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2014年の天文・宇宙の話題を総括

縣秀彦自然科学研究機構 国立天文台 准教授
ALMA望遠鏡が視力2000を達成 提供:ALMA(NAOJ、ESO、NRAO)

2014年を振り返る

昨年、2014年は「はやぶさ2」の打ち上げを除くと、天文・宇宙に関する話題が少なめの一年だったかもしれません。しかし、重要な出来事もいくつかありましたので、天文・宇宙に関する2014年を振り返ってみたいと思います。個人的に印象に残っているのは次の5つのトピックスです。

第5位.宇宙の始まり「インフレーション」の直接証拠発見か?

第4位.皆既月食や中秋の名月、「スーパームーン」など、大勢の人々が満月を眺める

第3位.「はやぶさ2」の打ち上げ成功 

第2位.ESAの彗星探査機「ロゼッタ」、彗星に着陸

第1位.ALMA望遠鏡、視力2000を達成

第1位.ALMA望遠鏡、視力2000を達成

アルマ望遠鏡(正式名はアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array =『ALMA』)は、南米のチリ共和国北部にある、アタカマ砂漠の標高約5000mの高原に建設された電波望遠鏡です。

ヨーロッパ、アメリカ、日本が中心になって2013年に完成した国際協力プロジェクトで、台湾や韓国も参加しています。

直径12メートルのアンテナ54台と7メートルのアンテナ12台の、合計66台の電波望遠鏡が、1台の大型望遠鏡と同じ機能を果たします。電波望遠鏡の強みは、星間分子雲や原始惑星系円盤のような、低温状態のガスの組成や運動を調べることにあります。 

ALMA望遠鏡は2014年10月には視力2000という画期的な分解能を達成しました。人の視力はどんなに目のよい人でも視力2.0ですが、目と目の間隔を広げていけば、さらにものを細かく見分けることができるようになります。これは大きな望遠鏡を作ることと同じで、分解能は望遠鏡の口径に比例します。

ALMAは66台のアンテナを自由に動かすことで、最大18kmの口径に等しい分解能を得ることができます。今回は、試験的に望遠鏡と望遠鏡の距離を15kmにして生まれたばかりの恒星を観測したところ、その恒星の周りで惑星が形成されている様子まで写し出すことに成功しました。この時の分解能が人間の視力に換算すると視力2000(角分解能0.035秒)という訳です。ALMAはミリ波・サブミリ波という電波の波長域で、最高精度の光学望遠鏡であるハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡よりも約10倍もの視力(高い分解能)を達成しました。

第2位.ESAの彗星探査機「ロゼッタ」、彗星に人類史上初の着陸

2004年にESA(ヨーロッパ宇宙機構)が打ち上げた彗星探査機「ロゼッタ」が、10年間の太陽系の旅の後、2014年11月12日に、当時、火星よりも外側にいて太陽活動の影響をほとんど受けない状態にあった短周期彗星、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の地表に着陸機「フィラエ」を投下しました。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は、公転周期が6,57年。この彗星は2つの彗星がゆっくりとぶつかって、そのまま結合してしまったかのような構造で、一見、アヒルのオモチャのような奇妙な形をしています。

ESAの研究者たちは慎重にフィラエの着陸地点を選定し、ロゼッタの動きをチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の動きにぴったりと合わせ(これをランデブーと言います)、着陸機フィラエをゆっくりとロゼッタから切り離し、自律航法にて彗星に着陸させたのです。こうして、フィラエは人類史上初の彗星に着陸した探査機となりました。

しかし、予想以上に彗星表面が堅かったためか、フィラエは着陸予定地でバウンドして、ちょうどクレーターの底、日陰の部分に着陸してしまいました。このため、太陽電池パネルでの電源の供給がストップし、着陸して2日間の活動の後、仮眠状態に入りました。彗星と太陽の位置関係が変わって太陽からの光がフィラエに届けば、表面での調査活動が再開するかもしれません。

フィラエは彗星に着陸する際、彗星の大気中に有機物のガスが存在することを検知していました。今後のESAからの発表には注目です。なぜなら、アミノ酸検出のニュースが流れる可能性が残されているからです。

