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「連覇」の期待と世界の「低評価」が降り注ぐなでしこジャパン、女子W杯をどう見るべきなのか?

小澤一郎サッカージャーナリスト
スイス戦前日の会見に臨むなでしこジャパンの佐々木則夫監督

現地時間の6月6日に開幕したFIFA 女子ワールドカップ・カナダ2015において連覇を狙うなでしこジャパン(日本女子代表)は8日(日本時間9日11時)、スイスとの初戦を迎える。

■世界王者のチャレンジャー精神は「消極的」か?

7日、スイス戦に向けた公式会見にて佐々木則夫監督は「チャンピオンという称号を付けてプレーすることは誇りですけれども、実際にこのカナダのワールドカップに向けてチームとしてチャレンジする姿勢に変わりはないということです」と述べた。ディフェンディングチャンピオンがチャレンジャー精神を強調して大会に入ることは「消極的」と映るかもしれないが、そこには「世界の中の日本」という視点が抜け落ちている。

なでしこジャパンのFIFAランキングは4位で、今大会の前哨戦となった3月のアルガルベカップ2015での9位という過去最低の成績やFIFAランキングトップ3のドイツ(1位)、アメリカ(2位)、フランス(3位)の同大会での仕上がり具合を見ても、なでしこを今大会の「優勝候補筆頭」に挙げることには無理がある。

佐々木監督は、「過去の大会(W杯)を経験していない選手も今回のメンバーにはいるものの、大きな大会をしっかりと経験した選手たちがメインとなる今大会でもあるので、その経験と各クラブで成長した度合いを含めれば、前回(大会)のメンバーよりも質が高くなるということは現実ある」とした上で、「世界も変化、成長していますので。どのくらい今、成長した段階でできるかというに対してもチャレンジだと思っています。そういう意味でも、我々の個々の成長プラスアルファのチーム力には非常に期待をしています」と「世界」の枠の中での現状分析を行なった。

■世界に“舐められている”なでしこ

4月にドイツで大儀見優季に話しを聞いた際、「W杯優勝直後の2年くらいは評価が上がりましたが、この前のアルガルベカップが酷すぎてかなり日本の評価は下がっていますし、『日本は大したことない』と舐められています」というショッキングな話しを聞いた。彼女がプレーするドイツの強豪VfLヴォルフスブルクには各国の主力選手が名を連ねるため、大儀見の話しは現時点の世界が持つ「リアルな日本評」ということになる。しかし、その時から大儀見は「逆にそれがチャンスでもあります。相手に付け入る隙があるということですから」と前向きだった。

チームワークと強い気持ちで大会に臨む決意を示した宮間あや
チームワークと強い気持ちで大会に臨む決意を示した宮間あや

7日の公式会見で佐々木監督と並び登壇した宮間あやは次のような言葉を口にした。「世界チャンピオンになってから自分たちが思うように試合を進められなかったり、周りの方に期待されているのを感じながらなかなか思うように結果が出せない時間もありましたけど、その中でそれを耐えて跳ね返す力というのはみんなで積み上げて来たものだと思うので。それは試合中も同じで、上手くいかない時間も想定されますけど、そういった中で自分たちで耐えて、自分たちの試合にするということができるんじゃないかなと思っています」

■見るべきものは「成績」ではなく「成長」

私自身は、特に欧州勢の戦術・技術レベルが急速に上がった今大会でなでしこジャパンが「ベスト4」入りできれば、その時点で及第点を与えたい。「連覇」という結果を期待し、結果だけを見る人にとってはおそらく今大会のなでしこジャパンは期待外れに終わる可能性の方が高い。「負ければ日本の女子サッカーは衰退する」という危機を煽る言葉も聞こえてくるが、チームとしての「成績」ではなく「成長」をしっかりと見届ければ間違いなく満足感を得る大会になると断言する。

大儀見は力強くこう話す。

「世界を相手にした時のなでしこの武器は、メンタル的な部分だと思います。大きな大会になればなるほど力を発揮するチームで、本番に強い。追い込まれれば追い込まれるほど力を発揮するメンタリティーというのがなでしこにはあると思いますし、それを耐えきるだけの精神力もあります」

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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