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日本のバラエティ番組は世界に売れる、バカバカしいだけじゃない

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
日本の人気バラエティー番組がカンヌのテレビ見本市で一定の評価を受けている。

「日本のバラエティ番組は世界に売れる。」世界100か国からテレビ局や制作会社が集まる仏カンヌのテレビ見本市MIPに足を運ぶたびに思うことだ。一見してバカバカしくも実は緻密に作られた日本のバラエティが実は海外マーケットで一定の評価を受けている。

海外バイヤーにウケる日本のバラエティ

『SASUKE』(TBS)の海外版は165の国・地域で売れ、現地版の展開は11か国に上る。『\マネーの虎』(日本テレビ)はイギリスBBCでシーズン14、アメリカABCでシーズン8の放送を控え、世界27の国と地域で長期にわたって制作・放送されている。これら世界展開の代表例の他にも例えば、『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)は中国版がある。地域によっては“終電を逃す”という設定が理解されにくいものの、世界のバイヤーを前に行われたプレゼンテーションで番組映像が流れた時、会場の反応は高かった。「家について行った先で、人生ドラマを垣間見ることができる作りがリアリティショーとして面白い」とバイヤーが話していた。

また今年4月のカンヌでは、注目の新作としてフジテレビの番組が上映された際、拍手される場面もあった。番組は陣内智則や足立梨花らが出演し、「悩める日本人の背中を押して応援する」といった内容のもので、タイトルは『THEプッシュマン』。「亡き夫の顔を特殊メイクで完全再現して願いを叶える」という1コーナーを海外向けに開発された。番組VTRが流れ始めるや否や、反応は早く、1000人収容の会場内でどよめきがあちらこちらから湧き起こり、衝撃を与えている様子が容易に感じ取れた。映像の終わりには自然と拍手が送られた。これは「国境を越えて理解できるネタであり、ありそうでなかったインパクトのある新しさ」に対する反応だった。22本の番組VTRが流れた中で拍手があったのはこの番組だけだったことも評価を上げた。

クリエイティビティは視聴率争いから生まれた?!

では何故、日本のバラエティが世界で売れているのか。その理由の一つに、売り方が大きく関わっている。国際的にはバラエティの売買は番組のエッセンスを抽出したフォーマットセールスと呼ばれる方法が主流で、売れた先では番組に出演するのはその国のタレントら。その地域に合わせて制作し、放送されるやり方によって日本の番組も売れるのだ。国に合わせてローカライズされた仕様がある車や家電と同じような売り方である。

逆の例としては職業ものリアリティショー『アンダーカバー・ボス』(日本語タイトル『覆面リサーチ ボス潜入』NHK)がそうである。イギリスで今、最も勢いのある制作会社All3メディアが手掛けたもので、世界中で現地版が作られている世界ヒット番組だ。かつて人気を博した『クイズミリオネア』(フジテレビ)も当てはまる。番組ルールや司会者のキャラクター、番組で使用する音楽までフォーマットに従って制作され、放送された。

世界で売れる理由はもうひとつある。売上額が数千億規模のテレビ局が5局も横並びでしのぎを削って視聴率争いを繰り返してきたことも影響している。それがいいか悪いかは別の問題になるが、分刻みで結果が数字に表れるシビアな環境下で、新たな番組アイデアを絞りだしてきた。ひとつの番組でいくつものコーナーを展開するような作りも視聴率争いから生まれたかたちだ。他の国ではなかなか見当たらない。「新しさ」や「オリジリティ」が求められるマーケットでは、こうした日本の特殊さが逆に、“日本はクリエイティビティ溢れる国”として評価されている。

しかし、それは日本に限ったことでもなく、ライバルは多い。中東の小さな国、イスラエルは世界ヒットを次々と飛ばす勢いがある。押しの弱い日本と比べて、番組のセールス戦略は抜け目なく、「決して安売りしない。費用対効果を謳うのももってのほか。番組の中身に目を向けさせれば必ず売れる」と言い切るほど強気である。この言葉に負けないインパクトのある番組を実際に持ち込んでいるから脅威である。例えば、イスラエルのヒットメーカーArmozaが4月の新作に持ち込んだ『Date In Reverse』という番組は、いわゆるお見合いものだが、タイトル通り「真逆」のプロセスでデートが進んでいく。男女2人が戸惑いながらも番組ルールに従って、ベッドの上ではじめて互いのことを知る場面からスタートし、すぐさま結婚式が始まる。こうした斬新な発想の番組がイスラエルには多い。

また「ノルディック」のブランドイメージをしっかりとマーケットの場で浸透させている北欧連合は、徹底した独自路線の番組が多い。硬派な男女がサバイバルに挑戦する王道のものは作らず、敢えてダメ男にフォーカスし、「サバイバルを通じて男になる成長過程を楽しむ」といった内容の番組『Wimps In The Wilderness』を作る。動物ものがもてはやされれば、出演者全員が動物のマスコットに扮してスポーツを展開するシュールな番組『Mascot Mania』を企画する。イスラエルも北欧勢もお国柄を活かした攻め方だ。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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仏カンヌの番組見本市MIP取材を10年以上続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動する筆者が、ストリーミング&SNS時代に求められる世界市場の攻め方のヒントをお伝えします。主に国内外のコンテンツマーケット現地取材から得た情報を中心に記事をお届け。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、独自の視点でコンテンツビジネスの仕組みも解説していきます。

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