Yahoo!ニュース

E3 2013報告 ゲーム機の新時代は保守主義

平林久和株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト
米・ロスアンゼルスでE3開催

■プレイステーション4の評価高い

世界最大級のゲーム国際見本市、E3 2013が開催されている。注目の次世代ゲーム機がビジネスシーンでデビューしたが、結果はプレイステーション4の評価が高かった。

現地時間で6月10日午前、マイクロソフトはXbox Oneの発売予定価格が499ドル(USドル)であることを発表した。同日夕刻、これを迎え撃つかのように、ソニー・コンピュータエンタテインメントはプレイステーション4が399ドルと発表した。メディア向け発表会の盛り上がり、ソフト開発者たちの期待の声もプレイステーション4のほうが勝っていたと思われるが、はっきりと明暗を分けたのは価格の差だ。100ドルの差は大きかった。

プレイステーション4の価格を発表した際のスクリーン
プレイステーション4の価格を発表した際のスクリーン

ところで次世代。ゲーム機が世代交代すると、どんな変化が起きるのか。わかりやすく言うと、実写とほとんど変わらない映像が再現できる。今年のE3は、出展ソフトのほとんどが写実性を追求しているという特徴がある。逆にマリオに代表される記号的なデフォルメキャラクターが登場するタイトルは、例年と比べて少ない。今回発表されたゲームは、光線の変化、煙、水滴が実写とかわらないほどの緻密さで描かれていた。見た目においてリアルになるために、次世代ゲーム機が粒子単位の演算を行なっているのだ。

ただし、力作が並んでも実写との違いを感じるのは人体だ。人間の歩行や顔の表情をCGで描くのは難しいとされてきたが、この難問をすべて解決したわけではない。背景は映画のようだが、人間を動かしてみるとゲームの動きをする作品も目立つ。今年から向こう2年、3年、5年の間。「ゲームソフトのグラフィックが良い」は、人体の表現がすぐれていることと同義になるだろう。

■存在意義を守るために

専門的、かつ観念的になるが、他メディアが伝えていないことを述べたい。今年のE3が発信した見えざる信号は何だったのか。話は飛躍するようだが、それは保守主義だ。

歴史を振り返ると、家庭用ゲーム機は常に革新を目指していた。旧世代の技術は古くなったために新技術と入れ替える。過去の遊びは飽きられたので、新しい遊びを創造しようとする。それまでの半導体(ロムカセット)を否定して、CD-ROMで成功したプレイステーション。それまでのコントローラ操作を刷新して、触るゲーム機になったニンテンドーDS、振るゲーム機になったWii。これらは革新の精神から生まれた成功例だ。複数のゲーム機が市場で競うときは、どちらの革新が良いのかをメーカーは訴え、ユーザーは選択してきた。ゲーム機戦争とは、すなわち革新勢力同士の戦いだった。

しかし、節目がやってきたようだ。現状の問題点を指摘することの延長では、良い製品が生まれないとしたら、発想を転換する。現在を否定しない。逆に、現在を肯定するところから製品を考える。ムダな改革を遠ざける。実現不可能な夢に酔わない。そのかわりに実現できることをとことん追求する。この姿勢を保守主義的と呼んでいる。

保守というとまったく変化が起きないようだが、けっしてそういう意味ではない。守るべき本質を守りぬくためならば、それを阻害するものは大改革しようとする。それもまた保守主義の性質だ。保守政党はすべて現状維持を目指すわけではなく、保守を堅持するために憲法を変える意欲を持つ、という例もある。ここで言う保守とは、存在意義の保守で、同時に手段の改革者を意味する。

昔も今も新型のゲーム機は、旧型と比べて変わらない部分と変わる部分がある。つまり、一部に変化があることでは同じだが、重きの置き方が異なる。革新の思想から生まれたゲーム機は、変わった部分を重んじる。だが、保守の思想から生まれたゲーム機は、変わらない部分を重んじる。

話を具体的にしよう。前述したプレイステーションはCD-ROMを重んじた。ニンテンドーDSは「触る」、Wiiは「振る」操作を重んじた。だが、今年の次世代ゲーム機、特にプレイステーション4は美しい画面を見ながらコントローラを操作する。テレビゲームというものの、普遍的な価値を高めることに重きを置いているように思えるのだ。

なぜ、保守主義を選んだのか。類推するに、次世代ゲーム機は革新の道が最初から閉ざされていたからだろう。現状のゲーム機で最も変革すべきことは何か。ソフトの容量だろうか、インタフェイスだろうか。違う。改善点すべき点はいろいろあるが、今、顧客が一番不満に思っている点は「有料」であることだ。

世の中には「無料」で遊べるゲームが無尽蔵にある。ゲームをするために、わざわざお金を払うの? という声があちこちから聞こえるご時世である。ではこの風潮になびいて、家庭用ゲーム機とソフトを無料にしたら、それは革新ではなく自己否定、自滅だ。であるならば、中途半端な革新をやめて、製品をつくる根本思想から変えた。現在を肯定する姿勢でつくったのが、2013年の次世代ゲーム機ととらえている。

家庭用ゲーム機の市場環境は、日本ですでに多くのマスコミが伝えているように厳しい。今までのように右肩上がりではない。わざわざ述べるまでもなく「無料」のゲームは、やはり強い。しかし、次世代ゲーム機は、選べる範囲のなかで正しい選択をしたのではないだろうか。はっきりと言葉にして語られることはないが、保守主義。ひらたくいうとゲーム専用機としての開き直りが、想像していた以上に好感をもって迎えられているE3 2013だ。

株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト

1962年神奈川県出身。青山学院大学卒。ゲーム産業の黎明期に専門誌の創刊編集者として出版社(現・宝島社)に勤務。1991年にゲーム分野に特化したコンサルティング会社、株式会社インターラクトを設立。現在に至る。著書、『ゲームの大學(共著)』『ゲームの時事問題』など。2012年にゲーム的発想(Gamification)を企業に提供する合同会社ヘルプボタンを小霜和也、戸練直木両名と設立、同社代表を兼任。デジタルコンテンツ白書編集委員。日本ゲーム文化振興財団理事。俗論に流されず、本質を探り、未来を展望することをポリシーとしている。

平林久和の最近の記事