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トップ確保は10府県のみ…地域別に見ると全国紙と呼ばれる新聞はどこまで売れているのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ ターミナル駅での新聞スタンド。全国紙やスポーツ紙が売れているようだが

全国紙5紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)は都市圏でこそ多分に売れているものの、地方ではその地域情報が充実している地方紙の方が、世帯での購読率は高いとの話がある。全国紙は地域ではどこまで売れているのか。読売新聞社の広告ガイドページで半年単位にて更新・公開されている日本ABC協会「新聞発行社レポート 半期」を基に、その実情を確認していく。

まずは全国紙5紙のいずれかが新聞の世帯普及率で最大値を確保している、つまり一番多く浸透している都道府県。直近値となる2016年下半期(7月から12月)では、読売新聞が茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、滋賀県、大阪府、和歌山県、山口県。そして毎日新聞が奈良県のみとなった。あとはすべて地方紙。例えば宮城県なら河北新報、長野県なら信濃毎日が最上位。なお、地方紙の中には全国紙と関係が深い新聞(例えば福島県の地方紙である福島民友なら読売新聞の子会社による発行)もあるが、あくまでも全国紙そのものであるか否かで勘案をしていく。

今回挙げられている数字「世帯普及率」は、該当地域の世帯数に対し、該当する各新聞が配達されている世帯数率を表している。例えばある県の世帯数が10万世帯で、1万世帯あてにA新聞が配達されていれば、A新聞の該当県における普及率は10%になる(いずれかの新聞が配られている、つまり新聞取得世帯に対する比率では無いことに注意)。

↑ 「全国紙」が世帯普及率トップの都道府県とその新聞名、普及率(2016年7月から12月)
↑ 「全国紙」が世帯普及率トップの都道府県とその新聞名、普及率(2016年7月から12月)

全国紙の普及の現状を知らない人にとってはイメージ以上に「全国紙が大いに普及している都道府県」は少ない実態に驚くかもしれない。今回取得した公開値では各地域の世帯普及率トップ3まで確認できるが、そこには読売新聞だけでなく朝日新聞、毎日新聞、日経新聞、産経新聞の姿を見つけられる。しかしトップに厳選すると、これだけでしかない。

トップ地域は関東と近畿に集中し、あとは山口県のみ。並み居る読売新聞勢の中で、奈良県は唯一毎日新聞がトップだが、その次に読売新聞、朝日新聞が続き、地方紙の姿は上位陣では確認ができない。

ちなみに同様の主旨で過去に取得したもっとも古い値、2010年下半期時点の値と今回分の値を比較すると次のグラフの通りとなる。間が抜けた形だが、要は全部マイナス。全国紙はトップ普及率を誇る地域でも押し並べて浸透率が低下しつつある。

↑ 全国紙がトップ普及率の地域における該当紙の世帯普及率変移(2010年下半期から2016年下半期)(奈良県のみ毎日新聞、それ以外は読売新聞)(%ポイント)
↑ 全国紙がトップ普及率の地域における該当紙の世帯普及率変移(2010年下半期から2016年下半期)(奈良県のみ毎日新聞、それ以外は読売新聞)(%ポイント)

それではどのような地方紙がそれぞれの地域でトップの世帯普及率を示しているのか。実のところ、各地域で発行されている地方紙がその地域におけるトップの普及率を誇っている(考えてみれば当然の話なのだが)。たとえば北海道なら「北海道新聞」で37.28%・102.6万部、山梨県なら「山梨日日新聞」が57.04%・20.2万部。それらを全部集計しなおし、トップの地方紙が単独で世帯普及率50%以上の都道府県を着色したのが次の地図。つまりその地域では半分以上の世帯が該当地方紙を読んでいる計算になる。

上記でも言及しているが、新聞普及率そのものが低い地域では、該当地方紙が世帯普及率の上でトップであったとしても、着色対象にはならないことに注意が必要。例えば沖縄県では沖縄タイムスと琉球新報が群を抜いて高い世帯普及率を示しているが、新聞そのものの普及率が低いため、着色対象とはならない。

↑ 「地方紙」が世帯普及率トップの都道府県のうち、該当トップ紙の普及率が50%以上の地域(2016年7月から12月)
↑ 「地方紙」が世帯普及率トップの都道府県のうち、該当トップ紙の普及率が50%以上の地域(2016年7月から12月)

「全国紙」以外の地方紙が単独紙で50%以上の世帯普及率を示している地域を見ると、四国と日本海側に多い実態が確認できる。これだけ色が塗りつぶされている地域が多いのは、それぞれの地域で「地方紙」が広範囲に受け入れられているのを意味する。

また、「全国紙」が世帯普及率で過半数を有する都道府県は存在しないから(最大でも茨城県における読売新聞の33.77%)、こちらの地図で空白の部分は、全国紙が最大の世帯普及率を有していたとしてもなお、新聞界隈においては群雄割拠状態、あるいは乱戦状態であることがわかる。無論乱戦をしている対象が全国紙なのか地方紙なのか、あるいは新聞を取らない世帯が新聞代わりに用いているであろうインターネットであるのかは、また別の話。

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今件各値からは「全国紙は本来の意味での全国展開紙ではない」実態が把握できる。それぞれの地域に住む人は、自分の地域の出来事の取得を優先する。新聞世代とも称されるシニア層はその傾向が強い。そして需要があればそれに応えるのがビジネスに他ならない。全国レベルの情報がないわけではないが、地方紙は自然にその地域の情報の割合が多くなり、そしてその地域の多くの人が情報取得願望に応える地方紙を手に取る。

新聞全国紙でも「●×版」と称して各地域毎の情報を載せるページは存在する。しかしその情報量は少なく、地域の区分も比較的大雑把なものでしかない。逆に地方紙は共同通信・AP通信・時事通信などの通信社や、所属する・契約を結んでいる全国紙から「全国版ニュース」の配信を受けているので、全国レベルのニュースにも事欠くことはない。「専門の地方紙」と「全国紙」とでは、地方における優劣は前者に軍配が上がるのも無理はない。

一方、全国紙だけでなく地方紙においても、現在が紙媒体としての新聞の苦境の時代にあることに変わりは無い。今後時の流れと共に空白地帯が増え、着色の色合いが薄くなっていくのだろう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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