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6.3%は「条件にこだわらないが仕事が無い」…完全失業者の「仕事につけない理由」

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ なぜいまだに私は職に就けないのかな、その理由を考えてみると……

最多理由は「希望する種類・内容の仕事が無い」

仕事ができる状態にあり、仕事をしたくて探しているが見つからずに無職状態にある「完全失業者」の人で、どのような仕事を探しているかに関して論議の的となることがある。高望みをしているから職に就けないのだと非難する声がある一方、中長期に渡り生活を支え時間を費やす仕事であるからこそ、自分の望みは極力充足させるべきであるとの声も多い。そこで完全失業者における、仕事に就けない理由に関して、総務省統計局が2017年2月に発表した、2016年分となる労働力調査(詳細集計)の速報結果を基に、探りを入れていく。

まず「完全失業率」という言葉について。これは「完全失業者÷労働力人口×100(%)」で算出される値だが、この「完全失業者」とは単なる失業者では無く、「仕事についていない」「仕事があればすぐにつくことができる」「仕事を探す活動をしていた」のすべてに当てはまる人のみが勘定される。例えば失職しているが怪我のためにすぐには働けない人、怪我も無くすぐに働けるが退職直後なのでしばらく休みたいから仕事は探していない人などは、この「完全失業者」には該当しない。

2016年における完全失業者数は208万人(前年比マイナス14万人)との結果が出ている。そのうちある程度の理由(=なぜ仕事につけないのか)が明確化しているものについて、まとめた結果が次のグラフ。もっとも多い理由は「希望する種類・内容の仕事がない」とするもので、人数では55万人が該当している。

↑ 仕事につけない理由別完全失業者(2010~2016年、万人)
↑ 仕事につけない理由別完全失業者(2010~2016年、万人)

2016年分のグラフ上の人数の合計が完全失業者数の208万人に達しないのは、「その他の事由」があるため(公開データは整数値までの表記なので、端数処理の問題もある)。

前年2015年から直近年2016年の動きを確認すると、グラフ上に表した主要項目においては「賃金・給料が希望と合わない」以外はすべて横ばいか減少。つまり「完全失業者内においては」状況は変わらず、あるいは改善されている。特に最低限の求人があれば充足される「条件にこだわらないが仕事が無い」の値は金融危機以前の値すら下回る状態が続いている(データが残っている2002年以降では、2007年の20万人がこれまで最少だった)。それなりに条件が限定される「希望する種類・内容の仕事が無い」でも金融危機ぼっ発以前の水準(2007年、78万人)を下回る状態が続いている。「リーマンショック」による労働市場悪化の影響はほぼ無くなり、雇用市場の改善が進んでいることがうかがえる。

他方「賃金・給料が希望と合わない」はほぼ横ばいの状態が続き、2016年は前年から増えているが、これは元々すでに過去最低の値にあったことに加え、後述する通り若年層で回答者が増加したのが原因。具体的値としては、2015年において25~34歳の「賃金・給料が希望と合わない」との回答者は4万人だったが、2016年では5万人にまで増加している。もっとも、万単位での公開値のため、過去の値動きも合わせ見る限り、ぶれによる動向との解釈もできよう。

年齢階層で変化する失業者の声

これを年齢階層別の割合で見ると、年齢階層別の失業事情を把握できる。

↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(2016年)
↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(2016年)
↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(2016年、前年比)
↑ 完全失業者の仕事につけない理由別割合(2016年、前年比)

・若年層ほど「技術・技能」不足が多い

・家族を抱えている人が多いこともあり、中堅層は(35~44歳は特に)「勤務時間・休日」などの条件がクリアできず、仕事が見つからない

・どの年齢階層も「条件にこだわらないが仕事がない」割合は数%ほど存在し、年齢階層別の差異はあまり無い

・若年層ほど「希望する種類・内容の仕事がない」が多い(A)

・高齢層ほど「求人の年齢と自分の年齢が合わない」が多い(B)

・65歳以上では「賃金・給料」「技術・技能」に関する問題が無い

(A)と(B)の2項目は2009年以降継続中の傾向として確認ができている。まず(A)だが、「仕事における需要と供給のミスマッチ」が多分に作用していると見て間違いない。さらに「技術・技能」が不足しているからこそ、希望職種・内容が限定されてしまうパターンも少なからず存在すると考えると(例えば自動車免許が無ければタクシーのドライバーは不可能)、単純な「ミスマッチ」以外に「経験・技能不足による選択肢の少なさ」が就職活動の上で足を引っ張っている場合も多分に想定される。就職活動において経験や技能は求職者の選択肢を増やす、重要な武器に違いがないことが改めて分かる。

(B)は「年齢のミスマッチ、あるいはハードル」が問題。本人はやる気(、さらには技術や経験)を有するものの、越えられない壁と表現できる「年齢」が立ちはだかり、職につくことができない状態。「一般職における再就職は30代まで」との話もあるが、40代が含まれる「35-44歳」の層から「求人の年齢と自分の年齢が合わない」比率が急激に高まるのも合点がいく(ただし厚生労働省側では事業主に対して、労働者の募集及び採用について年齢制限の原則禁止を義務付けている)。

前年2015年から直近年2016年の変移を見ると、実数値の減少からも分かる通り、全体的に求人そのものが増加し労働市場が改善したことを受け、求職者側の選択肢が広がったことから、「条件にこだわらないが仕事が無い」が減っている。他方「賃金・給与が希望と合わない」が若年層で増加しているが、これは上記の通り統計上のカウントのぶれの可能性もある。ただし若年層雇用の際の低賃金はよく話題に登る話でもあり、見方を変えれば雇用条件を賃金面で改善することで企業側の人手不足を解消できるとも解釈できる。

24歳未満層における「自分の技術や技能が求人要件に満たない」の大幅な増加は、若年層の就業技術へのさらなる啓蒙、サポート制度が求められる状況とも読み取れる。他方65歳以上で「求人の年齢と自分の年齢が合わない」の大幅減少と「希望する種類・内容の仕事が無い」の増加は、ある意味選り好みができるようになった(回答者は失業しており、希望していない種類・内容の仕事ならば求人があったが選ばなかった)とも解釈できよう。

2016年の値においては、失業者数・失業率そのものが改善している点は素直に喜ぶべき。一方、失業理由は相変わらず年齢階層によって大きな違いを見せているが、個々の年齢階層における問題点の明確化ができれば、その「問題点」の解決方法を模索し、手を打つことで、各年齢階層の雇用問題がさらに改善できる可能性は高い。無論数か月単位の話では無く、数年レベルの施策が求められる。特に「労使間の条件のミスマッチ」は情報の集約と容易な検索ができる環境の整備、「経験・技能不足」はそれらを習得させることで(本来これは学生時代にある程度成していなければならないのだが)、小さからぬ進展が期待できる。

他方、労働市場そのものが大きくならないことには、やりくりするのにも限界がある。そのためにも景気の回復と新たな雇用市場(=産業)の創生もまた、完全失業者を減らす施策として高い優先順位で求められよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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