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現役原発作業員が現場の実態を告白!

堀潤ジャーナリスト

2011年3月の原発事故以来、過酷な収束作業の現場から作業の実態を一般に向け発信し続けてきた現役の原発作業員、ハッピーさん(@Happy11311)。事故発生から2年半でつぶやいた数は5000近くにのぼる。

収束作業は一体どの程度進んでいるのか?▼なぜ現場ではトラブルが絶えないのか?汚染水の実態はどうなのか?▼作業員達はどのような心境で収束作業に臨んでいるのか?▼Twitterに寄せられる一般からの疑問にも答え続けてきた。

そうしたTwitterの内容を元にあらたに再編集し書き下ろした著書『福島第一原発収束作業日記 3.11からの700日間』(河出書房新社)が反響を呼んでいる。東京都知事選挙でも、原発の是非は争点の一つだ。事故から間もなく3年。東電福島第一原発の収束作業員は今、何を思い作業を続けるのか---現場からの告発インタビューをお届けする。

ハッピーさん著書
ハッピーさん著書

■フラットな目線で、今起きていることを何の意図もなく書いた

---ハッピーさんは、原発事故以来、現場の作業員としてtwitterで発信を続けてきた訳ですが、なぜ今回本にまとめることにしたのでしょうか?

きっかけは去年、2013年の2月くらいにフォロワーの皆さんから「書籍化してほしい」というリプライが届く様になったんです。「書いてよ」「残してよ」という声が次第に多くの方から寄せられるようになりました。

『ルポ イチエフ――福島第一原発レベル7の現場』(岩波書店)の著者、布施祐仁さんに相談をしたんですね、「本の作り方を知らない」と打ち明けると、執筆作業から協力してくれました。

---執筆作業はどのように進められたのですか?

去年の3月くらいから本格的に原稿に向き合い始めました。まず自分の過去のツイートを読み返すところから始めたのですが、ちょうどその頃って、原発のニュースがほとんどなかった時期なんですよね。2月、3月、4月。さも何もなかったかのような状況。しかし、5月に地下貯水槽の漏洩問題があって、ようやく報道がまた始まったんですよ。

その後は、放射性核種を取り除く装置、アルプスが稼働できない状況が続いたり、タンクの貯水能力が追いついていなかったり、イチエフからの汚染水が海に流出していることもみつかり、次第に盛んに報道されるようになっていったのですが、僕がこの本を書きはじめたころは、ニュース番組でもほとんど報じられていなかったんですね。

このまま全然報道されなくていいのかなと。忘れらさられて、もう収束作業は終わっているようになっちゃってんじゃないかと。それに、住民帰還のための警戒区域はどんどん解除されるし、除染もどんどん進んでいって返されちゃうし、今の段階、今の僕の頭の中では脱原発とか推進とか、今の時点で議論するというところまでいかないんですよ。

僕はもう、目の前というか、今携わっているイチエフの収束作業と、今の地元の人たち、避難している人たち、今後汚染されている区域がどうなっていくのか、どうしなきゃいけないのか、自分に何ができるのか、というのが一番で、その問題をどうするのかという、それ以上のことは考えられない状態なんですよね。だからそこをまず何とかしたい、と。

汚染水の問題だって、今まで通常の原発でも低レベルの放射性物質は基準値を設けて流していたわけだし、今、トリチウムの処理が問題になっていますが、青森県六ヶ所村の再処理工場なんかでは、確か平成20年くらいだったと思うんですけど、当時、18兆ベクレルくらい流しているんですよね。

それは特別な措置としてやっているんですけど、そういう事実も知らされていない。今の僕らからすると、既に過去にそういうものが流されているんですよと、そういうことが国民になかなか知らされていない。国からすれば「公表していますよ」というスタンスなのかもしれませんが、大手メディアはそういう情報をなかなか流してこなかったので、大半が知る由もないですよね。

今、汚染水の問題で騒いではいるけれど、今までもそういうことがあったんですよ、というのを認識してもらいたいと。この40年程の間ずっと、原発が稼働してきたわけですが、小さなものから大きなものまでトラブルは過去にいくつもありました。原発業界というのは、常に「安全、安心」で来たわけではなくて、そういうトラブルも過去にあったんですよと。

これから再稼働するにしたって、原発を推進するにしたって、エネルギーの問題を議論するにあたってもね、もう一度きちんと情報を開示して、事象というかこれまでの事故やトラブルの情報を整理して、「これで本当に安全なんですか?」ということを進めていかなくえてはいけないんじゃないかなと思っています。

それと、本の最後の方に書いているんですが、今の流れでいくと、これから原発は再稼働してくだろうし、核燃料サイクルは止まらないと思うんですよ。それはやっぱり、日米原子力協定とか、プルトニウムの問題とかが背景にあって、そこにメスをいれる政治家がいないダメだと思います。

今のままだと、どうしても国内のエネルギーの問題とかCO2の問題とか、電気料金の値上げとか、庶民が注目するようなところにターゲットをあてて動いている、動かしているような流れなんだけど、本質はそこじゃなくて、日米原子力協定の問題、プルトニウムの問題、もんじゅの問題などにメスをいれなくては根本的な解決にはならないと思っています。そこにメスをいれる政治家が出てくるのか、ということを本の中でも書いています。

---今回の著書で何を一番訴えたかったのですか?

