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もっと早く見たかった?大久保1トップでかみ合った日本の攻撃【#坪井戦術】コロンビア戦分析(前編)

小澤一郎サッカージャーナリスト
コロンビア戦の日本代表の戦術分析を行う坪井健太郎氏

6月24日(現地時間)に行われたFIFA ワールドカップ(W杯)ブラジル大会のグループリーグ第3戦、日本対コロンビアの試合は勝つしか決勝トーナメント進出への道がない日本がボールと主導権を握る戦いで積極的な攻撃を仕掛けるも、コロンビアの鋭いカウンターと決定力に沈み1-4で敗れた。

『サッカーの新しい教科書』(カンゼン)の著書である坪井健太郎氏(スペイン在住のサッカー監督)はこのコロンビア戦の日本代表の戦いぶりをどのように分析したのか。前後編に分けて今回は前編をお届けする。

日本代表フォーメーション
日本代表フォーメーション

――まずはスタメン変更も含めた両チームの狙い、試合の入り方の印象について教えて下さい。

コロンビアはシステムが違っていて、1、2戦目は4−2−3−1で戦い、今日は4−1−4−1気味で来ました。具体的には、ボランチのグアリンが1つ前に出てくるような形です。要するに、DFと中盤の2ラインの間にアンカーのメヒアがいるという形だったので、日本にとっては彼の両脇のスペースを使いやすい展開となりました。そこがポイントの1つとして挙げられます。もう1つは、コロンビアがスタメンを8人も入れ替えてきたこと。中心選手を休ませたことで、日本にとってはゲームを作りやすい試合になるという予測は試合前からありました。そこで実際に試合に入り、1つはフィジカル的な要素、彼らの速さ、強さという部分で日本は開始5分間ほど押し込まれ、何とかそれに耐えてそこから徐々にボールを持つ時間が増えていきました。そこで鍵となったのは、前述のアンカーの両脇のスペース、ライン間のスペースを使うという配球で、今野がボールを配給する回数が多く見えました。おそらく、その狙いは香川が中に入ってくる動きが多かったからです。香川は中寄りの左サイドにいましたから、吉田よりも今野の方が配給をしやすい状況にありました。

コロンビア代表スタメン
コロンビア代表スタメン

――香川の中央寄りのポジショニングは、相手の4-1-4-1のシステムと関係していますか?

おそらく、ザッケローニ監督からの指示は強くあったと思います。なぜかと言うと、同じ現象が繰り返し起きていたからです。同じ現象が頻繁に起きているというのは、監督が強めに指示している証拠であり、プレーモデルが明確になっている証拠です。香川のみならず、今野も比較的高い位置を取り、同サイドの中央のエリアにボールを入れていました。そこに香川が入ってくるか、流れの中から本田が入ってくる動きもありました。どちらにしろ、日本の1つの狙いはアンカーの両脇のスペースで、その中でも香川のいる中央左寄りのスペースを使う傾向が強かったです。

狙いの2つ目は、深さとライン間である「エントレ・リニアス」のバランスです。今日は、岡崎が右サイドにいることに加えて、本田と大久保の二人組の関係が成立していました。岡崎はいつも通り斜めに入り、相手の背後を取る動きを行なっていました。あとは、本田と大久保が交互に、お互いの状況を見てプレーして、岡崎と同じく相手DFラインの背後のスペースを取りにいく形が出ていました。いつもと少し違ったのは本田と大久保の相性の良さで、本田が入っていくためのスペースを大久保が意図的に作っていました。例えば、青山、長谷部、香川という3人が前向きでボールを持った時、大久保が中盤に下りてきくれば、彼が空けたスペースに本田が入っていました。相手センターバックは大久保が下がった時に食い付いてきていましたから、本田が大久保と入れ替わる動きは有効であり、それが日本の攻撃のモビリティ(動き)を生み出していました。

ただし、前半は日本が主導権を奪い返した直後に失点してしまいました。いい形で攻撃を終わらせることができれば、いい形で守備をすることができます。あるいは、カウンターのリスクを減らすことができます。カウンターのピンチを作られている時というは、日本が相手ペナルティよりも手前でボールを奪われてしまい、相手のカウンターを誘発させていました。逆に、日本がいい流れにある時は、フィニッシュで終わって相手のゴールキックからのリスタートが多い展開でした。だからこそ、いかにいい形で攻撃の局面を終えるのかが大切になります。

香川の中央寄りのポジショニング
香川の中央寄りのポジショニング

――本田と大久保の二人組の関係性に見られるように、日本の攻撃は上手くかみ合っていたという認識ですか?

