Yahoo!ニュース

ついにデビュー!近鉄観光特急「しまかぜ」の魅力を徹底紹介

伊原薫鉄道ライター
ついにデビューした近鉄の観光特急「しまかぜ」斬新な前面形状だ。

2013(平成25)年3月21日、近畿日本鉄道(近鉄)の新型観光特急「しまかぜ」がついにデビューした。伊勢神宮の式年遷宮にあわせて導入されたこの車両は、「日本一の私鉄特急」にふさわしい設備を満載。今回は、なんともプレミアムなその魅力を紹介しよう。

○近鉄特急の伝統を受け継ぐ「プレミアム」さ

1932(昭和7)年に大阪・上本町~宇治山田間での特急運転を開始して以来、伊勢神宮へのメインアクセスとしての重責を担ってきた近鉄。その近鉄が、現在行われている「第62回神宮式年遷宮」に合わせ「単なる移動手段ではなく、列車に乗ること自体が旅の目的となるような観光車両」として開発したのが、50000系「しまかぜ」だ。初代ビスタカー10000系から続く2階建て車両や、名阪間を最高時速130kmで駆け抜ける「アーバンライナー」、日本の私鉄車両としては珍しい貸切専用車両「楽」など、常に国内トップクラスの性能と設備で他の鉄道会社を凌駕してきた近鉄ならではの「プレミアム」な香りが随所に見られる。

○特徴的な「顔」と「色」

一般車両と並んだ「しまかぜ」これまでにない直線的な先頭形状が特徴だ。
一般車両と並んだ「しまかぜ」これまでにない直線的な先頭形状が特徴だ。

まず目を引くのは、その特徴的な前面。「アーバンライナー」や「伊勢志摩ライナー」の流線形を受け継ぎつつ、曲面ではなく平面で構成されたシャープな形状が新鮮だ。地下区間を走るために必要な非常扉もあり、阪神なんば線を経由して三宮方面への乗り入れも期待される。

オレンジ色や黄色など、これまで暖色系の印象が強かった近鉄特急だが、「しまかぜ」はそのイメージを覆す鮮やかなスカイブルー。「伊勢志摩の晴れやかな空」をイメージしたファインブルーとクリスタルホワイトを基調に、ハイデッカー車両やダブルデッカー車両の異なる窓高さをうまくまとめた塗り分けになっていて、編成全体で一つのデザインを作っている。

エントランスの様子。足元は天然の御影石、天井には天窓風の照明が。
エントランスの様子。足元は天然の御影石、天井には天窓風の照明が。

いよいよ車内に入り、さっそく座席へ・・・の前に、足元を注目!エントランス(「デッキ」なんて呼び方ではないところにもこだわりが見られる)の床面にはなんと、天然の御影石が敷き詰められている。さらに天井は天窓風の照明となっており、開放感たっぷり。先頭車のドア横には鍵つきロッカーも設置されているので、荷物が多い人も安心だ。

ふと気づくと、かすかに流れてくるBGMと柔らかな香り。なんと、駅停車時には音と香りで乗客を出迎えてくれるのだ。心憎い演出に、これから始まる非日常への期待感が高まってくる。

○本革シートにはマッサージ機能も

「しまかぜ」に用意されている座席は「プレミアムシート」と「サロン席」そして「個室」の3種類。編成の両端4両は「プレミアムシート」車両となっている。2列+1列とゆったりした座席配置に加え、前後の間隔は1,250mmとグリーン車以上の広さで、向かい合わせにしてもラクラク。さらに1号車と6号車はハイデッカー仕様となっているほか、運転席との仕切りも全面ガラスになっていて、前面展望も思う存分楽しめる。

プレミアムシートは本革製。幅・ピッチ・リクライニング角度、どれも「プレミアム」
プレミアムシートは本革製。幅・ピッチ・リクライニング角度、どれも「プレミアム」

「プレミアムシート」は、シート生地に本革が使用されていて、その手触りは抜群。リクライニングはもちろん、ふくらはぎを支える電動レッグレストも装備。天然木のテーブルは座席背面のほか肘掛け部分にもあるので、座席を向かい合わせにしても利用できる。そして私のイチオシポイントは、マッサージ機能もついた腰部分の「エアーサポートクッション」硬さを調節できるので腰痛気味の人にも優しく、電車の座席とは思えないくらい快適。特急が頻繁に走る近鉄は、線路もきっちり整備されていて、時速130kmで走っていても驚くほど揺れず、まるでゆりかごのようだ。

