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「自分の人生を賭ける価値があるのは夢だけ」果敢なスペイン挑戦をしたある日本人の言葉(下)

小澤一郎サッカージャーナリスト
果敢なスペイン挑戦は中原健聡氏にとって人生を賭けた夢だった

「どれだけ上手くても人として認められなかったらダメ」果敢なスペイン挑戦をしたある日本人の言葉(上)からの続き

■売り込みメールの一斉送信で2部Bのトライアウト機会をゲット

練習場に飛び込みで行くのと同時並行でクラブに売り込みのメールを送りまくっていたら、ある2部B(スペイン3部)クラブのディレクターから、「明日の朝10時に来い」って返信があって。

そのメールを見た時は、練習から帰ってきた24時ぐらいだったんですよ。だから、そこから気持ちを作らないといけないし、ご飯作るのもふわふわしていましたからね(笑)。結局、その晩は寝られませんでした。当日は予定の時間よりも1時間半早く着いてしまって、グラウンドの外でずっと待ってました。もう、初めての経験ばかりでした。

練習着は始まる前に提供してもらえるし、コーチはiPadを持っていて、iPadで練習メニューを説明されたり。もうドキドキしていました。この2時間で何かできたら、俺はこのチームに入れる。だけど、緊張して何もできなかったら今までと一緒だと。

2部Bというレベルなので、プロになれるチャンスもある。だけど今まで通りビビってミスを恐れて、何もしなかったら、また明日から契約してくれないチームと練習をしないといけない。口だけのチームと練習する。そんな環境に絶対に戻りたくない。やっと掴んだチャンス、「誰かの足を折ってでも、絶対につかんでやる」。やる時はそんな思いでした。

そして終わった時、「今日1日で判断するのは難しい。明日も来てくれ」と言われたんです。それは僕の中ではセーフでした。「もう1回見てやろう」って思わせたから。でも、言い換えれば1回でOKをもらえる実力が、俺にはなかったんです。でもなんとか繋がった。まだプロになれるチャンスは残っている。

次の日も、同じ気持ちで練習参加しました。そして監督から「今すぐトップチームと契約するのは難しい。でも、先はあり得る」と言ってもらえました。トップチームと同じグラウンドに社会人チームがあるんですけど、「話は通している、今晩にその社会人チームの監督と話して契約しなさい。月曜日と水曜日にはトップの練習に、火曜日と木曜日と金曜日には社会人の練習に入ってほしい」「週末は社会人の試合に出なさい。力があると判断すればトップチームに上げてプロ契約をしよう」と言ってくれました。

■そして別のメール、なんとバレンシアCFのBチームから

そして家に帰ったら、また別のメールが来ていたんです。それは同じ2部Bのバレンシア・メスタージャというチームでした。スペイン1部の強豪バレンシアCFのBチームです。たまたま公園でサッカーの練習をしようと思った時に、バレンシアにコネを持っている人と知り合うことができ、その人を通じて練習に参加させてもらえることになりました。

ついさっき2部Bのクラブからの話もあって「良かった」って思っている途端に、また新しいチャンスが目の前に来た。これはもう、行かないわけにはいかない。バレンシア・メスタージャぐらいになると、2部Bとはいえ強豪1部のカンテラ(下部組織)ですから、年収何千万円の選手もいるんです。そんなやつらと一緒にサッカーできる、って思いました。

Jリーグの練習にすら参加できなかった俺が、年収何千万円ってもらっているやつらと一緒に練習ができる。日本人のことを舐めているようなやつらと。日本で一切そういうレベルに行けなかった俺が得た千載一遇のチャンスでした。

普通に考えたら、誰でも得られるチャンスじゃない。Jリーガーですら、掴めるかわからない。ある程度プロとしての経歴ができてしまったら、ビデオを見ただけでダメって言われるかもしれない。でも俺は経歴もないのに、チャンスを得ることができた。毎日わけのわからない行動を起こしていることが、チャンスに繋がったんです。だから、死に物狂いでつかむしかない。

