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U-17W杯ベネズエラ戦で最も価値あるスタッツは「6対26」の”ファール数”

小澤一郎サッカージャーナリスト
21日に行われたU-17W杯「日本×ベネズエラ」の主なスタッツ

21日(現地時間)に行われたU-17ワールドカップ(W杯)のグループリーグ第2戦のベネズエラとの試合に3-1で勝利し、2連勝で決勝トーナメント進出を決めたU-17日本代表だが、この試合でも“96ジャパン”は長短のパスを的確に織り交ぜながらボールを支配するポゼッションサッカーで南米2位のベネズエラを圧倒した。

■吉武監督「一応まな板の上に乗った」

試合後の会見でU-17日本代表の吉武博文監督は、グループリーグ突破を果たした感想について聞かれ「前回大会(2011年)のメキシコでの『ベスト8』というものを一つでも超えたいということで来ましたので、決勝トーナメントに行けるということは一応まな板の上に乗ったかなというところ。大変嬉しく思います」と話した。

しかし、『ベスト8超え』の目標を掲げる指揮官として「1試合目に出た課題のゴール前のチャンスというところでは、もちろんチャンスはたくさん作ったのですが、(シュートを)20何本打っている割に得点をあげることができなかった。決勝トーナメントに行くと、ああいうものを確実に決めていかないと(上に)残っていけないというところでは、まだ課題は残ったと思います」と勝って兜の緒を締めることも忘れなかった。

3-1というスコアとはいえ、ベネズエラのラファエル・ドゥダメル監督が「代表監督として1年半指揮をとっているが、これほどの素晴らしいサッカーには出会ったことがない」と脱帽した通り、ゲームスタッツを見れば日本のボール支配率が68%、シュート数比較は「日本対ベネズエラ」で「23対6」、枠内シュート数は「17対3」と日本の圧倒ぶりがわかる内容となっている。

大会前から高さ、強さというフィジカル要素に頼ることなく純粋にサッカーの質で勝負を挑むことを明言していた吉武監督だが、会見上では海外メディアや会見を取り仕切るメディアオフィサーからも「素晴らしいサッカー」という賞賛の言葉と「どうすればこれほどいいチームが作れるのか?」という疑問から湧き出る質問が相次いだ。それについて吉武監督は次のように説明している。

「(サッカーは)チームスポーツなので全員で、今回は21名の登録メンバー、ピッチに立つのは11人ですが、21人全員で試合をハイパフォーマンスに持っていくようにしたいということでずっと取り組んできています。その中でもしかしたら昔の日本は『1対1が弱い』というように言われていたのですが、その1対1の部分の弱さを見せないように、逆にその1対1が弱いということをストロングポイントにしたいということで、みんなで取り組んでいます。全員攻撃、全員守備の質をもっともっと上げていきたいと思います」

■「ファール8個以下」を目標にクリーンなサッカーも実現する96ジャパン

個人的に今大会のロシア、ベネズエラとの2試合を見て最も好感を持っているのが、ピッチ上の選手もベンチに座るコーチ、選手も一切レフェリングや相手のファールに対する文句を言わない“96ジャパン”のフェアプレー精神だ。特に、このベネズエラ戦での終盤(日本が3点目を奪って)以降、相手の選手が無力感と苛立ちから悪意を感じるファールを連発してきた。ボールと全く関係ないところでベネズエラの選手が仕掛ける蹴りやタックルを目にして、恥ずかしながら筆者は何度もスタンドの取材席から身を乗り出して「おいっ!」という野次を飛ばしてしまったのだが、日本の選手、吉武監督以下コーチングスタッフたちは至って冷静で野次・文句を発することもなければ、吉武監督が第4主審に詰め寄ることもなかった。

それどころか素早いリスタートでゲームの流れを切ることなく粛々とプレーを続ける17歳以下の選手たちには感動すら覚えるほど。ゲームスタッツを見るとファール数では、「6対26」で圧倒的にベネズエラのファールが多く、イエローカードも日本が0枚であるのに対しベネズエラは4枚。試合後の会見で吉武監督に日本のフェアプレーについて質問をしたところ、このような説明を得た。

「フェアプレーに関してですが、ファールは『(1試合)8個以下』ということで一応選手たちには目標を設けています。『8個以下』と言うと『8個まではいい』と選手は思ってしまいそうですが、そうではなくできるだけ0に。怪我をしてほしくないので、(指導者が)間に立ちながら。われわれがボールを長く持っていけば自分たちのファールの場面はほぼなくなってくると思っています。そして、(この年代は)育成年代の選手たちなのでレフェリーについてはやはり色々なジャッジ、もちろんミスもあると思いますが、それも含めてサッカーなので。選手はそれを受け止めて、90分間サッカーをしてもらいたいと思っています。そういった点では、今日も『6個』というように聞いていますけれど、不満なファールが2回くらいありました。『ここは要らないファールだな』というのが2度ほどありましたので、そういうところはもっともっと改善して、(ファール数)0を目指していきたいなと思います」

育成年代の国際大会とはいえ、今大会でも日本以外の試合では「勝ちたい」という気持ちが強すぎるあまりフェアプレーの精神を置き忘れた悪質なファールや露骨な時間稼ぎの場面をよく目にする。しかし、今大会の日本はサッカーの質に加えて、フェアプレー精神と相手や審判をリスペクトする気持ちを掲げたクリーンなサッカーで勝利を手にしている。試合開始前にピッチでプレーする選手のみならず、ベンチの控え選手、コーチングスタッフ全員で相手のベンチに出向き、握手を求める姿もその延長線上にあるもの。だからこそ、私はボール支配率やシュート本数のスタッツ以上に、ファール数のスタッツ、イエローカードの枚数に日本がやっていることの価値を見出している。

クリーンなプレーを心がけても勝負に負けてしまえば、『世界基準』なる言葉を引き合いに「あそこはファールで止めておくべきだった」、「マリーシア(ずる賢さ)が足りない」といった意見が周囲から必ず出てくる。しかし、今回の96ジャパンのようにこれだけのクオリティとフェアプレー精神を持って相手を凌駕してしまえば、それこそが『ジャパン・スタンダード(日本基準)』として世界を驚かす、世界を魅了することになる。世界で最も競技人口の多いサッカーというスポーツにおける国際大会で披露するサッカーやスタイル、コンセプトというのはまさに国の価値観やメンタリティといった“国そのもの”を背負っているものであり、今回のU-17日本代表からは「日本の弱点までもを逆手に取って強みに変える」逞しさと潔さを感じる。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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