そうですね。この試合は本当にバランスが良く、4人のうち2枚がスペースに出て行って、残りの2枚が足下で受けるという関係性でした。基本的には、岡崎と大久保が飛び出し、香川と本田が足下で受けるという「2対2」のバランスで前半は上手く機能していました。もう一つのポイントが、モビリティ(動き)が出ていた点です。日本の攻撃が良くない時は、中盤で遠藤、長谷部(=ボランチ)がボールを持っても、前線でモビリティがないため相手の守備を崩せませんし、バイタルエリアへの縦パスが入りません。その意味では、今日は前線1トップに大久保が入ったことで、モビリティが生まれるきっかけになっていました。彼が動くことでスペースが生まれ、そこに本田や岡崎が侵入し、そこに対する配球でスペースの活用までの現象が起きていました。攻撃の戦術コンセプトは良く機能していたと思います。

――第2戦のギリシャ戦の課題として出たフエゴ・インテリオール(真ん中でのプレー)の局面でのボールの逃がしどころ、つまり3人目の動きもありました。

はい。前線の大久保と本田の縦関係が機能していたので、香川やボランチの二人が3人目の動きとしてのサポートに入りやすい状況でした。3人目の動きは、カウンターの時も同様に機能していました。カウンターであれば3人目の距離が少し長くなりますが、距離の長短の違いであって、今日の日本の攻撃陣は「自分とボール」の関係だけではなく、「自分とボールと味方」の関係を考えてプレーできていました。

――とはいえ、日本がペースとボールを握り、シュートチャンスを作るようになってきた時間帯の前半16分に今野がカウンターからラモスを倒してPKを献上してしまい、失点してしまいました。日本にとっては非常に痛い失点だったと思います。

そうですね。攻めている時のセンターバック、ボランチは、相手攻撃陣の警戒をするわけですが、そこはなかなか画面には映らない部分ですので、そこの評価をするのは難しいです。ただ、現実的にそこでやられてしまっているということは、ポジショニングなど何らかのミス・問題があったと考えられます。

――前半には、両サイドバックの位置取りについても言及されていました。どういうことでしょう?

ポジショニングはどの選手にとっても大事なことですが、前半はサイドバックのポジショニングが若干低かったと思います。長友、内田とマッチアップする選手は、相手のサイドハーフでした。前半であれば長友対クアドラード、内田対ラモスのマッチアップでした。日本のサイドバックが彼らよりも高い位置でボールを受ければ、マークする相手のラインを越えているわけですから、攻撃の役割を1つ達成したことになります。1番簡単な手段は、CBがボールを持っている時から、マッチアップする選手のラインよりも高い位置にポジションを取りパスを受けることです。(※図中パス2)そこでボールを受けることができれば、センターバックからのパス1本でシンプルにライン突破できるわけです。

サイドバックの高い位置取りによるライン突破
サイドバックの高い位置取りによるライン突破

もう1つの方法としては、2列目の選手を使ってワン・ツーでライン突破することです。(※図中パス3)SBがマッチアップするサイドハーフはがせることができれば、必然的にサイドで2対1の状況ができますので、SBのポジショニングにおける高さというのは非常に重要な要素となります。逆に、低いポジションでパスを受けるデメリットにおいて致命的なことは、相手のプレッシングを受けてしまうことです。(※図中パス1)低い位置でボールを受けてしまうと、まず自分の目の前のマッチアップしている選手に前向きのアプローチをかけられます。そのマッチアップの部分だけを見ると、ボールは取られていませんし、前向きでボールを受けることができますが、その後の展開で相手にプレスをはめられてしまいやすくなります。そこの循環でボールを失った場合、見た目はCBのミスだったとしても、実はSBのポジショニングの悪さ(低さ)に現象の原因があることが多いのです。これがSBが低いポジションをとった時のデメリットの一例です。

(後編に続く)

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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