■上手すぎたバレンシア・メスタージャの選手たち

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練習参加してみたら、やっぱりバレンシア・メスタージャの選手ってすごいですね。その前のクラブで練習した経験もあって2部Bのレベルはある程度わかっていたんですけど、それでも全然違います。とんでもなく上でした。もう笑ってしまうくらいみんな上手い。

練習では、色んなポゼッションをやりました。例えば6対6のポゼッションだったら、俺を含めて6人だから、5つのパスコースができるのが一番の理想です。それがもう、彼らはできるんです。全員が一瞬でパスコースを作ってくれる。そんな状況ってなかなかない。

でも、ディフェンスの選手もパスコースを消しにくるので、0.5秒後くらいには全部消えます。「判断のスピード」と「パスを通す技術」と、「速さ」の単純な勝負みたいな感じでした。一瞬で全ての準備をしてくれて、その準備を全部一瞬で消してくる。「パン、パン、パン」ってフラッシュみたいな感じでした。そんなサッカーができるのは、初めてでしたね。次から次へと選択肢が出てきて、めちゃくちゃ面白かったです。

少しでも判断に迷った瞬間に足元のボールは奪われるし、味方へのパスコースは全部なくなる。全部がめちゃくちゃ速かった。ワンタッチのパスで「狭いところに通してしまったかな」って思っても、そのワンタッチで上手くいなしたりする。何もなかったかのように。しかも周りから騒がれるような上手さじゃなくて、当たり前のようにしてくれる。彼らにはやっぱりそういう感覚があるんですよ。俺にはその感覚がなかった。

大学とか、こっちに来てプレフェレンテ(スペイン5部/地域リーグ)というカテゴリーでプレーしていても、8対8とかのポゼッションでったらパスコースが2つ、3つあれば良いぐらいですよね。大学とかでもそうじゃないですか? 自分入れて10人だったら、9個のパスコースができるっていうのは普通ありえないと思うんです。

でも、全コースあるのが目の前ではっきりわかる。もちろん、自分も落ち着いていないといけないし、判断できる状況を作らないといけない。俺自身はスペインに来て4ヶ月やってきた経験と自信で、そういう感覚が何とか見えたというのはありました。

でも、バレンシア・メスタージャのポゼッションでは、他の選手がボールを持った時にはパスコースは4つしかなかったはず。自分がそのパスコースを常に作れているわけではなかったので。俺は作っているつもりでも。他の選手に比べて、俺のとこにパスが来る回数は少なかったです。

練習の雰囲気からしても、アジア人だから舐められてるとかじゃなく、単純に自分が準備できていない。だからパスが来ないんです。そういうレベルです。別にアジア人だからっていうのではない。実際それはわかりました、俺がちょっと遅いからなんだと。

ただ、こっちが良い準備をできている時は出してくれましたし、少しでもできていないと出してくれません。6対6では、他の選手が持っている時は基本4つしかできていなかったはずです。だから、自分のチームがボールを失う回数も多かった。やっぱりパスコースが1つ少ないと相手は奪いやすいですからね。広がらないので。

練習後、チーム関係者から「今は契約の話はない」と言われました。それはわかってました。その時に全部出し切りましたから、納得いきました。練習中、FWに対してわけわからんパスを出したんですよ。とにかく狭いところにめちゃくちゃ強いパスを。しかも、ちょっと膝上ぐらいに浮いたパスを出してしまったんですけど、何ごともなかったように抑えてくれましたから。

俺が上げたセンタリングも少し後ろにそれたのに、身体ごとそって頭で叩き込んでくれて、それで1アシスト。そのFWは俺に対して親指を上げて「ナイスボール」という仕草をみせてくれました(笑)。そいつの中ではおそらく許容範囲で、そんなボール全く問題ないんだと。本当にびっくりしました。

