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全日本男子バレー初の外国人監督「サトウジャパン」が始動、垣間見えた嬉しい変化とは

市川忍スポーツライター

5月21日、味の素ナショナルトレーニングセンターにて全日本男子バレーボール代表チームの記者会見と公開練習が行われた。6月1日から始まるワールドリーグに向け、そこにエントリーされる22名の選手の発表が主な目的だったが、メディアの注目はやはり4月に新しく就任したゲーリー・サトウ監督に集まった。囲み取材では多くの記者が監督の周りに集まり、通訳担当者の声も聞こえないほどだ。何といっても全日本男子史上初の外国人監督である。取材が集中するのもよくわかる。

サトウ監督の会見を通じての印象は、とにかく温厚。まさに監督が推し進めようとしている「準備を整えて賢くバレーボールをしよう」というテーマにぴったりの雰囲気である。いくつかのメディアの編集部に「新監督はどうですか?」と聞かれたが、「まだ練習や試合を見ていないので、なんとも言えない」と答えてきた。ただし、会見に続く公開練習を見学した限り、わたしは好印象を受けている。

実戦を想定した無駄のない練習

対人パスの開始時間までに体が温まるよう、アップは個人のペースに任せられている。選手の話によればスパイク練習なども、すべて実戦を想定した形で、たとえばクイックを打つミドルブロッカーとパイプ(センターからのバックアタック)を打つ後衛のウィングスパイカーの練習は1セット。どちらも「自分にトスが上がるつもりで全力で助走に入れ」と言われたそうだ。今までそうしてこなかったことにも驚いたが、ここで過去のことを蒸し返すのは時間の無駄なので省く。とにかく合理化された練習は、時間は短いものの中身は濃いとのこと。ふと、JTサンダーズを率いたパルシン・ゲンナジー監督の就任時を思い出した。パルシン監督の練習も無駄がなく、合理的だった。何より居残り練習をしていた選手が「なぜ合同練習ですべての力を出さないのか」と叱られたエピソードには当時、とても驚いた。長い練習が美徳だと教えられてきた選手にとって、監督の言葉は新鮮だっただろう。

待ち望んだ外国人代表監督

わたしはずっと外国人の代表監督就任を待ち望んできた。もちろん、外国人が率いれば何もかもがうまく行き、全日本男子が即座に強くなるという幻想は抱いていない。ただ、海外で指揮を執った経験のある監督が就任することで、選手たちは自分が今までやってきた方法とは違う、新しい発見に出会えるのではないか。違う文化、違う環境で育った人からこそ学べるものがある。そういった刺激を、若いうちにたくさん受けてほしいと思う。それにより何かを感じ、何かに疑問を持つことが重要なのだ。強くなるかどうかはそのあとの話である。

サトウ監督の強化方法に、おそらく今まで何も考えず、ただただ言われた練習をこなしてきた選手は戸惑うかもしれない。脱落する選手も現れるだろう。しかし、そうやって厳しい生存競争を勝ち残った選手だけが袖を通せるのが、代表チームのユニホームではないか。代表チームが、あるべき、まっとうな姿に戻っただけのことだ。

WLで清水邦広のポジションに入るのは誰か?

最後にサトウ監督の采配以外の注目どころをひとつ。故障のために今回、エントリーを外れた清水邦広選手のポジションには誰が入るのだろうか。わたしはそこに注目している。今回、エントリーされているサントリーの栗山雅史選手も、堺の松岡祐太選手も将来性のある楽しみなプレーヤーだが、いかんせん自分のチームでは試合に出る機会が圧倒的に少ない。同じポジションに外国人助っ人がいるからだ。両者とも国際舞台に慣れるまで少し時間がかかるかもしれない。

そこで、わたしが注目するのはJTの八子大輔選手だ。

バレーファンであればご存じの通り、八子選手はオポジット(セッターの対角)ではなく、本来のポジションはサーブレシーブのフォーメーションに入るウィングスパイカーである。しかし、昨シーズンのVプレミアリーグでは、サーブで狙われ、体勢を崩されるケースが多かった。その精神的負担が攻撃にも悪影響を及ぼしていたように見えた。高校、大学時代の八子選手のように打って打って、打数とともに調子も上がるようなアタッカーには、オポジットというポジションは意外と向いているのではないか。ふとそんな風に考えていた。実際、合宿がスタートしたばかりの練習ではオポジットのポジションに入る機会も多かったと聞く。八子選手自身も「ライトからのアタックに苦手意識はない」と話していた。実現すれば、清水選手の穴を埋めるだけではなく、オポジットの選手不足という代表チームの悩みも解決する。何より、壁にぶつかっていた感のある八子選手にとってはいい転機になるかもしれない。サトウ監督の起用方法に今後も注目していきたいと思う。

輝く瞳を見てほしい

新監督の就任で何より、いちばんうれしかったのは、会見で話をする選手、練習でボールを追う選手の目が生き生きと輝いていたことだ。この日の会見と公開練習を見て、6月に開幕するワールドリーグでの全日本の戦い方が俄然、楽しみになった。ぜひ、バレーファンの皆さんにも会場に脚を運んで、選手たちの輝く瞳を見て欲しいと思う。

スポーツライター

現在、Number Webにて埼玉西武ライオンズを中心とした野球関連、バレーボールのコラムを執筆中。「Number」「埼玉西武ライオンズ公式ファンブック」などでも取材&執筆を手掛ける。2008年の男子バレーボールチーム16年ぶり五輪出場を追った「復活~全日本男子バレーボールチームの挑戦」(角川書店)がある。Yahoo!公式コメンテーター

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