Yahoo!ニュース

「高さがないと本当にダメなのか?」という命題に挑むU-17日本代表

小澤一郎サッカージャーナリスト
日本のグループリーグ3試合の会場となるシャルジャ・スタジアム

FIFA U-17ワールドカップが17日にUAEで開幕した。グループDに入った日本は18日に初戦のロシア戦を控えており、17日は夕方に試合会場となるシャルジャのスタジアムでトレーニングを行なった。吉武博文監督が「堅守速攻型のチーム」と評する通り、今年5月にスロバキアで開催されたU-17欧州選手権でのロシアは5試合で1失点という守備力を武器に勝ち上がり、イタリアとの決勝戦でも0-0からのPK戦を制して優勝している。

■吉武ジャパンのサッカーが通用するかどうかが日本サッカーの今後になる

ロシアのスカウティングビデオを見た日本代表の選手たちも「守備の時は(ワントップの)一人を前に置いて後は全員が自陣に戻っている」(FW杉本太郎)、「ブロックを作って守ってくる」(DF宮原和也)といった印象を持っており、欧州王者のロシアとはいえ日本がボールを支配し、イニシアチブ(主導権)を握りながらゲーム運びをする展開が予想される。吉武監督もロシアの特徴を以下のように分析しながらこう述べる。

「(ロシアは)みなさんいい選手です。4番のディフェンスの選手が左利き、ゴールキーパーがロングボールを入れてくる。7番、11番のドリブルだとか、9番がワントップで、10番の選手にテクニックがある、というように言えばきりがない(苦笑)。そんな中でわれわれのやりたいサッカーをいかにやるか。相手がどうこうではなくて、今まで通り、何も変わらずに3試合やっていく。それが通用するか、しないかが日本サッカーの今後になっていくと思います」

ただし、日本が最も警戒すべきは平均身長179.8センチにもなるロシアの高さ。フィールドプレーヤー18名中、12名が身長160センチ台の日本の平均身長は171.5センチで、チーム平均での身長差は8.3センチ、フィールドプレーヤーの身長差は9.1センチにまで開いている。しかし、吉武監督は「高さがないと本当にダメなのか?というところ。できれば、希望としては、高さがなくてもやれるんじゃないかというようなサッカーを展開できればいい」と高さ不足の命題に挑戦する構えを見せる。

MF鈴木徳真が「世界を圧倒する吉武ジャパンのサッカーをしたい。小さくてもやれるというところを見せたい」と意気込むように、前日練習でも敏捷性に優れた小柄な選手たちが繰り出すアップテンポなパスワークには爽快感があった。一方でポゼッション型のチームが陥りやすい「ボールをつなぐこと」がゴールを奪うための手段ではなく目的化してしまう罠にはまらないよう、吉武監督はシャドートレーニングの中で選手に相手のDFラインやブロック間のギャップを見ながら縦パスを刺す意識を常に求めていた。

■このU-17W杯は「対世界」のみならず国内の指導者との戦いでもある

与えられた選手、戦力で戦うクラブの監督とは異なり、代表監督は日本全国から自由に選手をセレクトすることができる以上、17歳以下の代表とはいえ吉武監督がこれだけ小柄なフィールドプレーヤーを揃えて高さに屈するようなことがあれば、当然のように「高さのある選手を入れておくべきだった」という批判が起こる。また、カテゴリーやレベルが上がれば上がるほど高さを含めたフィジカル要素が重要度を増すことも否定しない。

しかし、まだ育成年代の大事な一時期である17歳以下の選手たちを束ねる代表監督として、高さ対策云々ではなく純粋にサッカーの質での勝負にこだわる吉武監督の姿勢、志の高さはリスペクトしておきたい。残念ながらまだまだ日本の育成現場では「強豪」と呼ばれるチームでも目先の結果欲しさに「蹴っとけ」という指導者からの指示を受けてサッカーの質やプロセス度外視のサッカーがトーナメント大会を中心に横行している。いよいよ始まるU-17ワールドカップでの吉武ジャパンの挑戦は、「対世界」の要素と同時に、遅々として進まない日本国内の指導者の志に向けたものでもあると認識している。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

小澤一郎の最近の記事