■異次元の経験直後に声のかかった多国籍の新興クラブ

そういう経験ができたので、「与えられた場所でしっかり試合に出よう。あいつらのレベルに追いつき追い抜いて、リーガ1部で出るまでトレーニングしよう」って思えるようになりました。なれる自信はあります。全部自分次第です。

その帰りに、あるチームのディレクターの方から声かけていただいたんです。「一回うちの練習場に来てみないか?」って。バレンシアの市内から車で1時間ぐらいかかるところにあるんですけど、一回行ってみようという話になりました。せっかくもらった話ですし、何かあるかなと思って。

そして、練習場に行ってみました。そのチームは人工芝と天然芝のグラウンドを1面ずつ持っていて、すぐ横にはホテルがありました。ホテルにはレストランやジム、スパもあって、契約選手はホテルに無料で泊まれるんです。しかもレストランでは3食提供され、ジム、スパは使い放題、加えて毎月ちょっとしたお小遣い、つまり給料もくれるという話。そう考えると、生活する上では困らないですよね。食費も家賃もかからないですから。自分にとってはいい条件でした。

あと選手を見ると、今まではスペイン人ばかりのところでやっていたんですけど、そのチームにはスペイン人が4人だけ。ここスペインに来てそんなことってあまりない。下位リーグは基本スペイン人ばかりで、いてもアルゼンチン人や他のスペイン語圏の南米の人、基本スペイン語を話せる選手たちでしたから。それはやはり、スペインで重視されているのが言葉のコミュニケーションだからだと思います。上手いやつじゃなくて話せるやつが必要とされている。

でも、そのチームにはアフリカのコートジボワール、ナイジェリア、カメルーン、南米のアルゼンチン、パラグアイ、ブラジル、そしてロシアの選手もいました。ディレクター曰く、「うちのチームは今年できたチームで、今年からリーグに参入している。全世界にスカウトを飛ばして、良い選手がいれば引っ張ってきている」と。

だから、17歳の選手もいるんです。年齢層はだいたい17歳〜21歳ぐらい。そのチームで24歳の僕は最年長です。しかも世界中からスカウトされているだけあって、みんな上手い。僕も大学時代にガンバユースとかと試合をしてきたけど、そんなやつらより断然上手い。チームの5、6割くらいが黒人で、 19歳といえども身体できあがってました。

そういった連中の中で練習に出させてもらった後、監督が「来るつもりがあるなら、お前と契約する」と言ってくれました。ホテルも何もかも全部同じようにやっていいと。アジア人は俺だけでした。ただ、毎月ブラジルから練習に連れてきたりしているので、力がないと判断されれば即クビです。22人しか選手を持てませんから、新しいやつが来てそいつらに負けたら要らないということです。

■成り上がってやろうという思いで危機感のある環境を選ぶ

常に、いつクビを切られるかわからない、俺より若い選手やブラジル人だったり、わけのわからないぐらいすごい選手が世界中から来る。毎日毎日の練習がテストとなり、入団してもそれは変わらない。「こいつは必要ないな。次来るやつの方が上手いし、クビを切ろう。金がかかるだけだ、必要ない」。自分はそんな環境を求めているし、俺が行くこれから先のレベルというのはそれが当たり前だと思っています。

バルサが好きだからって、誰もがバルサに入れるわけじゃない。ロナウジーニョみたいに上手くても、要らなくなったらクビになるんです。海外に来たんだから、常に危機感のある状況にいないといけない。そういうふうに思って、僕はそのチームを選びました。

そしたら案の定、僕が練習参加した時にいたロシア人は、僕が入ることになったからロシアに帰っていきました。そういう世界だからこそ毎日ピリピリできるし、技術はもちろん、メンタル的にも強くなれる。

