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知っていますか?もったいない話~国の2倍の約100兆円を使う都道府県と市町村~

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

国の行政経費は純経費で約50兆円(災害復興費を除く)ですが、地方(都道府県と市町村)は支払ベースで2倍の約100兆円を毎年使い続けています。

しかし多くの皆さんは年金の削減や医療費などの負担増には敏感ですが、これらと連動している地方政治には極めて無関心です。統一地方選挙が終わりましたが低投票率が物語っています。しかし、都道府県や市町村の運営経費に年金や医療・介護費に使われる所得税や法人税などが地方用として膨大に使われていることを御存知でしょうか。

<常勤職の知事や市町村長の給料は高額です>

知事職の給与は年収で約2200万円、政令指定都市(70万人以上)の市長は約1900万円、人口僅か6~7万人の市町長でさえ年収は約1000万円~2000万円。さらに1期4年間知事を務めると約4000万円の退職金が別に支払われます。市町村長も同様に高額の退職金が出ます。その他に交際費(年500万円~2000万円)があるうえ、出勤時には黒塗りの高級乗用車(センチュリーか2000ccクラス)が運転手付で迎えにきます。役所には数多くの秘書(3名~30名)が待っています。

民間に比較して高い給与ではないと思われる人もいると思いますが、知事や市町村長が何十億円の借入をしても何の責任を負うこともありませんし、業績の悪化なども考える必要はありません。かつて北海道の夕張市が倒産しましたが、市長にも議員にも責任は一切ありません。毎日を無難にさえ送っていれば安泰です。

皆さんも御存知のように中小企業の社長は借入金には個人保証が必要ですし、業績悪化の危険を背負い、仮に倒産でもしますと住居さえ担保にとられ、丸裸で社会に放り出されることになります。

<都道府県の議員や市町村の議員も高額な給料が支払われています>

地方議員(都道府県や市町村の議員)も諸外国に比較して高額な報酬が支払われています。都道府県の議員は平均年収が2000万円を超え、そのほか号泣記者会見(兵庫県議会議員)で有名になったように第2の給料といわれる政務調査費として年額600万円~1200万円が支給されています。市会議員も政令指定都市では都道府県議員とほぼ同様の額が支払われていますし、人口の少ない地域にあっても市議会議員は年額680万~850万円と高額です。町村議員は例外を除いて300万~400万円が支払われていますが過疎化が進む地方にとっては決して低い報酬ではありません。

専門職を意識してか、全ての会議は10:00~17:00の勤務時間内に開催されていますが、都道府県議会の定例会は平均98日、市議会で85日、町村議会では44日で、特に忙しいわけではありません。しかも知事や市町村長が提出した議案を50%がそのままOK、政策条例をひとつも提出しない議会は91%、議員の賛成、反対を明らかにしない非公開議会は84%にのぼっています。

日本は諸外国と比較して高額な報酬が支払われているため、地方議員の職業化が進み議員専業職が第一位(1/3)を占めています。諸外国では大多数が他に仕事を持ち、地方議員はボランティア活動だと言われています。このため報酬はなく、会議出席数の日当で支払われている場合が多いのです。日本とは異なり、会議は夜間や休日に行われています。

<日本の国家財政は最悪で世界一の債務国です>

日本の長期借入金(債務)はGDPの2倍(1000兆円)を超え、ギリシャより悪い世界一の大借金国です。そのうえ経常収支は現在も赤字を続けています。この対策として小中学校教員の大削減や年金のカット、医療費や介護費用における自己負担の増額が行われています。高齢化と人口減少の波が押し寄せている被災地の福島、宮城、岩手の災害復興費さえ、新年度から地元負担を求められています。

国家の2倍を要している地方の行政経費が財政悪化の大きな要因であるのに、多くの方々は地方政治に無関心であり、この現状に気づくことはありません。

<既得権益を守る人々>

諸外国の中で国家を上回る地方の行政経費を要しているのが国家規模の小さいカナダぐらいなもので外に見当たりません。そのカナダでさえ、財政の大改革を行い、赤字を克服しています。財政悪化を改善するためには国家の約2倍を要している地方財政の抜本的な改革が求められていますが、サービスと負担の原則が明確でない我が国では現状維持が続けられています。

首長(知事や市町村長)と議会はお互いの権益には批判の目を向けないことが不文律で、「口を出さない」・「手を出さない」として聖域化していますから内部からの改革は不可能です。大阪で挫折した「大阪都構想」は数多くの欠陥を含んでいますが、橋下さんが政治生命を賭けムダを省くためのシステム大改革に挑戦したことは間違いありません。しかし「大改革」を排斥しようとする多くの首長、特に党派を超えて結集し、全力で改革を阻止しようとした地方議員の姿が既得権益を守ることを象徴しています。

内部からの改革が不可能だからこそ、私達市民が地方政治に目を向けなければならないと思うのです。現在主張されている数多い財政健全化論議は全て、現行システムの維持を前提としているため、国民負担増やサービスの削減に終始しています。

<我が国の危機はオリンピック後の2025年「少子高齢化のピークと人口減少の加速」>

2020年に東京オリンピックが開催されますが浮かれてばかりいられません。オリンピックからわずか5年後の2025年には団塊世代の800万人が全て後期高齢者(75歳以上)となり我が国の少子高齢化はピークに達し、働く世代の減少が加速する一方、医療費と介護費は大幅に増額し一説には「医療システムの崩壊」さえ、ささやかかれています。

このような状況を打開するためには地方の改革を先行し、社会環境や行政環境にあった新たなシステムをつくりあげていかなければなりません。

私達の生活を守るためにも地方政治やそのシステムについて、真正面から考え、議論する必要があります。様々な改革は身近な日常生活の中から生まれることを信じています。

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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