本を出すことについては、色々と言われましたが、フラットな目線で、今起きていることを何の意図もなく書いたつもりです。これを読んでくれた方々がどう思うのかは、それぞれの判断だと思いますが、今後も収束作業はまだまだ長く続くものですから、しっかりとやっていかないと、またいつどうなるかわからないというのもあるんです。

---というのは?

原子力技術の問題がまずあげられます。技術者がいなくなってしまうという懸念です。今、体制を見直さなくては間に合わなくなるという危機感です。

僕自身も年齢的に考えて、これから何十年もやれるわけではありません。いずれは次の人に引き継いでいかなければいけないと思っています。そのためには、この2年間の作業を振り返って、整理して、現状の課題を改善していかなくては引き継ぎ作業もままならない、という思いで本を書いたんです。

---ハッピーさんは常々、2年前と今の状況は変わっていないとおっしゃっていますよね。

この2年間で、延べ4000から5000程のツイートをしました。その全部を整理して振り返りながら、現状というのを2月から夏までの状況を見ながら色々なコメントを書き足していきました。本当は全てを残したかったのですが、ページには限りがあるので、残念だなと思いながら、そこから削っていきました。

僕が書き残したいと強く思ったのは、まず、「現場の作業員は頑張っているよ」ということ。そして「作業員たちを動かしている今の東京電力の体制じゃだめだよ」ということです。

体制的な課題を指摘して、作業員の作業環境を改善することをまず第一に考えました。編集を手助けしてくれたジャーナリストの布施さんは、僕のツイートのうち汚染水の問題を、編集者は作業員の生活や外からは見えない部分を、作業員さんがどんな気持ちで働いているのかを知りたいと言って、その部分をクローズアップして本に織り込んでいきました。

そして僕はまず、現場の作業員の奮闘を伝えたいなと。

■誰も想像だにしていなかった事態

---本の冒頭は、やはりあの日の水素爆発のシーンから始まるのですね。

つぶやき自体は2011年の3月20日からだったので、その前の部分というのはあまり話していませんでした。そこでプロローグとして、3月11日から3月14日まで、爆発のあったあの時までの様子を書きました。

---ハッピーさんは震災の時には、第一原発の構内で作業をしていたということですか?

はい。当日ももちろん作業をしていました。大きな揺れがあって、そのあとくるぶしまで、水がきました。

横8メートル、縦15メートルの燃料プールのふちから水があふれました。プールの水というのは、だいたいプールのふちから300ミリ下、30センチ下くらいなんですよ。だからあれくらいの揺れがくるとあふれてしまうんです。柏崎でも女川でもそうなんですが、大きな地震がくると水が溢れてしまうんです。

僕らも、慌てて水が階段室にいかないように新たにフェンスを設けたのですが、それも今回はあまり役に立たなくて・・・。1号機なんかは、そこからオペレーションルームに漏れちゃったりしてね。

それと、燃料プールのまわりにはもともと空調設備がプールの壁面についているんですよ。ダストが上にあがらないように吸い込んでいるんですけど、今回はそこに水が入って4階のダクトから漏れたっていうのが検証されているようです。プールの水はどの号機も漏れたと思います。

---その後、水素爆発も起きるわけですが、現場にいながらはどんな心境でしたか?

まさか爆発するとは夢にも思っていないんで・・・。今まで柏崎も女川もそうですが、けっこう大きな地震がきても、スクラムは、ドンといっちゃえば、止まると思っていました。ステーションブラックアウトというね、全電源が喪失されたらこうなっちゃうというのは知らなかったんです。

想定していたのは、非常用電源が稼働して冷却が再開されるというところまで。そこまでしか知識として持っていませんでしたから。認識もなかったんで、それがなくなったらどうするの? というところまでは考えていなかったんですね。東電の職員さんたちもそうだったと思いますが、誰も想像だにしていなかったですね。

---ハッピーさんは現場ではどのような立場なのですか?

その頃は、班長クラスでした。一班10~15人くらいをまとめていました。作業経験は20年以上になります。ただ、僕らも上から指示される通りに動くしかありませんでした。「ホースをもってきてくれ」など、言われるがままです。

ライン構成もどれが使えるのか、再稼働にしたって、全電源喪失した時に、今では注水をいれるラインを組んだりしていますが、当時はそれが詳しくわかりませんでした。少なくとも2ライン必要だと思うんですよね、直接炉内に入れるとか。既存の古い設備、BWRが本当に対応できるのかどうか、いろいろと心配でした。

---水素爆発の時にも中に?

はい。爆風と音がもの凄かったです。ドーンといって上から瓦礫が落ちてきて、びっくりしたんだけど、とにかくものが落ちてくる状況が長かった。このままいったら天井がぶち抜けて、それに当たったら死ぬなと。

いったい何が爆発したのかわかりませんでした。3号機が爆発したなんて想像もできなかったのですが、このままだったら死ぬのかなと思いました。どこかが爆発したんだろうなというのは分かったので。「瞬間的に死ぬな」という実感です。

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この後、インタビューは、汚染水漏れやトラブルがなぜ続くのか、東電福島第一原発の収束作業にまでしわ寄せがおよんだコストカットの実態などが赤裸々に語られる。続きは筆者の連載「現代ビジネス 堀潤の次世代メディアへの創造力」で。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2016年(株)GARDEN設立。現在、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」キャスター、Amazon Music「JAM THE WORLD」、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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