やっぱり、そういう世界でやっていきたいと思っているし、成り上がってやろうという思いでスペインに来た。だから、大学生のみんながスペインに来たというのを聞いて、「何か掴んで行って欲しい」っていう思いはあります。俺が大学の時に、こんなチャンスはなかったですから。スペインの2部Bで練習できるチャンスなんてなかった。俺が来た4カ月前にも、そんなのはなかった。

俺は今何とかここまで来ているけど、2部Bの練習に入れる保証なんて最初からなかった。2部Bどころか、一番下のチームに入れる保証すらない状態で来ましたから。でも、大学生のみんなはいきなり2部Bの練習に参加できている。だからこそ、日本人として何か残して行って欲しいなって思います。日本やアジアを舐めているやつらに、何かを思わせてほしい。

僕は4ヶ月前まではチームもない、飯も自分で作らないといけない、言葉もわからない、おちょくられる、そんな状況でした。でも今はホテルもあって、グラウンドは2面ある。お金もかからないし、服は提供され、練習着も毎日全部洗ってくれる。でも、この環境は当たり前じゃない。確かに自分で掴んだものだけど、失うものでもある。自分のいる状況に満足したらそこで終わり。そこから先は何もないし、日本に帰るだけ。

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■選手としてやっていくんだったら年齢は絶対に言い訳にしたらいけない

でも、ここから成り上がって行くなら、全てにおいてレベルアップが必要。もちろん、言葉も貪欲さもそう。僕自身も大阪体育大学でやっていた時、皆さんの大学名はよく聞きました。長居で全国の決勝をやった時、僕は在学中だったので、皆さんの大学の決勝戦は見ましたよ。そういう大学のトップチームの中でコンスタントに試合に出て、このスペイン研修に選ばれているということは、それなりの力を持っているということ。皆さん、大体19、20歳ぐらいですよね? みんな、俺の19、20歳の時よりも遥かに上手い。

でも、選手って年齢は理由にしたらいけないと思うんですよ。僕の知り合いで、イタリアに25歳で行った人がいるんですけど、「25歳では遅かったなぁ。ちょっと規定があって、二十何歳以下を使わないといけないリーグがあったりするんだよ」って言って日本に帰国していました。

でも僕は、「何言ってんの? だったら、19歳の時にイタリアに行っていたらプロになってたのか?」って思ったんです。結局は言い訳。選手は歳を言い訳にしたらいけない。リーガのトップでも、35歳でやっている選手はいるじゃないですか? そうなったいいんですよ。 俺も24歳で、いわばメッシと同い年。メッシのようなレベルにないんだったら、ただサッカーが下手なだけ、レベルがないだけの話。

でも、選手を獲る側は違う。獲る側からしたら、やはり選手を育てて売りたいっていう気持ちがあるし、先を見据えた時に何歳かっていうのは気になるんです。それは仕方ないこと。みんなが卒業した頃には22歳になって、もしかしたらJリーガーの道を行くかもしれないし、在学中にプロになる人もいるかもしれない。海外でプロになるかもしれない。いずれにせよ、選手としてやっていくんだったら年齢は絶対に言い訳にしたらいけない。

みんなが練習参加しているチームで結構、歳とった選手いますよね? 見た感じもすごいおじさんっぽくて。カスティって呼ばれている選手わかりますか? たまに青の服とか着ていると思うんですけど。彼ね、3回シザースしたらこけるんですよ。嘘だろって思って(笑)。3回シザースしたらこける選手が2部Bでやっているのか、と思うと信じられなかったです。

「こいつがやっていけて、俺ができない? なんで俺と契約しないのか?」って思いましたもん。でも、その選手はそれ以外を見ていたらやっぱり上手い。判断が良いし、ロングフィードもちゃんと飛んできますから。

