進む紙媒体離れ…一人暮らしと夫婦世帯の新聞や雑誌、書籍の買われ方の違いを確認
新聞の世帯購入率は単身も二人以上も8割
紙媒体離れが指摘される昨今だが、世帯種類の違いでその動きには差異が生じているのだろうか。その実情を総務省統計局が2017年2月に発表した、家計調査報告(家計収支編)における2016年分平均速報結果などから探る。
グラフ中などで使われている「世帯購入頻度」とは、世帯単位での購入頻度を指す。例えば構成員の誰かが特定期間に2回雑誌を購入すれば、その世帯の該当期間における購入頻度は200%。非購入世帯も含めての平均値であることに注意。また、単身世帯は当然構成員が世帯主一人しかいないので、本人のみの購入が計測される。例えば単身世帯で月に4回(≒毎週)週刊誌を購入していれば、その世帯の雑誌購入頻度は400%。
まずは月次購入頻度。今グラフに関しては「世帯単位での動き」であることに注意。単身世帯は上記にある通り本人自身のみ、そして二人以上世帯は夫か妻の片方どちらか、さらには子供が購入しても(子供の小遣いによる調達までは「家計」にカウントしきれていないので、あくまでも「世帯全体のお財布から買った」もののみとなるが)「購入世帯」として該当する。
新聞は前年の2015年では二人以上世帯が単身世帯よりも高い値を示していたが、2016年では単身世帯が上回る結果が出てしまった。高齢層単身世帯の増加により単身世帯の購入率が増加した一方で、夫婦世帯における新聞離れによる購入率の減少が、立ち位置の逆転をもたらしたようだ。「雑誌・週刊誌」「書籍」は二人以上世帯の方が高い。夫婦のそれぞれが、あるいはいずれかが読書のために書籍を購入しているようすがうかがえる。子供がいる世帯では、子供向けの書籍購入事例もあるのだろう。
「二人以上世帯は単身世帯と比べて、購入する機会がある人が2倍以上(少なくとも夫婦)なのだから、購入頻度が高くて当然」との意見もあるに違いない。しかしいずれの媒体においても、両種類世帯間で差異があまりない。前年比を算出すると、それぞれの世帯でどのような変化が起きたのかが分かる。
紙媒体が苦境の中にあるのは複数の調査結果から明らかにされているが、今件でもそれが表れている。大よその媒体では前年比がマイナス。「他の印刷物」で単身世帯がプラスを計上しているが、これは誤差の範囲(具体的には「(映画などの)プログラム、カレンダー」「学生新聞、宗教新聞、点字新聞」などが該当する。元々絶対値が小さいため前年比でもぶれが出やすい)。
他方、「新聞」で単身世帯が示した前年比プラスは単なる誤差とは言い難く、高齢世帯層の比率・絶対数増加が要因として考えられる。実際、単身世帯では(に限らず)、一般的にも高齢層の方が新聞購読率は高い。2014年以降今回年に至るまで3年連続して、「新聞」における単身世帯の増加傾向が確認されており、この動きは今後も継続する可能性はある。むしろ二人以上世帯でマイナス4.5%ポイントもの差異が出たのは大いに注目すべきであり、新聞業界においては冷や汗ものの動向に違いない。
高齢層が新聞好きなのは良く知られている話だが、単身世帯では特にその傾向が強い。2016年における単身世帯でその世代別の新聞購入金額を見ると(世代別購入性向のデータは公開されていないので、購入者・非購入者を合わせた平均購入額から購入動向を推測するしかない。また新聞単価そのものは種類によって大きな違いは無い)、若年層と高齢層との間で新聞購入への姿勢に大きな違いがあるのが分かる。
そして全体的な構成比率を反映することになる、家計調査における抽出率調整後の世帯分布を見ると、高齢層は増加の一途をたどっている。
新聞をよく読む高齢層の回答者数比率が増えれば、(二人以上世帯も合わせた)新聞全体としての購入性向が減っていたとしても、単身世帯の購入頻度の値が前年比でプラスとなる結果が出ても不思議では無い。来年以降も前年比はプラスとなるか、あるいはマイナスでもその減り方は小さめなものとなるだろう。
金額ベースの動向
この動きを金額ベースで見たのが次のグラフ。
購入頻度は「新聞」では単身世帯が上だが、「雑誌・週刊誌」などは多少ながらも二人以上世帯の方が上。しかし金額面では単身世帯の方が上の結果が出る。これは二人以上世帯の紙媒体離れと、単身世帯の(高齢化による比率相対的な)購入額の積み上げが同時に起きた結果といえる。
今件動向からは、「新聞は単身世帯の方が購入頻度が高い。さらに高齢者の増加に伴い購入される割体が増える傾向にある」「雑誌や週刊誌、書籍では世帯単位の購入頻度は二人以上世帯の方が上」「単身世帯における新聞以外は一様に紙媒体離れが起きている」など、業界を取り巻く現状・環境の再確認ができる。
今後他調査などで各業界の動向を精査する際にも、今回の結果が役に立つに違いない。
■関連記事: