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東京五輪開催に向け、バレーボール界は何をすべきか

市川忍スポーツライター

3年後、7年後の全日本は?

2020年、東京五輪開催が決定したことで、スポーツ界には長期的な展望で代表チームを強化することが求められている。各競技とも7年後に代表チームを担うような人材の発掘と育成に力を入れ始めたことだろう。

ではバレーボールはどうか。メダルを期待され、他の競技に比べ人口も比較的多い女子はさておき、問題は男子バレーである。10月初旬に開催された東アジア競技会に、ユニバーシアード代表のメンバーが参加したせいもあるのか、鹿児島で行われている代表合宿は相変わらずシニア代表のメンバー中心で行っている。3年後は?7年後は?どんな選手が代表を背負うのか、その展望は取材をしているわたしにすら明確に見えてこない。

そんな折、堺ブレイザーズのキッズチームで監督を務める木内学氏と話をする機会があった。木内監督は強豪、岡谷工高の出身。ブレイザーズでの競技生活を終えたあと、2011年に新しく設立されたキッズスクールの監督に就任した。

ブレイザーズのキッズバレーボールスクールは現在、堺市内で開講しており、5つの地区を巡回してバレーボールを教えている。選手は年々、増えていいて、その5つの地区の中から「試合に出場したい」という子どもたちを中心にチームを作り、小学生の大会にもエントリーするようになった。木内監督はこう話す。

「小学生大会のルールでは、ポジションは固定制で、前衛に背の高い子、後衛には背の低い子を配置して戦うチームが多いんですよ。でもうちはローテーションをして、すべての選手が前衛も後衛も経験しています。中にはね、130センチしか身長がない子もいて、一生懸命ブロックに飛ぶんですが、ネットから手が出ない。手が出ないから全然、ブロックの役割を果たしていないんですけど、でも、相手のコートを見て、移動して、ブロックに飛ぶという動作は、あとになって必ず必要になります。今は130センチでも、これから必ず身長は伸びるんですから」

小学生バレーの大会に出場すると、ブレイザーズキッズはローテーションをし、背の低い選手もスパイクを打つ。メンバーのポジションを固定し、身長の高い子だけが前衛からバンバンとスパイクを決めてくるチームに、今は敵わないのだと木内監督は残念そうに話す。

「いつもうちの田中幹保副部長から言われるんです。『同じようにポジションを固定すればうちが勝てる。でも、我慢するんだぞ』って」

世界の舞台で活躍する選手を育てるには

キッズバレーボールスクールやジュニアブレイザーズはブレイザーズスポーツクラブが掲げている「日本のバレーボールの更なる普及と発展に寄与するとともに、世界のトップを目指した日本代表チームのチームつくりに貢献します」という理念を実践し、将来、さらに高いステージでプレーできる選手を育成しようとしている。しかし、残念ながら小学生バレーという、まだ選手の特性もわからない世代のうちから、選手を型にはめ、選手の伸びしろを奪っている指導者も多いのが現状だ。

そして、もうひとつ、ブレイザーズキッズスクールが実践しているのが、ネットから離れたトスを打つ練習である。木内監督は語る。

「日本のVリーグのバレーボールはトスをネットに近づけて、なるべくブロックの上から打とうという戦略を取るチームが多いですよね。でも今、ブレイザーズキッズの選手たちは、みんなアタックラインくらいの位置からスパイクを打っているんです」

その理由はこうだ。ネットに近いトスに対し、相手の高いブロックに囲まれると、ブロックアウトをねらうことも、リバンドをとることも難しくなり、アタッカーの選択肢は極端に減る。しかし、ネットから離れたトスであれば、たとえブロックが揃ったとしても、広角に、スパイクを打つコースの幅が広がる。小学生のうちから、ネットから離れたトスを打ち慣れることで将来、自分より体格のいいブロッカーや、システマティックに鍛えられたブロックと相対したときに、アタックを決める技術を今から養おうという考えである。

クラブの理念に掲げてあるとはいえ、将来、日本のトップや、ひいては世界の舞台でプレーする選手を育てるための方針が、こうして小学生の指導現場まで浸透していることには正直、驚いた。

選手の可能性の芽を摘むな

そんな話をしているとき、ふと思い出した言葉があった。競技は違うが、埼玉西武ライオンズの中村剛也選手を取材したときに聞いた言葉だ。2008~09、2010~11年と4度、本塁打王に輝いた経験を持つ中村選手のもとをわたしは雑誌の取材のために訪れた。読者である小学生の男子からの質問を、わたしが代わりに選手に聞くという企画だった。

「野球をしている小学生が将来、ホームランバッターになりたいそうなんですけど、どんな練習をすればいいですか?」

わたしの質問に中村選手は即答した。

「そりゃ、ホームランを打つ練習をしないと、ホームランバッターにはなれへんよ」

ボールを遠くに飛ばすことを意識して打撃練習をするべきだと中村選手は付け加えた。「ホームランを打つ練習」とは、なんとシンプルな考えだと驚いたが、言われてみれば確かにそうだ。バレーボールよりさらに勝利至上主義がまかり通っているであろう野球では、おそらく選手に未知の可能性があろうとも、「二番打者タイプだからバントの練習をしろ」とか、「レギュラーじゃないからボール拾いをしろ」などと、その可能性の芽を摘んでしまう指導者が多いのではないかと予測できる。

さて、話はバレーボールに戻る。木内監督はこうも言った。

「スパイクしか打てない、守備しかできない選手を作りたくないんですよ。そのために、今は試合で勝てなくても仕方ないと思っています。とにかくすべての子どもたちがスパイクを打って、ブロックに飛んで、バレーボールって楽しいと思ってくれることが大事ですから」

2020年、東京五輪が開催されるとき、日本代表にはどんな選手が顔を揃えているのだろうか。自分の育てた選手に全日本で活躍してほしいと願っている指導者の方には、ぜひ今一度、自身の指導方法を見つめ直してもらいたい。

海外の高いブロックに阻まれたとき、あなたの育てている選手は、あなたの指導方法でスパイクを決めることができますか?

スポーツライター

現在、Number Webにて埼玉西武ライオンズを中心とした野球関連、バレーボールのコラムを執筆中。「Number」「埼玉西武ライオンズ公式ファンブック」などでも取材&執筆を手掛ける。2008年の男子バレーボールチーム16年ぶり五輪出場を追った「復活~全日本男子バレーボールチームの挑戦」(角川書店)がある。Yahoo!公式コメンテーター

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