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韓国SUPER JUNIORのリーダー、SMAP解散報道に「だめよだめだめ…」

韓東賢日本映画大学教員(社会学)
2011年の世界ツアー「SUPER SHOW4」当時。一番右がリーダーのイトゥク(写真:ロイター/アフロ)

解散報道に「だめよだめだめ…」

「SMAP解散」にまつわる報道が続いている。その真相については知る由もないが、私としてはとくに「アイドル先進国」日本を追いかけてアイドル文化を築いた韓国での反応が気になっている。それは、ファンもさることながらアイドル当人にも及んでおり、かねてからSMAPをロールモデルにしていると公言してきた韓国のアイドルグループSUPER JUNIORのリーダー、イトゥクは13日、自身のインスタグラムにSMAPの写真をアップし、#SMAPというハッシュタグとともに日本語で「#だめよだめだめ…」というハッシュタグをつけた(Twitterにも同報)。もちろん、SMAPの解散について「だめ」だと言っているのだ。

1988年に結成されたSMAPは、今年で結成から28年になる。一方、2005年に結成されたSUPER JUNIORは今年で結成から11年だ(なおこの「時差」は、「半圧縮近代化」の日本と「圧縮近代化」の韓国における近代化スピードの差として語ることもできるだろう)。大手事務所からデビューしたものの当初はパッとせず、お笑いの要素も含むバラエティ番組的な仕事から「面白さ」で人気を拡大していったことなど、両者には共通点が多い。バラエティや報道番組への出演や司会はもちろん、映画やドラマでの演技も含め、個人活動の幅は今も引き続き広い。

共通性と「兵役」という問題と

ただ、両者で大きく異なるのは、「兵役」の問題だ。韓国では成人男子に2年間の兵役が義務づけられており、もちろんアイドルにとってもそれは例外ではない。10年選手のSUPER JUNIORは現在11人のメンバー中、4人が兵役を終えて復帰、5人が服務中だ。さらに2人が近い将来の兵役を控えている。そのため、グループ全体としてのアルバム発売やツアーは停止している状態だ。

とはいえ、全国区の人気を維持しながら複数のメンバーが兵役を終えて復帰し活躍しているグループは韓国初と言ってよく、全員が兵役を終えるはずの3~4年後の完全復活とその後の継続を信じて疑わないファンは多い。いやファンだけではないだろう。2012年7月に放送された韓国tvNの「Saturday Night Live Korea」では、本場SNL顔負けの身体を張ったアダルトなコメディとともに、50年後の2062年に80歳台を目前にした高齢アイドルとして歌謡番組に出演するという設定のコントを披露し、好評を博した。それは、ファンタジーではなくある種のリアリティあってのことだったように思う。

30年近く最前線にいるロールモデル

全員アラフォーの今も現役であるのはもちろん、デビューから30年近く、芸能界の最前線でアイドルを続けるSMAPは、そんな彼らのロールモデルだった(ちなみにSUPER JUNIORは全員アラサーだ)。キムタクが2000年にジャニーズの現役アイドルグループのメンバーとして初めて結婚したが、SUPER JUNIORのソンミンも兵役を前にした2014年12月、所属事務所SMエンタテインメントの現役アイドルとして、いやおそらく韓国で現役の人気アイドルとして初めて結婚した。

このようにSUPER JUNIORには、SMAPがやっているのだから大丈夫といったような、SMAPが切り開いた道を歩いているようなところがある。兵役を終えてなお万能MC、バラドルとして引っ張りだこのリーダー、イトゥクの、SMAP解散報道を受けた「だめよだめだめ…」というつぶやきは、そのような気持ちをよく表わしているように思えた。

今回のSMAP解散報道で、このようなことも念頭におきつつ2011年に書いたコラムのことを思い出した。SMAPの今後、そして日韓アイドル文化の今後がどうなるかはわからないが、転載するのでご笑覧ください(とはいえ2016年現在、EXILEの所属事務所LDHは韓国の成功に学んでさらにその次を作っているように思う)。

2011年放送の密着ドキュメント

「さまざまな分野の第一線で活躍中の一流の『プロ』の仕事を徹底的に掘り下げる新しいドキュメンタリー番組」(番組サイト)として、毎週月曜午後10時から放送されているNHK総合全国ネットの『プロフェッショナル 仕事の流儀』。(2011年10月)10日は、今年デビュー20周年を迎えた日本を代表するアイドルグループ、SMAPを特集した特別編で、9月に初の海外公演として行われた北京公演とその舞台裏をハイライトに、被災地でのイベントの様子やメンバーそれぞれのインタビューを織り交ぜた、「5人のいまを追う、初の長期密着ドキュメント」(同)だった。

舞台裏の真摯な姿に感心するとともに、もっとも興味をひかれたのは「結成以来、順風満帆ではなかったという『心の軌跡』を5人が激白」(同)したというインタビューだった。なかでも印象に残ったのは、メンバーたちが口々に語っていた「自分らは別にたいしたことやってない」(木村拓哉)といった発言だ。それこそが、「SMAPをSMAPたらしめている強烈な自覚」(ナレーション)なのだという。

アイドルはファンタジーの投影先

「ダンスならダンサー、お芝居だってそれ一本でやっている人には僕らはかなわないので、じゃあ何かって言ったら、それでも、下手でもやっぱり一生懸命頑張るしかないっていうか。だからつねにそこは全力で頑張っているところを見せていかなきゃなと思います」(稲垣吾郎)。「僕らは微力なんです。何もできないんです。でも、明るく元気なSMAPを知ってくれている人がいる。その人の、一瞬の笑顔のために20年やってきた」(香取慎吾)。

これこそが、歌、ダンス、演技、トークなどの技能を提供するという意味でのプロフェッショナルなアーティストとは違う、プロフェッショナルな「アイドル」としてのエンターテインメントの本質なのだろう。アイドルが提供するのは、結果や成果という「中身」ではなくプロセスやストーリーといった「フレーム」なのであり、ファンはそこに自らのファンタジーを投影する。ファンにとってアイドルは、自身のファンタジーそのものなのだ。少なくとも現在の日本のアイドルはそのような存在であり(AKB48はその最たるものだろう)、その意味でアイドルは正しく「メディア」だと言えないか。

アイドル先進国日本に学んだ韓国

ところで、このようなアイドル文化を作ってきたアイドル先進国日本で、現在、K-POPがブームになっている。韓国のアイドルたちは、このような日本のアイドル文化に学びつつも、「中身」の部分も妥協せず磨きあげることでグローバルな戦略を成功させているように見える。ただ後進だけあって(男性の場合は徴兵制の影響もあるようだが)、20年選手のSMAPのような長寿グループはまだ生まれていない。

日韓のみならず、世界中の人々にファンタジーを託すあて先への欲望がある限り、メディアとしてのアイドルは今後も形を変えながら生まれ続けるのだろう。楽しみでもある。

(『週刊金曜日』2011年10月21日付「メディアウォッチング」)

Super Junior "Devil"

日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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