Yahoo!ニュース

準決勝で露呈したなでしこの構造的欠陥と決勝への光明

小澤一郎サッカージャーナリスト
画像

佐々木則夫監督が試合後、「予想的にはもっと自分たちのサッカーができるかと思っていたが、非常にシンプルなサッカーを徹底してやる相手の勢いによってタフな試合となった」と話した通り、92分の得点(オウンゴール)でドラマチックに2大会連続となる決勝へと駒を進めたなでしこジャパンだが、イングランドとの準決勝は実に苦しいゲームとなった。

有吉佐織が「相手が私たちをよく分析してきた」と語る通り、イングランドは今大会の日本の特徴をしっかりとスカウティングした上で、明確なゲームプランを持って試合に臨んだ。開始1分、日本のキックオフのボールが相手GKに渡り、GKがロングキックのターゲットとしたのは右サイドハーフの8番(ジル・スコット)だった。181センチの長身MFが頭でそらしたボールを1トップの19番(テイラー)がマークについた熊谷紗希の頭を越す巧みなボールコントロールから思い切り良く右足ボレーでシュートを放った。

画像

シュートはゴールの枠を外れたが、イングランドがいとも簡単に決定機を作ったことで、この試合のイングランドが8番と鮫島彩のマッチアップの高低差を使ってシンプルに放り込んでくるビルドアップをプレーモデルとすることはある程度見えた。

一方で、イングランドの守備のプレーモデルにおける特徴は2つあった。

  1. 前線からのハイプレスで日本のダブルボランチへの配球を消すこと
  2. 岩清水梓にボールを持たせること

佐々木監督は1について「ダブルボランチのところでもっと受けができればイニシアチブが取れるサッカーができたんですけど」と会見で述べていたが、いくら阪口夢穂、宇津木瑠美が優れたボランチであったとしても90分を通して中盤の11番、16番にあれだけタイトにマンマークをされるとDFラインからボールを受けること、攻撃を前進させることは難しい。

画像
画像

2については、6分、11分のシーンで岩清水がドリブルで持ち上がったアクションに対してイングランドの選手が誰もプレスに行かなかったことから、「繰り返しの現象=戦術」と断定できた。岩清水は、熊谷と比較するとパスのレンジが狭く、パススピードも出ない。特に運ぶドリブルからパスを出す時には慎重に何度も味方の位置を確認してからパスを出すので、彼女をフリーにしても効果的な縦パスが入ってくる確率は低いとイングランド側は判断したようだ。

加えて、大儀見優季が「相手のDFラインがダイレクトでボールを蹴ってきたので高い位置でプレスに行けなかった」と振り返った通り、オランダ、オーストラリア戦で日本が見せた前線からのプレッシングを回避する方法としてイングランドの最終ラインは「プレスを受けない(早い)タイミングで前線に蹴る」ことを徹底してきた。つまり、多少ロングボールやフィードの精度が落ちても、ボールの出どころを潰されないような選択をしてきたということ。

イングランドの攻守のプレーモデルによって日本は第1戦(スイス)、第2戦(カメルーン)の後半で見せた「重心の低い戦い」を序盤から一貫して強いられた。そもそも、オランダ、オーストラリアの2試合で重心の高い戦いができたのは、相手が最終ラインからつなぐプレーモデルを採用し、宇津木と阪口のボランチのラインが前線のプレスに連動して高い位置を取って前向きの守備を行なうことができたため。

相手のターゲット(8番)や日本の両サイドバックの裏のスペースにロングボールを蹴られ、後ろ向きの守備を強いられた時にDFラインが極端に下がり、致し方なく中盤のラインが深い位置までプレスバックし、前線が孤立するなでしこジャパンの構造的欠陥はこの準決勝でもはっきりと出てしまった。

ただし、前半にあった2つのシーンは重心が低くなる構造的欠陥を解消するための光明となる攻撃だった。

1つは、有吉がPKを得た31分の相手DFライン背後への飛び出しのシーンだ。

画像

有吉は試合後、「相手SBが結構ナホ(川澄)に対して食いつくシーンが多かったので、割とそこを狙っていて。左にボールが入った時に完全に相手(3番)がボールウォッチャーになって、(阪口)夢穂がいい形で前を向けると思ったので(飛び出した)。あそこは本当に狙い通りというか。夢穂からも(パスが)絶対に来ると思ったので」とこの場面での思考プロセスを明かしてくれた。

岩清水がGK海堀あゆみに長いバックパスを戻し、阪口がツーセンターバックの間に下りたことでイングランドの中盤は阪口へのマークを仕方なく緩めた。佐々木監督が指摘した「ダブルボランチでの受け」は相手を背負った状態での苦しい受け方ばかりではなく、タイトなマークがあるのであれば敢えてDFラインに下りてしまって前向きでボールを持つことも指しているはず。

背後のスペースや相手のロングボールを警戒してDFラインを下げる判断自体はある程度は仕方ないが、一度下がってしまった重心を上げるためにも時に状況に応じてボランチ1枚がCB2人の間に下りるビルドアップを用いることでもう少し配球の安定性と精度を高めたい。

もう1つは、21分に鮫島がエリア外から左足でミドルシュートを放つまでの流れ。

画像

日本の自陣右サイドで相手に3対3の局面を作られながらも、有吉→阪口→有吉→岩清水というパス交換で相手のプレスを上手くはがし、岩清水が素早く中盤に下りてきた大儀見にパスをつけた。そこを起点として鮫島→宮間と渡り、宮間がドリブルで突破を試みたこぼれ球を鮫島がエリア外から左足でシュートしたシーンなのだが、この場面での岩清水の「認知→分析→決断」という頭の中のプロセススピードは非常に速かった。

サイドアタックにおけるクロスボール同様、ビルドアップにおいてもこれだけ試合を重ねてきている以上、比較的フリーでボールを持てる最終ラインからの配球においては「味方を見て、出せるかどうか(or通るかどうか)迷ってから判断する」のではなく、できる限り「認知」から「決断」までのプロセスを早め、素早くプレーを実行に移したい。

実際、92分の決勝弾につながる熊谷から川澄へのフィードもプレーアクションのプロセスとしては認知から決断まで頭の中でスピーディーに処理されていた。そして押し込まれながらも、悪いながらも現象として見えたイングランド戦での2つの光明は準決勝以上に押し込まれる時間、展開が予想されるアメリカとの決勝戦に勝つためのキーファクターとなるだろう。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

小澤一郎の最近の記事