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JTサンダーズ、天皇杯7年ぶりの頂点

市川忍スポーツライター

ファイナルで二度敗れた悔しさをバネに

「ファンの皆さん、優勝おめでとうございます」

優勝を決めたあとのコートインタビューでJTサンダーズのヴコヴィッチ監督は真っ先にファンへの祝福の言葉を口にした。天皇杯を制するのは実に7年ぶりのこと。ヴコヴィッチ監督がチームを率いるようになった2013/14Vプレミアリーグでは、天皇杯の決勝と同じ相手であるパナソニックパンサーズに敗れ惜しくも2位。続く5月の黒鷲旗でもパナソニックに敗れ準優勝に終わった。JTにとっては渇望していた優勝だ。試合後、コートにはメダルを手にした選手の笑顔の輪ができた。

主将の越川優は言った。

「前回Vリーグと黒鷲旗でファイナルに進出したことで、チームとして“ファイナルで戦う意識”が芽生えたと思います。同時に目の前で二度も胴上げを見た屈辱も大きかった。その悔しさがチーム全体のプレーや意識の向上につながっています」

セッターの井上俊輔も言う。

「前回のVリーグ、ファイナルで敗れて、悔し涙を流しながらここ(記者会見場)で話をしたことを覚えています。今回はリーグではなく天皇杯ですが、自分たちは闘えるんだという自信につながりました」

今大会、「僕はあまりよくない」と本人が語ったように、エースの越川の状態は今一つだった。決勝の序盤も、なかなか決定率の上がらない越川だったが、第1セット24点目を取ったセンターからのバックアタックで波に乗れたように見えた。その一本が決まったことで、それ以降、相手のブロックがよく見え、普段の越川らしい冷静で巧いスパイクで得点を重ねることができたように思う。セッターの井上にそのことを尋ねると「あの場面はひらめきで挙げましたけど、越川さんのバックアタックは僕にとっては必殺技。絶対に決まるという自信があります」ときっぱりと語った。

井上のトスワークが越川を生き返らせたと言っても過言ではないだろう。

今大会では準決勝の堺ブレイザーズ戦から出場したセッターの井上と、八子大輔の活躍が目立ったが、そこまでチームをけん引してきたセッターの深津旭弘と小澤翔の活躍も見過ごせない。スターティングメンバーで決勝戦に出場した井上が言った。

「今シーズンのVリーグでは僕は控えとしてベンチにいることが多くて、だから今日は天皇杯の決勝だということより、とにかくチャンスを逃したくない。絶対に結果を出さなければいけないという気持ちで戦いました」

八子と小澤もタイプは違うものの、同じポジションを争うライバル同士。それぞれの活躍が刺激になっているはずである。こうしたチーム内での競争意識がより全体のレベルアップにつながっているのが今シーズンのJTの強さの秘訣だろう。

古豪JT、悲願のVリーグ優勝はなるか

JTサンダーズは1930年代に創部した古豪である。今まで一度も2部リーグに降格したことはないが、同時に優勝の経験もない。JTの優勝を語るときには必ず「悲願の」という形容詞がついて回る。ここ数シーズンは下位に低迷し、7年連続で4強入りを逃してきた。そんなチームを変えようと招へいされたのが、元セルビア・モンテネグロの代表監督であるヴェセリン・ヴコヴィッチ氏だった。

就任直後の昨シーズン、いきなりチームを準優勝に導いた。ポイントを奪える強烈なサーブを武器に、「ブレイク」と呼ばれるサーブ権が自軍にある状況での得点力を大幅にアップした。何より変わったのは選手のメンタルだ。「リードを許しても終盤、必ず逆転できる」と自信を持って戦う姿が印象に残った。

わたしがJTの取材をするようになって10年以上経つが、転機は二度あったと思う。一度目は元ロシアの代表監督であるパルシン・ゲンナジー監督が就任したときだ。当時「試合中、リードされると“今日も負けるんかなぁ”と思っていました」と語っていた選手たちが、パルシン監督の就任以来、見違えるほど変わり、チームは4強常連の強豪に成長した。

そして今が二度目の転機ではないかと思う。現在のチームにも、当時と同じ「変化の兆し」を感じるからだ。数年前はインタビューでシーズンの展望を聞いても、はっきりと「優勝」と答えてくれる選手が少なかった。答えたとしても、どこか遠慮気味で、その姿を歯がゆく思うこともあった。しかし今は違う。

試合後の会見で町野仁志が言った。

「前回Vリーグと黒鷲旗で準優勝したことで、それまで漠然としていた“優勝”という目標が現実味を帯びてきました。やってきたことは間違いではなかったという自信が生まれたのが大きいと思います」

「練習してきたことへの手応え」や、「こうすれば勝てる」という絶対的な自信がどれほど成績に比例するか。昨シーズンのVリーグと、今大会のJTの戦い方を見ているとよくわかる。

監督の就任とともに大きいのは越川の加入だ。もう、様々なところですでに語りつくされているが、サントリー時代に優勝を経験し、海外でプレーし、日本代表では負けられない試合を幾度も戦ってきた。その越川がチームの軸にいることで、町野や酒井大祐といった本来、高い意識とポテンシャルを持っていた選手がさらに輝いた。来週の土曜日からVプレミアリーグが再開する。天皇杯優勝にとどまらず、シーズンでも依然、JTの戦いには注目したい。そして正直に言うと、昨シーズンまでJTに対しては「優勝、優勝と言ってプレッシャーをかけてはいけないのではないか?」と自重していたわたしだが、今シーズンは思い切りJTの優勝に期待してみたい。今年のサンダーズには、それくらいのプレッシャーなど簡単に跳ね除けてくれそうなムードがあるからだ。

天皇杯皇后杯の最中、現役選手の逮捕という衝撃的なニュースがバレーボール界を襲った。言い訳のできる事件ではない。チーム関係者や選手それぞれが気を引き締め、同じ過ちが二度とないよう事件を真摯に受け止めるしかない。しかし、明るいニュースまで自粛する必要はないと思う。チーム一丸となって戦う天皇杯のJTや、監督が代わり生まれ変わったばかりのパナソニックや堺、サントリーの戦いぶりなど、Vリーグには見どころがたくさんあるからだ。

来週から再開されるVプレミアリーグ、どうか各チームには全力で戦ってほしい。そして、リーグを明るいニュースでいっぱいにしてほしいと願うばかりだ。

スポーツライター

現在、Number Webにて埼玉西武ライオンズを中心とした野球関連、バレーボールのコラムを執筆中。「Number」「埼玉西武ライオンズ公式ファンブック」などでも取材&執筆を手掛ける。2008年の男子バレーボールチーム16年ぶり五輪出場を追った「復活~全日本男子バレーボールチームの挑戦」(角川書店)がある。Yahoo!公式コメンテーター

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