Yahoo!ニュース

大リーグにおけるフロント陣容の新トレンド。GMの上に置かれる野球運営本部の社長職に期待されるもの。

一村順子フリーランス・スポーツライター
レッドソックスはドンブロウスキ氏を野球運営部の社長に据えて再建を図る。

大リーグにおけるフロント陣容の新トレンド。GM時代から野球運営本部社長職へ。

2年連続で早々と優勝戦線から脱落したレッドソックスは、8月に入るとチーム再建に向けて動き出した。まず、タイガースのデーブ・ドンブロウスキ球団社長兼GMが8月4日に14年務めた古巣を電撃解雇されると、翌週にレ軍オーナー陣が接触。電光石火の早業で18日には野球運営部門社長(プレジデント・オブ・ベースボール・オペレーション)に招聘した。この役職は従来の組織になかった新ポスト。一部メディアで球団本部長と訳されることもあるようだが、実際は取締役であり、野球運営のトップという役職だ。そして、球団はチェリントン前GMの元で補佐役を務めたマイク・ヘイゼン氏を新GMとして内部昇格させた。

ヘイゼンGM補佐は39歳。スカウトとしてキャリアを磨き、レ軍10年目で、上級副社長兼GMとなった。この一連の人事は最近のメジャーのトレンドと言える。かつては、オーナーの下に編成を預かるGMと現場で指揮する監督の2つのポストを置くシンプルな形だったが、近年は30歳台の実務に長けるGMを置き、その上に、野球運営を統括する社長職を置く形が増えてきた。エプスタイン社長の下に、ホイヤーGMを置くカブス、トニー・ラルーサ社長の元に、スチュワートGMを置くダイヤモンドバックス、フレッドマン社長の下に、ザイディGMを置くドジャーズらがその例で、映画「マネーボール」で一躍日本でも有名になったアスレチックスのビーンGMも今オフ社長に昇格すると米メディアで報じられている。

オーナー陣への発言力の強化と作業の細分化

ドンブロウスキ社長は言う。「近年のフロント業務は多岐に渡っている。トレード、FAの市場調査、アマチュアから海外選手の調査、マイナー部門の育成や戦術分析など把握すべき情報量は膨大になり、GM1人では捌き切れなくなっているのが実情だ。日常的な実務で言えば、日々、現場の監督とのミーティングから、各スカウトの報告を聞き、あなた方メディアの対応もしなければならない(笑)。また、FA選手の年俸の高騰化によって、投資リスクが大きくなり、我々は、その決断に至るプロセスを非常に重要視しなければならない背景もある。ひと昔前のGMより遥かに複雑で膨大な業務を果たさなければならなくなっている」

近年のGM業務は多忙過ぎるという訳だ。また、レ軍の例で言えば、今季、サンドバル三塁手とラミレス左翼手の2人に年俸総額1億8800万ドル(約226億円)を投資した大型補強が失敗した教訓も大きい。レ軍はここ数年、チェリントン前GMが持つ権限の限界によって、節目で間違った選択を繰り返してきた。2012年には、チェリントン前GMはデール・スゥエイム氏を監督に進言したが、当時のルキーノ社長が親交深いバレンタイン監督を強行に推し、失敗した。また、期待はずれに終わったクロフォード外野手の補強もワーナー共同オーナーの意向が反映した。今回のラミレス外野手もオーナー側の強い推薦があったと聞く。

GM職より位が高く、オーナー直属の位置にある野球運営部社長は取締役を兼ねており、年俸は500万ドルから700万ドル(6億円から8億4000万円)が相場だ。同職最高額と言われたドジャーズのフレッドマン社長は5年総額3500万ドル(約42億円)で契約。その権限は従来のGM職より遥かに大きい。年齢層は平均50歳前後。エプスタイン、ラルーサ両社長は弁護士の資格を持つなど高学歴も特徴だ。FA市場の高騰化で、リスクを伴う大型投資にはオーナーのお墨付きが必要で、オーナー陣と対等に物が言えるとまでは言えなくとも、GMより強い発言権を持つ野球運営部社長を置くことで、経営トップ陣とのコミュニケーションを円滑にし、自ら組織の浄化作用を高めようという狙いもあるのではないかと思われる。

レ軍はまた投手だけを専門的に調査、分析する部門を新設し、2人のスカウトをその責任者に任命した。更に、ブレーブスなどでGMを務めたフランク・レン氏を上級副社長として入閣させ、主に選手の評価、査定を専門とする新ポストに置くなど要職の細分化が進む。選手年俸が高騰し、市場が国際化するなど情報が増大する中、より鋭い眼力を専門職に求め、責任の所在を明確する意図も見える。一方で、新体制のGM職は実質、従来のGM補佐の役割に過ぎないという指摘もできる。大型投資となる多くのディシジョン・メーキング・プロセスに、どれくらいGMが関わっていくのかは、今後、GM会議やウィンターミーティングなどで次第に明らかになっていくだろう。親会社からの出向ではなく、フロント陣営もその道のプロとしてキャリアを重ね、球団間の転職を含め、出世していくのが、メジャー流だが、市場の拡大に比例して首脳陣もエグゼクティブ化が進んでいる。巨大化且つ複雑化する業界の中で、各役職の権限と専門色を明確にし、より生産的な組織作りを進めようとするメジャーのトレンドに注目したい。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

一村順子の最近の記事