フィラエと彗星の周囲を回りながら観測を続けているロゼッタは、彗星表面の詳しい構造や彗星の組成を2015年中もさらに詳しく調べてくれるものと期待されています。

第3位.「はやぶさ2」の打ち上げ成功

4年前、世界で初めて小惑星の微粒子を地球に持ち帰った日本の探査機「はやぶさ」の後継機、「はやぶさ2」が、12月3日午後1時22分に鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケット26号機で打ち上げられました。

「はやぶさ2」は、打ち上げからおよそ1時間47分後の午後3時10分ごろ、予定どおり、ロケットから切り離され、打ち上げは成功しました。

はやぶさ2は、さらに太陽系の起源・進化と生命の原材料物質を解明するため、C型小惑星「1999JU3」への着陸と、サンプルリターンを目指します。

小惑星には様々なタイプがありますが、主なものとしてはS型とC型です。イトカワはS型で、砂の成分、すなわちケイ酸化合物(シリケイト)が主な成分であることがその特徴です。

はやぶさ2が目指すC型小惑星は、S型小惑星よりも始原的な天体と考えられており、同じ岩石質の小惑星でありながら、有機物や含水鉱物を多く含んでいると予想されています。

太陽系の始原的な天体であるC型小惑星から採取したサンプルを分析し、太陽系空間にもともとあった有機物がどのようなものであったのか、またどのように太陽系の歴史と共に変化してきたのかを解き明かすことで、私たち地球上の生命の起源について何らかの手がかりが得られるものと期待されています。

はやぶさと異なり、はやぶさ2は、小惑星の表面にインパクターと呼ばれる弾丸を撃ち込み、人工的にクレーターを作ります。人工的に作ることができるクレーターは、直径が数メートル程度のものですが、衝突により露出した表面の内側から岩石サンプルを採取することで、宇宙風化や熱の影響を受けていない、新鮮な始原物質が手に入るのではと期待されています。

はやぶさ2は、1年後に地球でスイングバイ(惑星の重力を利用して軌道を変更する方法)を行い、加速した後、2018年半ばに小惑星に到着する予定です。そして1年半ほど小惑星を調査し、3回のタッチダウンを試みる予定です。その最後の回にインパクターを用いる予定で、その後2019年末頃には小惑星を出発、2020年末頃に地球帰還の予定です。

さて、はやぶさ2が持ち帰るカプセル内には、アミノ酸のような有機物が含まれているでしょうか。期待を込めて応援していきたいと思います。

第4位.月に注目の集まった一年

10月8日の皆既月食や9月の中秋の名月、俗にいう「スーパームーン」(7月、8月、9月)など大勢の人々が満月を眺める年でした。

第5位.宇宙の始まり「インフレーション」の直接証拠発見か?

南極大陸にて宇宙背景放射の観測を行っている、ある(BICEP2)プロジェクト(ハーバード大学他)が、宇宙の始まり「インフレーション」の証拠を世界で初めて捕まえたと2014年春に発表しました。電波の一部であるマイクロ波と呼ばれる波長で観測される「宇宙の晴れ上がり」の電波中にBモード偏光と呼ばれる現象を検出したのがその理由で、この現象は宇宙の始まり時の急激な空間の膨張現象=「インフレーション」の際に重力波が時空をゆがめることによって生じるものと考えられています。

この発見が本物であれば、宇宙論最大の謎の一つであるインフレーション宇宙の直接的証拠であり、一昨年のヒッグス粒子発見に次ぐような大発見でしたが、その後の国際的な議論では、観測誤差内に収まるデータではないかという疑義が持たれており、現在のところ、確実な発見とは言えないのが実情のようです。

インフレーションは昨年、文化功労者にも選ばれた日本の宇宙物理学者、佐藤勝彦先生が世界に先駆けて、1981年に(アラン・グースと同時期に独立して)発表した理論です。インフレーションを想定しないと現在のビッグバン宇宙論がうまく説明できないので、この証拠を観測的に導くことはとても宇宙論研究上とても重要な一歩と言えましょう。

インフレーションが証明されれば、アラン・グースさんと佐藤先生のノーベル物理学賞受賞は間違いないとも噂されています。

自然科学研究機構 国立天文台 准教授

1961年長野県大町市八坂生まれ(現在、信濃大町観光大使)。NHK高校講座、ラジオ深夜便にレギュラー出演中。宙ツーリズム推進協議会代表。国立天文台で国際天文学連合・国際普及室業務をを担当。専門は天文教育(教育学博士)。「科学を文化に」、「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。

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