかに増加している)。これは元々日本が省エネ型のエネルギー消費スタイルであったのに加え、多分に震災の影響に伴う発電エネルギーバランスのひずみによるところが大きい。

全世界では石油・石炭で2/3

続いて各国の一次エネルギー源分布。石油や天然ガスなどに区分し、どの一次エネルギーをどのくらいの割合で用いているかを示している。「再生可能」項目は太陽光や風力その他をすべてまとめたもの。「自然エネルギー」とも呼ばれる類の総計である。こちらも上記のグラフと同じく、直近年における総消費量上位10位の国のもの+αについてまとめてある。

↑ 主要国の一次エネルギー消費量(エネルギー供給元別)(2015年)
↑ 主要国の一次エネルギー消費量(エネルギー供給元別)(2015年)

・中国は2/3が石炭

・ロシアは5割強が天然ガス

・インドは中国に次いで石炭使用率が高い

・日本は2015年時点で原子力がゼロ%(整数以下切り捨てのため。厳密には0.23%)

・イランでは石油と天然ガスでほぼすべてがまかなわれている

上位10位には無いが特異な構成のためグラフに加えたフランスだが、同国ではエネルギー面でも独立独歩的な政策を現実のものとするため、そして電力の他国への販売を一大ビジネスとしているため、他国に関与されにくい原発を促進している。ちなみに2015年におけるフランスの総消費エネルギーのうち原発起因の41%は、今回取り上げた諸国では最大の比率を計上している。

中国は一次エネルギー源の2/3が石炭。石炭は安価で経済性に優れているものの、「適切」で比較的「高い技術力」による処理をしないと、二酸化炭素の排出量など環境面での負担も大きい。中国の二酸化炭素排出量がアメリカを超えて世界一となっているのも、石炭によるエネルギー確保がメインの構造が大きな要因と考えて問題無い。

↑ 世界の二酸化炭素排出量比率(2013年時点、IEA調べ)
↑ 世界の二酸化炭素排出量比率(2013年時点、IEA調べ)

日本の場合は石油への依存度がかなり高い。しかもそのほぼすべてを輸入に頼っている。エネルギー戦略上決して好ましい状況では無いのは言うまでもない。さらに2011年の震災を経て、エネルギー政策上多種多様なハードルが積み重なった関係で、昨今の情勢は多分にひずみが生じている。

↑ 日本の一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2011~2015年)
↑ 日本の一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2011~2015年)

問題点の多い石油を用いる火力発電がセーブされていることもあり、増加は最小限に抑えられているどころか、緊急措置的な形で増加した2012年をピークに、それ以降は逆に減少している。他方天然ガス、そして石炭は高い水準にあり、いびつなバランス関係がさらに進行している。再生可能エネルギーも漸増しているものの、状況の変化に追いつかない。水力発電は急に発電量を増やす=ダムを増設するわけにはいかず、既存のダムの発電量を増やすと水資源の利用との兼ね合いが難しくなる。

各国共に国民の生活を支えるエネルギーは、それぞれの国共に、国が有する事情を考慮した上で、その国々にもっとも適切で、他国の動向に振り回されることの無い、中長期的かつ正しい戦略の構築が必要不可欠となる。その場しのぎで無い、安心して日々が過ごせる、バランスのとれたエネルギー戦略の実現を願いたい。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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