左利きのペペっていう選手もわかります? 彼は左SBなんですけど、左足が抜群に上手い。ワンステップで綺麗に飛ばしてきます。センタリングもドンピシャ。 でも、スピードはめちゃくちゃ遅いんです。そういう弱点はあるけど、それを隠せるぐらいの武器、左足を持っています。あと、ポスティっていうFWわかります? めちゃくちゃでかいんですけど、判断が良くて、ポストプレイヤーに近い選手です。

■1回の練習で全員の名前を覚える、パスミスしても謝る必要はない

こうやって名前を覚えて、呼べるようにしないとボール来ないですからね。1回の練習で、全員の名前を覚えないといけないんです。誰かがある選手の名前を呼んだら、それを覚えて。僕はどのチームに行っても1回の練習で全選手の名前を覚えますよ。スペインに来てトライアウトを繰り返すうちに名前を覚える能力も身に付きました。

大学生のみんなに残された練習の機会は、あと3回しかないんだから、エゴイストになって、むちゃくちゃにやってみたらいいんです。周りのスペイン人から「イホ・デ・プータ!(クソ野郎!)」とか言われても、この3回終わったら、日本に帰るんでしょ? もうここの選手に会うことはない。一生こいつらと寝食を共にして家でも一緒にいないといけないわけじゃないんだから。

もしパスミスしても、謝る必要なんてない。パスミスしたら逆にブチギレて、「しっかり受けろ!」って言ったらいい。3回しかないんだから。ただ、その3回が4回になる選手がいるかもしれない。4回じゃなくてこの1シーズン一緒にプレーすることになる選手もいるかもしれない。でも、基本的には多分3回で終わりなんです。

自分で思うことをしたらいい。いつも通り、みんなが大学でやっている練習の力を遠慮なく出したらいい。皆さんのレベルからしたら多分何ともないんですよ。みんな絶対にできる。ただ、言葉がわからないし、何言っているかもわからない。「ちょっと舌打ち聞こえたな…」とか、「何か言ってるな…」とか気になることがあるかもしれない。練習メニューを把握していないのに始まってしまった、2タッチしたらいけないルールで、2タッチして止められた、ということもたくさんあると思うんですよ。

ただ、それは言葉がわからないから、しょうがないこと。そうなったら「すまん、すまん」って日本語で言ったらいい。「アグアンタ(止まれ)」「トマ(とれ)」「スビール(上がれ)」とか、そういう指示の通りにプレーできなくてもしょうがないんです。

だから、逆に自分がわかることをしたらいい。自分ができること、武器を見せたらいいんです。できないことはしょうがない。アタッカーでドリブルが上手いとか、守備で1対1が強いとか、競り合いで絶対に負けないところとかをみせればいい。自分が武器と思っていること、それを見せる場面が来たら100%の力でやったらいいと思います。

■メンタルも含めて全部技術

それを80%しか出せないんだったら、それはもう負け。100%出せなかったという技術の問題。インカレの決勝で普段の力を出せなかったら、それも技術。メンタルも含めて全部技術なんです。

日本人のプロ、Jリーガーはそういうメンタルの技術が伴っていないから、スペインで活躍できない。スペインではそこが要求されているから。ドイツには行っていないですけど、多分日本と似ているからやりやすいのだと思います。英語も伝わりますし。スペイン人選手は、英語が全くわからないですからね。

だから、スペインという国は独特。他の国のことはわからないけど。日本であれだけ技術のある選手が通用しないんだから。2部Bの選手とJ1の選手を比べたら一目瞭然でしょ? 天皇杯なんかでそのレベルの選手とやれているんだから、技術的にはこの2部Bのレベルなんて大したことないんです。そこに必要なものは何かっていったら、単純に文化の面だったり、メンタルの面だったり、そういった部分だけ。

僕自身まだ4ヶ月しかスペインにいませんが、今日話したことがこの4ヶ月で思ったことです。でも、これからもし日本に帰ったとしても、今まで話してきたことは変わらないと思います。さっきも言ったように「やったか、やらなかったか」という結果じゃなくて過程、たった2時間の練習で全てを出し切ったかどうかが大事。

