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花巻東、千葉のカット打法の賛否

本郷陽一『RONSPO』編集長

花巻東の千葉翔太のカット打法が準決勝で事実上禁止された。

対鳴門高戦では、ファウルで粘って5打席で、実に41球を相手投手に投げさせたが、その一部のカット打法が、「高校野球特別規則・17」に抵触すると判断された。これは高校野球の特別ルールで、「バントとはバットをスイングしないで内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルするような、いわゆるカット打法は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある」とされている。千葉が、バットのグリップを空けたバントの構えからバスターエンドランのように持ち直してカットした打球の一部が、審判員にバントと判断されたようである。つまり、その場合は、スリーバントでアウトというわけで、事前に注意を受けた千葉は、この試合で、一切、カット打法を使わなかった。高野連は、カット打法自体を禁止しているわけではないが、おそらく監督と相談の上で自粛したのだろう。

では、カット打法は、それほど許されない技術なのだろうか。

私は、今年、カット打法、ファウル打ちの名手と言われている中日・井端弘和と、長時間にわたって、その奥義について話を聞く機会に恵まれた。

そもそも井端の場合、「空振りをしない」というポリシーが原点となってファウル打ちにつながったというが、堀越高校時代からカット打法に取り組んでいて、亜細亜大では監督から「ファウルを打つ練習をしろ!」と厳命をされたという。

「ファウルの重要性を教えられましたが、それを実際に意識してやり始めると、フェアゾーンに飛ばす方が簡単で、狙ってファウルを打つことは難解なテーマでした。ファウルを打つために、こうすれば正解だというバッティング技術の方程式はないんです」

彼は、そう語っていた。

そして、ファウルの使い方には、色んなパターンがあると教えてくれた。

「あえて相手投手のウイニングショットを待つために、ファウルをしながらで配球を追い込む。追い込まれたら絶対に投げて来るというボールを待つためにあえてファウルで粘るというケースもあります。ファウルをしていくうちに『次はこのボール』というものが読めてきて、そのボールを仕留めるときもあります。またファウルで粘りながら、四球という出塁を選ぶケースもあるんです。ファウルで粘ることは相手投手を消耗、疲弊させます。球数も投げさせることにもなり、気分をイラつかせ、ボクシングのボディブローのように効き、目に見えぬダメージを与えていくことになるんですよ」

私は、井端の説明に耳を傾けながらカット打法の奥深さに引き込まれた。井端が、アマチュア時代から培った技術は、プロの世界で2番打者として生きるための立派な術となった。

チーム貢献が、勝利のための最大公約数とされる高校野球において、2番打者がカット打法を駆使できるなら、理想的なつなぎの打者となれる。監督も、千葉のような出塁率が高いバッターが2番にいれば得点がイメージしやすかったはずだ。

井端でさえ、カット打法を身につけるのに何年もかかった(実はプロに入ってから仁村徹2軍監督=現楽天チーフコーチ=から新たなヘッドの使い方を教えられている)。1m56の千葉選手が、強豪、花巻東でレギュラーポジションを獲得するために、カット打法の会得を目指して、ここまでの高い技術を手にするために想像を絶する鍛錬を積みあげてきたのだろう。彼が、この日、流した涙には、自分の3年間の努力が全否定された悲しさややりきれなさが詰まっていたと思う。

ただ、一方で、今回の高野連の処置が正しいと見る向きもある。 

前WBCコーチの高代延博氏は「バントと取られかねない紛らわしい動きがあった。井端や阪神の赤星が打っていたようなファウルとは質が違っているように見えるものがあった。厳しい言い方をするようだが、スキをつく野球と汚い野球というものは似て非なるもの。もし、大リーグでああいうプレーをすれば、間違いなく相手にぶつけられるでしょう。つまり野球とは、ある意味、正々堂々とした技術の交換の場であるべきなんです」と言う。

千葉は、プロでも禁止されている二塁からサインを送るという行為をして注意をされていた。勝つために、あらゆる努力と手段を使うことは間違いではない。だが、そこには守らねばならないルールと野球界特有のコンプライアンスはある。その線引きを間違ってはならないし、その努力と手段のベクトルが横道に逸れないように管理するが、監督の仕事だろう。花巻東の監督は、「高校野球特別規則・17」に抵触することのないような技術チェックをしておくべきであったのかもしれない(おそらく、そのルールの存在を知らなかったのだろう)。花巻東の指導体制に甘さがあったことも確かだろうが、私は、今回の高野連の対処については、いささかの違和感を覚える。実際、規則の抵触について、どんな物言いをしたのかは知らないが、結果、千葉というプレイヤーの個性や、努力を踏みにじるような対処になってしまったのではなかろうか。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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