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すでにネットは新聞を凌駕…新聞広告とインターネット広告の金額推移

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 広告額は媒体の公知力にも直結する。その値の変化は媒体自身の力をも指し示す(ペイレスイメージズ/アフロ)

新聞とネットの広告費の動向

業界動向を金額などの面から定点観測的に調査報告している経済産業省の特定サービス産業動態統計調査では、かつて新聞広告とインターネット広告は金額的にほぼ同じ、むしろ新聞広告の方が大きな市場規模を有していた。しかし時代の流れと共にその立場は逆転し、現在ではインターネット広告が優位な状態にある。今回は広告市場の変貌を端的に推し量れるこの立ち位置変化にスポットライトを当て、移り変わりの流れを確認していくことにする。

特定サービス産業動態統計調査ではインターネット広告は単独項目として登場するのは2006年1月以降。よってグラフ生成もそれ以降を対象とする。まずは取得できる全期間における推移。2006年1月以前にもインターネット広告はそれなりの額が動いていたはずだが、今件データとして収録されたのは2006年1月の80.3億円が初めて。一方同時期の新聞広告費は541.3億円。

↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)
↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)

インターネット広告は2009年までは「漸増」との表現が適切な上昇傾向だった。しかし2010年に入ってからは上下変動幅を大きくしつつ、全体的には上げ幅を拡大する流れにある。特に年末の12月と年度末の3月には大きく上振れするのが特徴的。消費一般もこの時期に拡大する傾向にあるため、より効果的な広告効果を狙うべく、機動力を有し柔軟性の高いインターネットに広告リソースを一層投入しているものと考えられる。またインターネット通販では3月と12月は大いに世帯単位での利用額が増加することから、連動性が高いインターネット広告へのリソース投入も連動する形で活性化すると推測すれば道理は通る。

一方、新聞は静かに減退。2010年に入るとようやく下げ止まった感はあるが、時折大きな減少を見せる。新聞の発行部数は減少を継続中で、今後再び大きく下げる方向に動く可能性は高い。

またインターネット広告と似た傾向として、新聞では毎年3月に大きく広告費が跳ね上がる。年度末から新年度にかけ、さまざまな環境の変化に合わせ、幅広い属性に向けた周知に期待ができる新聞に対する広告効果を狙った出稿増、特に新商品や雑誌の新刊などの広告展開がなされる結果と考えられる。

「新聞…下げから横ばい」「インターネット…漸増」との動きがあり、2010年半ば以降何度となく両者がクロスした以上、両者間の立ち位置がいずれ入れ替わるのは容易に想像できた。そして2013年に入ってからは、インターネット広告が新聞を上回る機会が多々生じている。

新聞とネットの広告費の値動きと「どちらが上か」を詳細に

インターネット広告費の上昇率が大きくなる2010年以降に限り、グラフを再構築したのが次の図。「インターネット広告費>>新聞広告費」を記録した月の、インターネット側の値の丸を黄色で塗りつぶしている。さらに差異が分かりやすいように、「インターネット広告」から「新聞広告費」を差し引いた結果の推移も併記した。この値がプラスの場合、「インターネット広告」は「新聞広告費」を上回っていることになる。

↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(2010年~)
↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(2010年~)
↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(インターネット広告の値から新聞の値を引いた結果)(2010年~)
↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(インターネット広告の値から新聞の値を引いた結果)(2010年~)

現時点で二者間の立ち位置が逆転、つまりインターネット広告の額面が新聞を超えた月は2011年3月に始まり、全部で56か月分(直近の2017年1月分まで)。2013年に入ると2月以降は継続してインターネットの優勢が続き、2013年11月と2014年1月にイレギュラー的に逆転現象が起きた以外は、インターネット広告が優勢の月が続いている(2014年2月以降36か月連続)。

直近における新聞優勢最後の月となる2014年1月分は、都知事選の影響が多分にあったことが観測されており、イレギュラー的な要因の結果と考えられる。また1月はインターネット広告の閑散月でもある。そのような事案が発生する以外においては、「従来型4マスメディアとインターネット」との仕切りにおいて、「市場規模で比較してテレビの次に来るのは新聞では無く、インターネット広告」との状況は、固定化されつつある。何らかのイベント的な出来事で、今後稀に新聞の広告費がインターネットのそれを抜く時期が生じる可能性はゼロではないが、全体的な流れを変えることは無いだろう。

メディアのすう勢を推し量る物差しの一つ「広告費市場規模」に関しては、事実上インターネットが新聞を追い抜いたと見て、まず問題はあるまい。

なお「単純に広告の掲載媒体が新聞からインターネットにシフトしただけでは」との考えもあるが、インターネットへの媒体シフトの可能性は主要4マス(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)いずれでも十分想定できる。そこでその主要4マスとインターネット広告の合計額を算出し、推移を確認したのが次のグラフ。

↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(主要4マス+新聞の値)(2010年~)
↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(主要4マス+新聞の値)(2010年~)

毎年年度末の3月と年末の12月に大きな盛り上がりができているのが特徴だが、それとは別に全体として少しずつではあるものの増加の動きを示しているのも確認できる。インターネット広告の登場と成長は他メディアの広告の奪い取りでしかないとの説明は難しそうだ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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