これからみんながJリーグのキャンプに呼ばれたり、Jクラブの練習に入った時に、ただ単にこなすのではなくて、そいつら全員を喰う覚悟でやるかどうか。味方がどうだとか、監督がどうとかは関係ない。試合が始まったら、監督は指示を出せるけどプレーはできないでしょ。俺らの力で全部試合中に解決しないといけないんですよ。日本代表にも、まだそんな力はないと思う。

こっちの選手って、練習中にケンカっぽくなったり、言い合ったりすることがあるけど、練習終わったら本当に何もないんですよ。普段通り。日本だったらそんなことないでしょ? ちょっとギクシャクしたりすると思う。こっちの選手がそうならないのは、90分もしくは2時間の練習時間内に問題を解決できるからなんです。だから後々残ったりもしないし、考える必要もない。後々考えてたら遅いんです。

2010年の南アフリカW杯で日本がなぜパラグアイに負けたのか? そう考える時点ですでに遅い。そうじゃなくて、パラグアイとやっている最中に解決しないといけないんです。一方でパラグアイは全部解決して、PKで日本に勝ちました。海外の選手は試合中に解決する週間が身に付いているんですよ、文化的に。

■日本人に足りないものは、メンタルと解決する力

ヨーロッパ、海外の選手というのは、練習中だったら練習中、試合中だったら試合中に、監督の指示なしで全て解決できるんです。その力があるから、W杯などの世界大会で日本代表は世界レベルの相手と戦った時に負けるんですよ。俺らにその力はまだないから。

技術的には、日本人は高いものがあると思います。そこは日本人として誇りもありますしね。何がないかって言ったら、解決する能力とメンタルなんです。それが普段の練習から備わっていないと思います。だからこそ、お互いの意見を言い合うことは必要。理解し合うっていう意味で。言うだけ言って終わりじゃなくて、言っていることも理解しないといけない。そういうコミュニケーション能力っていうのは圧倒的に日本人は少ない。

俺はこっちに来て、拙いながらもやってきているから余計にそう感じます。「こういうことは日本ではなかったな」って。90分の練習だったら、90分の間に全て解決できないと、次の練習までに何も変わることができない。試合の時には何も変わっていない状態なんです。そこが僕ら日本人、特に海外でやっている選手が気づかないといけない点です。技術でも練習メニューでもなくて、メンタルと解決する力なんです。そこをみんなで持って帰ってほしい。

■自分の人生を賭ける価値があるのは夢だけ。人生やりきらないとダメ

まだまだ先の話だけど、俺らがおじいさんになって死ぬ時に、本当に人生やりきったかどうかが重要なんです。死ぬ間際にお金かけて何かしようと思っても遅いでしょ? それまでに自分の人生をやりきったかどうか。

自分の人生を賭ける価値があるのは夢だけ。パチンコじゃない。 周りからどれだけ反対されようが、ボロクソ言われようが、人生やりきらないとダメ。もちろん、反対の意見があるということを受け止めないといけない。俺もやっぱそういうことは言われてきましたから。

「大学卒業してまでそんなことをやるのか」「就職しないのか」って散々言われましたから。実は僕、教員試験の1次通ったんですよ。大学のキャリア支援からも「ちゃんとしてくれ」とかなり言われました(苦笑)。大学からしたら、一人でも受かったら、データとして「卒業生が教員になりました」って言えますからね。

でも、スペインに挑戦した俺と、行っていない俺が教壇に立った時、同じ先生という職業で子供たちに与えることのできる影響は遥かに違う。だったら行くべきだなと思いました。しかも、自分が死ぬ時にスペイン挑戦していない自分に納得しているかどうかっていったら絶対してないですからね。

みんなこれからいろんなことがあると思うけど、いろんなやつ、いろんなことと常に戦ってください。自分の夢のために。

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サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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