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フランス戦に挑むなでしこ、検証したい攻守の取り組み

小澤一郎サッカージャーナリスト
フランス戦前日のトレーニングで選手に話しをする佐々木則夫監督

アルガルベカップ2015に参戦するなでしこジャパンは9日、強豪のフランスと対戦する。今大会の組み合わせが決まった直後、佐々木則夫監督が「現時点で、世界で最も好調なチーム」と評した通り、今大会のフランスは初戦のポルトガル戦こそ1-0の辛勝に終わったが、第2戦のデンマーク戦では日本が敗れた相手に対して前半だけで4点を奪う圧倒的なサッカーを見せつけ4-1と大勝した。

大会前からこのフランス戦を強く意識してチーム作りを行なってきた佐々木監督は、8日の前日練習を終えて現時点で”最高、最強”と呼べそうな相手との一戦が持つ重要性について次のように語った。

「(フランスは)本当に今、フィジカルもあるし、タクティクスもあるし、個々のスキルもある。そういう意味では、カナダW杯を準備するにあたって良い相手なので、そこからしっかりと検証できるように。今、我々ができること、できないこと、我々のゾーンプレスみたいなのがどれだけああいうチームにはまって、逃げられた時にはカウンターみたいな形になりますが、そこをどう対応するのか。いずれにせよ、失敗を恐れずに自分たちの持ち味をまず出して、どれだけできるんだ、どこがウィークなんだというところをもう少し確認できるように。自分たちの持っているものを出してこそ、検証につながるので前後半で多少選手を変えながら、試しながらやってみたいと思います」

フランス戦のスタメン予想
フランス戦のスタメン予想

気になるスタメンだがフィールドプレーヤーではデンマークとの初戦のメンバーを軸に、第2戦でいいパフォーマンスを披露した選手を積極的に使う構えで、具体的には右SBに有吉佐織(日テレ・ベレーザ)、CBに川村優理(ベガルタ仙台レディース)、ボランチに宇津木瑠美(モンペリエHSC/フランス)、FWに菅澤優衣香(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)が先発となる予定。

大会に入り佐々木監督がしきりに口にするのが「他国のタクティクスレベルの成長」で、初戦ではW杯出場権を逃したことで若いチームに切り替えた新生デンマークの組織的なプレッシングにはまってしまう場面が序盤から何度も見られた。第2戦のポルトガル戦後も佐々木監督は、「欧州だけではなく、ニュージーランドやオーストラリアも含めて、非常にスキルフルになり、かつチームタクティクスも非常に成長してきている。ですから、我々がこういったチームに勝つには非常に難しい現状にあり、女子サッカーが世界的に非常に成長著しいことを強く感じます」と述べている。

そうした中でもフランスは強豪国の中で著しい成長を遂げており、6月に開幕するW杯に向けては優勝候補の一角に間違いなく入ってくる勢いを持つ。男子W杯でスペイン、ドイツが国内強豪クラブ(FCバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン)の選手を多く起用して連携や戦術を代表チームに上手く移行させたのと同じように、今のフランスは国内強豪クラブのオリンピック・リヨン所属の選手がスタメンの半数前後を占める。デンマーク戦でも11名中5名がリヨンの選手で、特にボランチの10番と前線9番のホットラインはわかっていても止められないスピードと質の高さを持っている。

■守備:前線からのプレスとプレスに行かないタイミング、判断の使い分け

佐々木監督が「なるべく(相手にボールを)持たさないように、まずは前線からやっていこうと思います」と発言するように、守備においては今大会を通じて狙いとする「前線からのプレッシング」で高い位置、相手陣内でどの程度ボール奪取できるかどうかを検証することになりそう。ただし、それはあくまでチームの守備コンセプトであって相手の出方や実際にマッチアップした力関係に応じて微調整することも選手たちは忘れていない。

宮間と1対1の練習に励む熊谷紗希(右)
宮間と1対1の練習に励む熊谷紗希(右)

DFラインを統率する熊谷紗希(オリンピック・リヨン/フランス)は次のように話す。「前線からのプレスが狙いではありますけど、チームとしてそれだけじゃいけないというのは試合で感じていること。やはり、少し引いて守る時間帯もあっていいんじゃないかと思うし、特にフランスはポルトガルみたいに引いて守るような相手を崩すのが苦手なチームではあると思うので。勢いを持って自分たちが行くために前から行くし、行ける時は前に出てていきたいとは思っていますけど、そこは時間帯や2列目・前線とのコミュニケーションを取りながら使い分けていきたい。90分の中で全てが前からでいけるとは思わないので、(プレスとリトリートの判断を)切り替えるタイミングはチャレンジするところ」

FW大儀見優季(VfLヴォルフスブルク/ドイツ)も初戦で前線がプレスのスイッチを入れながら、中盤以下のラインがそのスイッチに反応することに遅れた現象を踏まえた上で、こう説明する。「(デンマーク戦の試合)映像を見ながら選手同士で話し合って前がスイッチを入れてしまうと、連動して後ろがついてこれないシーンが結構ありました。(プレスのスイッチを)前主導にしてしまうと、全体が一歩遅れるようになってしまうので、前でのスイッチは本当に取れるというタイミグの時だけにして、中盤とFW、中盤とDFラインの幅をできるだけバランス良く保てるような守備というのも意識してやっていきたい」

■攻撃:DFライン背後への積極的なロングフィードとチェンジサイド

一方、攻撃における狙いも大会を通じて徹底している「深さ」を取ると同時に縦に早い攻撃を仕掛ける目的で相手DFライン背後へのロングフィードとチェンジサイドの2点をこのフランス戦でもトライする構えだ。その中でこの試合のキープレイヤーのみならず、W杯を見据えてチームの主軸となっていきそうなのがボランチでの起用となる宇津木だ。

フランス戦でもレンジの広いパスと思い切ったプレーが期待される宇津木瑠美(左)
フランス戦でもレンジの広いパスと思い切ったプレーが期待される宇津木瑠美(左)

交代で入った初戦から思い切りのいいプレーで中盤を活性化させているが、今なでしこジャパンが取り組む幅と深さを出す攻撃においては宇津木のような精度の高いロングパスを出せるボランチが必要不可欠だ。受け手となる大儀見も8日の実戦練習で宇津木との連携に手応えをつかんだようで、長めのボールのみならず「ワンタッチのボール、横パスが入った後の縦のボールが結構入ってくるのでそれに反応できれば効果的なパスとなる」と話している。

「使ってもらって構わないし、いいアクセントになりたい」と語る宇津木だが、パスや狙いのレンジを広げる新たな取り組みがあくまでこれまでのなでしこジャパンの戦いのベースの上にあることを忘れていない。「私のようにやれる選手と細かいプレーができる選手が出ていることでアクセントになって、両方活きられる。私のパスで活きれる選手と上辻(佑実/日テレ・ベレーザ)のような選手で活きれる選手と、というふうに何通りも合った方がやっぱり面白いし、崩せるので。そういう意味では、そればかりではないですけど、そういう位置付けをしながら、できる選手ができることをやっていくという方がいい」

大会開幕前の記者会見で各国の指揮官から「ワールドチャンピオン」という形容詞を付けてリスペクトを受けていたなでしこジャパンながら、この4年間、世界の強豪国は「なでしこに追い付け」ではなく「追い抜け」の姿勢で特に戦略、戦術レベルを著しく向上させている。今大会のフランスを見る限り、現時点ではチームとしての成熟度は相手の方が上で、そうした相手に何ができて、何ができないかを知ることで連覇を狙うW杯での戦略がよりクリアになってくることは間違いない

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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