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心にとめてほしい五輪の意味

萩原智子シドニー五輪競泳日本代表
五輪の旗には、どんなメッセージが込められているのか(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

4年に一度の祭典

リオデジャネイロ五輪の開会式が行われ、4年に一度の戦いの幕が上がる。

南米初開催となる今大会は、史上最多となる205ヵ国の国と地域が参加し、約1万1000人のアスリートたちが躍動することになる。ベストパフォーマンスを見届けたい。

五輪の意味

五輪が開幕し、熱戦を繰り広げるアスリートへ注目が集まっているが、「五輪の始まり」、そして「五輪の意味」をご存知だろうか?近代オリンピックは、1896年ギリシャのアテネで始まった。

「近代オリンピックの父」と呼ばれるフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵は、「オリンピックの理想は人間を作ること、つまり参加までの過程が大事であり、オリンピックに参加することは人と付き合うこと、すなわち世界平和の意味を含んでいる」「人生にとって大切なことは成功することではなく努力すること」と五輪の意味、そしてスポーツの有り方、平和への想いを語ったと残されている。

五輪マークの5つの輪は、五大陸を表していると広く知られているが、五輪マークの本当の意味は、旗に込められていると言われている。旗に使用されている色、地の白、赤、青、黄、緑、黒の6色で、世界の国旗を網羅していると言われ、これもクーベルタン男爵の世界をひとつにする想いが込められているのだ。

小さな平和の積み重ね

五輪は、技や力、メダル数を競い合うだけではない。世界平和を祈念して始まった。今、世界のどこかで戦争や紛争が起こっている。とても悲しい事実だ。スポーツで何かを変えられるか・・・それはわからない。しかし私は、スポーツから、小さな平和を伝えていけると信じている。

私が出場したシドニー五輪で、ひとつの小さな平和を感じることができた。男子100m自由形予選に赤道ギニアのエリック・ムサンバニ選手が出場していた。私は彼の泳ぎを観客席で見て仰天。失礼だが、泳いでいるのではなく溺れながら進んでいるように見えた。50mを折り返し電光掲示板に正式記録が出た瞬間、私を含め、2万人収容の会場の雰囲気が変わった。

「彼は一生懸命にゴールを目指しているんだ・・・五輪の舞台で本気で勝負しているのだ。」気が付くと、会場全員が総立ちになり、エリック選手に声援を送った。人種も国も違う人々が、彼の一生懸命さに心を打たれ、声援を送った。たった一人の一生懸命が、2万人の心をひとつにし、動かしたのだ。この小さな平和こそが、五輪の本当の意味ではないだろうか。

平和を祈念して

リオデジャネイロ五輪でも、アスリートたちの一生懸命を見ることができる。同時に、平和を感じる瞬間も目にすることができるだろう。アスリートたちの真剣勝負に拍手を送り、メダリストを讃えるのと同時に、五輪の意味にも目を向けて観戦してほしい。観ている私たちにも、心に優しさがもたらされることだろう。

8月6日(日本時間)は、リオデジャネイロ五輪開会式であると同時に、日本では71年目の「広島原爆の日」を迎えた。リオデジャネイロ、そして広島から同時に世界平和を宣言したことに大きな意味があると感じている。

悲しく苦しい争いは、二度と繰り返してはならない。すべての国の人々が平和に笑顔で、思う存分スポーツが楽しめるような世界になってほしいと願う。

シドニー五輪競泳日本代表

1980年山梨県生まれ。元競泳日本代表、2000年シドニー五輪に出場。200m背泳ぎ4位。04年に一度引退するが、09年に復帰を果たす。日本代表に返り咲き、順調な仕上がりを見せていたが、五輪前年の11年4月に子宮内膜症・卵巣のう腫と診断され手術。術後はリハビリに励みレース復帰。ロンドン五輪代表選考会では女子自由形で決勝に残り意地を見せた。現在はテレビ出演や水泳教室、講演活動などの活動を行っている。

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