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高齢者は圧倒的に家の中で…熱中症による死亡者の発生場所を探る

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ エアコンが実装されていれば適切に稼働させる事で熱中症は多分に防げるはずだが

夏になると日々伝えられる熱中症による救急搬送者。場合によっては死に至る人もいる。この死亡者の動向が厚労省の人口動態統計でも把握できる。その公開値から「どこで亡くなったか」を確認していく。

熱中症の発症リスクは、その行動様式の特性を受け、若年層から就業者層までは屋外が多く、高齢層になると屋内が多くなる。今回は人口動態統計における「熱中症による死亡者」の定義に従った死亡者が、どのような場所でその死因が発生したのかを確認し、裏付けをしていく。

まずは直近分となる2015年分だが、単年分では値が少なめで、各年の気候状況によるぶれが生じやすいため、該当年も含めた過去3年分の値を元にした平均値を用いる。また対象となる場所は「家(庭)」「居住施設」「学校、施設及び公共の地域」「スポーツ施設及び競技施設」「街路及びハイウェイ」「商業及びサービス施設」「工業用地域及び建築現場」「農場」「その他の明示された場所」「詳細不明の場所」で区分されている。「家(庭)」なら自宅内や庭先の草刈りの過程などが良い例。部活動ならば「学校、施設及び公共の地域」や「スポーツ施設及び競技施設」、就業中ならば「街路及びハイウェイ」「商業及びサービス施設」「工業用地域及び建築現場」、あるいは農家ならば「農場」が主な状況下となる。

↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値)
↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値)

熱中症による死亡者の8割近くが65歳以上で占められているのは、人口動態統計の結果から示されている。その中でも多くが自宅内、あるいは詳細不明の場所であることが分かる。この「詳細不明の場所」について詳しい説明は無い(具体例の記載がない)が、熱中症で死亡したこと自体はカウントされていることから、見方を変えれば発見時に詳しい状況が確認できない状態にある、あるいは死亡診断書を記載した医師が状況を把握し切れず・判断が難しいとして、「詳細不明の場所」に割り振った可能性は高い。さらにいえば「詳細不明の場所」の増加傾向が、「家(庭)」とほぼ同じ傾向にあることから、多分に「詳細不明の場所」は「家(庭)」と近しい状況による発生と見ても、的外れなものではないだろう。

報道では高齢者の農作業時における熱中症発症の事例が良く伝えられる。実際、「農場」の値も歳を経るに連れて増えている。「詳細不明の場所」のうち多少は実質的に「農場」のものもあるだろう。しかし一方で、高齢者における「家(庭)」での熱中症の死亡リスクの体現がいかに多いかが改めて分かる次第である。

これを男女別に見たのが次のグラフ。男女で縦軸の仕切りが異なることに注意。高齢層は人口そのものにおいて女性の方が多いため、リスク体現者も女性が多くなる傾向がある。

↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(男性)(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値)
↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(男性)(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値)
↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(女性)(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値)
↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(女性)(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値)

やはり高齢層における「家(庭)」でのリスクの体現化が目立つ。男性の方がやや「詳細不明の場所」の値が多く、その他の場所でも数がそれなりに見受けられるのは、行動性向の違いによるところだろう。特に65歳以上の「農場」で、男性は高めの値が出ており、農作業時の熱中症による死亡は男性が多い実態がつかみ取れる。

やや余談となるが、昔と比べて現在はリスク体現者数そのものが増えている件に関して、年齢階層と発生場所別に試算をした結果が次のグラフ。

↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値と、2001年と過去2年を合わせた平均値の比較、倍率)
↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、人、2015年と過去2年を合わせた平均値と、2001年と過去2年を合わせた平均値の比較、倍率)

熱中症による死亡者は、(人口そのものの増加率以上に)高齢者で増えている。その増加が主に「家(庭)」や「商業及びサービス施設」で生じていることが分かる。ちなみに「商業及びサービス施設」とは具体的には「小売店、デパート、商店街、ガソリンスタンド、銀行、ホテル、旅館など」を指している。もっともこれは純粋に倍率のみで、数そのものは一人二人であることから、さほど気にするものでもない。むしろ「農場」や「家(庭)」、そして「詳細不明の場所」の増加に注意を払うべきなのだろう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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