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【ふるさと納税】自治体間競争の厳しさに背筋が凍りました

一井暁子一般社団法人つながる地域づくり研究所 代表理事
(写真:アフロ)

「地方創生」の裏テーマは自治体の生き残り競争なんだな、と思わされることが多い昨今ですが、「ふるさと納税」もその一つです。

金額や件数を総務省が公表しているので見てみたところ、競争のあまりの厳しさ、自治体間の格差の大きさに、背筋が凍りました。

まず、上位から見てみましょう。

ちなみに、ふるさと納税は、平成20年度に創設された制度ですが、平成25年度までは総額80~150億円程度でした。平成26年度に一気に約400億円に達し、平成27年度は上半期(4~9月)で既に450億円を超えています。

というわけで、ふるさと納税が活発になった、平成26年度と平成27年度上半期の上位5自治体をご紹介すると、こんな感じです。

【平成26年度】     

長崎県平戸市 14.6億円(36,067件)  

佐賀県玄海町 10.7億円(49,778件)  

北海道上士幌町 9.6億円(53,783件)

宮崎県綾町   9.4億円(62,991件)  

山形県天童市  7.8億円(58,289件)

【平成27年度4~9月】

宮崎県都城市 13.3億円(101,792件)

山形県天童市 12.2億円 (74,245件)

長野県飯山市  9.6億円 (43,632件)

長崎県平戸市  9.4億円 (22,345件)

山形県米沢市  8.6億円 (16,053件)

どの自治体も、10億円前後のふるさと納税を受けています。平成27年度下半期も同じペースで伸びれば、年間30億円、40億円という自治体も出てくるかもしれません。

都城市は前年度も9位、飯山市は同7位。玄海町は平成27年度上半期も13位、上士幌町は同11位、綾町は同12位ですから、いずれも常連と言えるでしょう。

それぞれに、返礼品を魅力的なものにしてバラエティを増やしたり、使途の明確化や透明化を図ったり、発信の強化やポイント制度の活用、パンフレットの制作、クレジット決済の導入、その他さまざまに工夫を凝らしている自治体ばかりです。

どこも大きな自治体ではありません。最も人口の多い都城市で16万8000人、最も少ない上士幌町はわずか4900人の小さな町です。しかも都道府県は一つも入っていません。

知恵やアイディアと、スピード感の勝利という印象です。

「うちは小さなまちで企業も少ないから」「田舎で情報が入らないから」…そんな言い訳は、通用しそうにありませんね。

財政面から見れば、平戸市の平成27年度当初予算(一般会計)は249億円、都城市751億円、上士幌町は61億円、綾町だと51億円ですから、収入増としてかなり大きなインパクトがあることが分かります。

例えば、町の税収(平成27年度当初予算:6.2億円)を上回る額のふるさと納税を集めている上士幌町では、ふるさと納税の使い道として、特に子育てや教育に力を入れています。

子育て・教育に使うことを指定された場合はもちろん、特に指定がない場合も、「ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金」に積み立てて、今後もずっと使うことができるようにしています。

具体的には、町立認定子ども園の保育料を平成27年度から10年間無料にしたり、子ども園に外国人講師を配置して、幼児期から英語や異文化に触れる環境を整えたり、高校卒業時まで(18歳になった年の年度末まで)医療費を無料にしたり。小学生へのタブレット端末の配付や、子ども園の裏庭には、ツリーハウスや井戸、池などがある「きぼうの森(仮称)」の整備も計画しているそうです。

一方、ふるさと納税が少ない自治体はどうでしょうか。

同じく平成26年度と平成27年度上半期について、ふるさと納税の金額・件数が、なんと、ゼロだった自治体があります。

しかも、平成26年度は28市区町村、平成27年度上半期は57市区町村も。(平成27年度は半年分なので、前年同期には109自治体もあったことを考えれば、少なくとも前年並みになるとは思われますが。)

逆から見ると、上位28自治体へのふるさと納税額は、平成26年度と平成27年度上半期ともに、全国約1800自治体の総額の約35%をも占めているという実態があります。

わずか1.6%の自治体が、全体の約35%を受け取っているのです。

平成26年度からふるさと納税の額が一気に増えたことから明らかなように、ここ数年のふるさと納税への注目度の高まりは、皆さんご承知の通りです。

全国の自治体の中で、制度の存在を知らないとか、激しい競争が展開されていることを理解していない首長や職員がいるとは考えられません。

各自治体の議会でも取り上げやすいテーマですし、非常に多くの議員がふるさと納税について質問していることも事実です。

それにもかかわらず、全く実績がない自治体があるというのは、どういうことでしょうか。

自治体として、何か明確な意志をもって、ふるさと納税には取り組まないことを決めているのかもしれません。

ふるさと納税にはそれほど重きを置いていない、という自治体もあるかもしれません。

残念ながら、こういった自治体に住んでいる方は、要注意です。

その自治体は、自分たちを取り巻く現実をちゃんと見て、財政状況や地域の将来について長期的に考える、ということができていない可能性が高いからです。

自治体間競争は既に始まっていて、自らの力で生き残ろうとしない限り、誰も助けてくれない時代になったことに、気付いていない自治体かもしれません。

10年後、いや数年後には、「あれ? なんでうちのまちって、周りのまちと比べてさびれてるの?」「他のまちに引っ越した方がいいかも…」という悲しい事態になっているかもしれません。

また、そうではない場合の多くは、日々の業務に忙殺され、ふるさと納税のために人員を割いたり、工夫を凝らした企画や発信をする余裕がない、というのが原因です。

実績ゼロの自治体には、町村など小規模な自治体が多く見られました。

少人数で大規模自治体と同じ業務を行うために、一人で複数の仕事を兼ねて担当し、住民との距離が近いだけに、日々の要望にもきめ細かく対応していかなければならない。

ふるさと納税が大事だとは分かっているけど、なかなか手が回らないんです、という声も聞きました。

そういう自治体の皆さんは一生懸命で、私も「そうですよね、無理ですよね」と言ってあげたくなりますが、そういうわけにはいきません。

でも、それでも、必死でやらなければ生き残れない時代になったからです。

同じような規模の自治体でも、成果を出しているところがあるからです。

護送船団方式で、最後は国が何とかしてくれる、という時代は終わりました。

とてもこわいことですが、自分が住んでいるまちが、ちゃんと生き残ろうとしているまちかどうか、知らないでいたら、最後に後悔するのは、あなた自身です。

一般社団法人つながる地域づくり研究所 代表理事

1970年生まれ。東京大学法学部中退。地中美術館(香川県直島)、岡山県議会議員などを経て、2013年、ローカル・シンクタンク「一般社団法人つながる地域づくり研究所」(岡山県岡山市)を設立。自治体と民間と住民をつなぎ、地方創生やまちづくりの現場を伴走支援する。「官民連携まちづくり推進協議会」「文化と教育の先端自治体連合」など、共通するテーマに取り組む、全国の自治体団体の事務局も務める。地域や自治体、企業の声を聞き、「しごとコンビニ」や「放課後企業クラブ」などの新たなしくみを生み出している。

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