○ファミリーにもうれしいサロン席と個室

一方、編成の中ほどに設けられた「サロン席」は、23000系「伊勢志摩ライナー」でも見られたセミコンパートメント仕様で、ガラスパーテーションで仕切られたスペースに6人掛けのシートが設置されている(利用は4人から可能)。大型テーブルもあって、グループでの旅行に最適。ドーム形の天井まで届く特大の窓から見える景色に、友人との会話が弾むこと間違いなし。

和風個室は靴を脱いで利用する。まるで自宅のような感覚だ。
和風個室は靴を脱いで利用する。まるで自宅のような感覚だ。

「サロン席」とエントランスを隔てた反対側には、和風個室と洋風個室が1室ずつ。どちらも4人用で(利用は3人から可能)、洋風個室は窓に向かってL字型にフカフカのソファが配置されている。一方、和風個室は靴を脱いで入る形式で、掘りごたつ風のテーブルに座椅子を設置。個室内は個別空調となっているほか、堀りごたつ部分には床暖房もあって、足が冷える女性も安心だ。運転席からの前面展望や沿線情報、近鉄電車のDVDソフトが見られるモニタもあり、小さなお子様も退屈せずにワイワイ楽しめるよう工夫されている。

○2階建てのカフェで名産品を味わう

季節を感じられるよう、カフェ車両に飾られているのは生花。
季節を感じられるよう、カフェ車両に飾られているのは生花。

5両に分けて配置されたこれらの座席は全138席。1両あたり28席と、「アーバンライナー」のデラックスシート(36席)や「伊勢志摩ライナー」のサロン車両(36席)と比べてもそのゆったりさがわかる。そんな快適空間をさらに印象づけるのが、残る1両の「カフェ車両」。近鉄伝統の2階建て車両となっていて、2階は開放感あふれる展望スペース、反対に1階は落ち着いたバー感覚の空間となっている。カフェに飾られているお花はなんと、造花ではなく生花。2~3日ごとに取り替えるそうで、その手間をいとわない「おもてなしの心」に脱帽だ。

カフェ1階席。バーのように落ち着いた雰囲気だ。
カフェ1階席。バーのように落ち着いた雰囲気だ。

カフェで提供されるメニューは「海の幸ピラフ」「松阪牛カレー」「特製うな重」など、沿線の食材を使用。お酒やおつまみも伊勢志摩にちなんだものが揃えられている。「赤福」や「米粉バウムクーヘン」など、伊勢志摩スイーツも充実しているのに加え、コーヒーは「ハワイコナブレンド」や「ブルーマウンテンブレンド」など4種類が用意されるこだわりぶり。これらのメニューはカフェ席で楽しめるほか、一部は自席に持ち帰ることもでき、個室ではルームサービスも可能と、まさに至せり尽くせり。販売カウンターでは、車内限定の「しまかぜ」グッズも販売しているので、鉄道ファンの方は要チェックだ。

○バリアフリーや化粧直しもバッチリ

お手洗いと、化粧直しができるパウダールーム。列車でくつろいだ後に嬉しい設備だ。
お手洗いと、化粧直しができるパウダールーム。列車でくつろいだ後に嬉しい設備だ。

このほか、車いす対応の座席や着替え台もある化粧室、喫煙スペースも設置。さらに女性に嬉しいパウダールームまで用意されている。これまで単なる移動手段であった列車から、移動そのものを楽しみ、さらには旅の一部となるおもてなしの設備が満載されているのだ。

豪華な設備に、心温まるおもてなし。快適な車内でくつろいでいると、あっという間に伊勢志摩へ到着である。乗り込んだときと同じく、かすかに聞こえるBGMに見送られてホームへ降り立てば、今回の旅の目的地はもう、すぐそこだ。

これまでにないプレミアムな旅を約束してくれる、近鉄特急「しまかぜ」。大阪難波・近鉄名古屋~賢島間を1日各1往復している(毎週水曜日は原則運休)。人気の高さから指定券の取りにくい状況が続いているが、乗車日の数日前にはキャンセルが出ることもあり、狙い目だとか。今アツい伊勢志摩へ、プレミアムな風に乗ってみてはいかが?

訓練として橿原神宮前にも入線。いずれここを走る「しまかぜ」に乗車できるかも?
訓練として橿原神宮前にも入線。いずれここを走る「しまかぜ」に乗車できるかも?
鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

伊原薫の最近の記事