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テラハも深夜食堂もNetflix、日本上陸1周年の影響いかに?

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
フジ地上波でも放送中のNetflix『ハウス・オブ・カード 野望の階段』。

リアリティーショー『テラスハウス』のNetflix版最終回の盛り上がりのタイミングで新シーズンが発表された。この秋は固定ファンが多いドラマ『深夜食堂』もNetflixオリジナル版が配信される予定だ。現在、代表作の『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の全4シーズンも一挙配信中と話題が続く。日本上陸1周年を迎えたが、その影響はいかに?

フジのネット戦略、火花も深夜食堂も世界に同時配信

「黒船」と例えられたNetflixが昨年9月に日本でサービス開始してから1年が経つ。目玉のひとつとして始まったNetflixオリジナル版『TERRACE HOUSE BOYS&GIRLS IN THE CITY』は話題にもなり、11月から配信される次作の舞台は日本を離れてハワイになる。そもそも『テラスハウス』は深夜帯でも放送すれば二ケタ近くの視聴率が取れた番組。それを敢えて地上波でなく、Netflixで先行配信した背景には、視聴率競争に苦戦するも若年層の数字は死守するフジテレビならではの戦略がある。ネットにも可能性を求め、人材をネット展開に強化していることからもそれが伺える。

また第153回芥川賞を受賞、累計発行部数251万部の又吉直樹原作というヒットの要素が詰まった『火花』ドラマ化の出口に、吉本興業がNetflixを選んだことも当然の流れとも言える。吉本興業は独自のやり方で早くから海外展開の道を探っているプロダクションであり、国内だけでなく、国外にもビジネスの場を求めているなかで、Netflixに答えが行き着いたのだろう。『火花』は9月16日からHDR配信も始まった。

ドラマ『深夜食堂』も10月21日から『深夜食堂-Tokyo Stories-』としてNetflixで世界190か国に同時配信される。『深夜食堂』と言えば、言わずと知れた深夜発のヒットドラマであり、食ドラマ先駆けの作品だ。今年11月に映画『続・深夜食堂』の公開を控えるなか、ドラマの新シーズンがNetflixで始まる。

このケースも地上波でなくNetflixであることに注目すると、製作委員会の中心であるアミューズは2010年に上野樹里主演の映画『のだめカンタービレ』を韓国で配給し始めたあたりから海外展開に着手し、早くからドラマ制作の可能性を海外に目を向けているプロダクションである。既に『深夜食堂』はアジア各国でも人気を集め、韓国、中国でドラマのリメイク版が作られている。だから、今このタイミングでの新シリーズの展開は世界に配信プラットフォームを確保するNetflixだったのだろう。

ディズニー、ワーナと横並びになったネット配信勢

例えば、『ドクターX』や『天皇の料理番』、『家政婦のミタ』など日本でも評価の高いドラマに対して、海外の番組バイヤーから「脚本がおもしろい」という意見をよく聞く。しかし、続けて「実際に購入することは難しい」と言われてしまうこともしばしある。

その理由によく挙げられるのは話数の少なさや尺。つまりこれまでも繰り返し書いているが、日本のドラマは海外の放送局の編成上のフォーマットに合わないことが多かった。国内マーケットだけを視野に入れて制作するだけで十分の市場があるゆえだが、海外の放送局にとっては買いにくい事情を作り出していた。

また制作段階で「海外に売ろう」とは考えていないことから、音楽などの著作権の問題や出演者の許諾の処理なども後出しジャンケンで行われるため、時間がかかることも多い。DVD化が実現できない作品があるように、海外売りも厳しいケースがある。「見返りの見込みがないまま、煩雑な許諾処理や字幕作業を行う海外売りに対して、社内の理解を得るのが厳しい雰囲気もある」という話を各局から聞いてきた。

しかし、ここにきて状況は変わりつつある。デジタルファーストで勝負に出たNetflixのオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード』の成功が流れを変えた。2013年の公開当時、オリジナルコンテンツを世界に一挙同時配信し、またサービス外の地域では放送やDVDの展開もほぼ同時進行で行うなど、従来のウィンドウ戦略に囚われないやり方が業界にインパクトを与えた。それから番組コンテンツの流通市場ではNetflixやAmazonの立ち位置が変わり、ディズニーやワーナー・ブラザーズなどと横並びになったのが印象的だった。

と同時に、日本のドラマもネットに販路が広がったと言われるようにもなった。事例はまだ少ないが、制作段階から世界展開がみえることから、制作スタッフ、キャストの意識も変わり、協力体制が敷かれやすい。日本のドラマが海外に売り出す時にネックだった話数や尺の制限もない。

だからもう日本のドラマは売りにくいとは言い訳ができなくなりそうだが、世界的にはトレンドのトルコドラマがNetflixと大量契約されたというニュースなども入ってくる。ライバルは多いが、Netflixにしろ、Amazonにしろ、門戸は常に開かれているようだ。影響はじわじわと広がっている。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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