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鉄道ファンよ、思い出の列車に泥を塗らないで・・・

伊原薫鉄道ライター
まもなく運行終了となる「トワイライトエクスプレス」毎日多くのファンが集まる。

来月のダイヤ改正で、日本を代表する豪華寝台特急「トワイライトエクスプレス」が運行を終了する。25年以上にわたって大阪~札幌間を走り続けた人気列車の最後を巡って、撮影地や車内で鉄道ファンなどによる「暴走」が、残念ながら後を絶たない。「トワイライト」に限らず、鉄道ファンの撮影マナー等が問題になっている昨今、ここで「負の連鎖」を断ち切るためにも、あえて問題提起させていただきたい。

「トワイライトエクスプレス」を待つ撮影者。そこに入ることの是非を考えてほしい。
「トワイライトエクスプレス」を待つ撮影者。そこに入ることの是非を考えてほしい。

まずは上の写真を見てほしい。これは私の友人がSNSに上げた写真である。

場所はJR北陸本線の某有名撮影地。3月で運行終了となる「トワイライトエクスプレス」を撮影するために、「撮り鉄」数名が立っている場所は、ガードレールの向こう側、どう見ても「入っていい場所」には見えない。JRの敷地境界ギリギリのところに三脚を立てていたそうだが、この辺は突風が吹く場所で、もし三脚が線路内に倒れたら・・・そしてそこに列車が進入してきたら・・・どうなるかは想像に難くない。

この友人によると、近くに路上駐車したり空き缶やごみを放置したりするなどの迷惑行為が、この付近でも多発しているという。通報を受けた警察が、路上駐車の取り締まりに来たこともあるようだ。

ここに限らず、「撮り鉄」による撮影マナーについてはあちこちで問題となっている。あるところでは私有地に無断で立ち入り、あるところでは樹木を切り倒し、そして鉄道敷地内でカメラを構えて列車を止める・・・。私も「撮り鉄」の端くれであるので、彼らが考えていることは想像できる。あと1メートル、あと50センチ近づけば、もっと「かっこいい」=邪魔な電柱や人が写っていない、列車の前面に影がかからない、ベストな写真が撮れる。だから近づく。柵の中に入る。だが、それは決してやってはいけないことなのだ。そもそも、鉄道敷地内に入ることは犯罪である。そんなところで撮影した写真は公開できるはずもなく、そして何よりも危ない。

近年、いわゆる「有名撮影地」と呼ばれる場所で、高いフェンスが設置されたり、立ち入り禁止になったところが少なくない。そういった場所で、一部の撮影者はそのフェンスを乗り越え、人目を盗んで立ち入り撮影する。その行為が、自分で自分の首を絞めていることがわからないのだろうか。そういうことをするから、鉄道会社はさらに対策を強化するのだ。

駅のホームでもそうだ。大勢の鉄道ファンがルールを守って撮影している。その一方で、三脚や脚立を使ったり(ホームでの三脚や脚立の使用を禁止している駅も多い)、ホームから落ちそうなほど身を乗り出して撮影している撮影者もいる。写真に入るからと一般の乗客を怒鳴り散らし、列車が出発する前に1枚でも多く撮るために、三脚を伸ばしたままホームを走る。そこで鉄道会社は危険防止のため、ホームの端にロープを張り、警備員を配置する。写真が撮りにくくなると、ロープからモグラ叩きのようにカメラを出し(気づかれる前に撮影できればok)、自撮り棒よろしくカメラを付けた三脚を掲げ(バランスを崩して他人の頭上に落ちたらどうするのか)、さらに危険な行為へと走る。その先にあるのは、最終的には「ホームでの撮影禁止」である。正に自業自得だ。

どうか一度、冷静になって考えてほしい。あなたのその撮り方が原因で、明日から撮影禁止になったら、元も子もないではないか。この場所にフェンスができてから後悔しても遅いのだ。5年後も10年後も、この場所でいい写真が撮れるように、撮影者全員が少しずつ自制することが、より鉄道趣味を楽しめる環境になる第一歩だと思う。

赤川鉄橋の最後の姿を収めようと集まった撮影者。多くの人が身を乗り出している。
赤川鉄橋の最後の姿を収めようと集まった撮影者。多くの人が身を乗り出している。

ところで、これは撮り鉄だけの問題ではない。左の写真は2013年10月に大阪・城東貨物線の赤川鉄橋で撮影したものである。この鉄橋の、線路の横を通っている歩行者道路がこの月末で閉鎖されることになり、その姿を写真に収めようと多くの人が集まった。この時、欄干から身を乗り出し、閉まっている踏切の下から覗きこみ、手をいっぱいに伸ばして携帯電話で撮影していたのは、そのほとんどが(鉄道ファンではない)一般の人々だった。運転士が危険を感じ、列車が非常停止したことも、私が見ただけで2回あった。

最近は、携帯電話やスマートフォンで気軽に写真が撮れる。駅で偶然見かけた珍しい列車に、思わずカメラを向けることも多いと思う。どうかその時、今そこが危険な場所ではないか、立ち止まって確かめてほしい。前にいるあなたが1歩下がれば、後ろの10人も1歩下がって撮影できる。あなたが身を乗り出すから、後ろの10人は更に身を乗り出すのだ。車と違い、列車は急に止まれなければ、人を避けることもできないのだから。

「トワイライト」車内のスタンプ。盗まれたのか、1つが途中でなくなった。
「トワイライト」車内のスタンプ。盗まれたのか、1つが途中でなくなった。

次はこの写真だ。先日「トワイライトエクスプレス」に乗車した時、4号車のサロンカーに設置されているスタンプを押した。写真左側が発車後しばらくして他の乗客とワイワイ言いながら押したもので、右側は夜も更け人もまばらとなった頃に押したものだ。スタンプが1つ足らないのがお分かり頂けるだろう。通りがかった車掌さんにスタンプが足りない旨お話しし、どこかに落ちていないか探したのだが、結局出てこなかった。どうやら盗難に遭ったらしい。

これが、鉄道ファンの仕業かどうかはわからない。だが、スタンプを盗って一体どうするのだろうか。このスタンプは手作りの品で、人に見せて自慢したところで盗難品であることはそのうちわかる。転売なんてもってのほか、1人でしまいこんで時々取り出し、ニヤニヤするのか。いずれにせよ、このスタンプは「トワイライト」の車内にあってこそ意味があるもので、個人が持っていても何の価値もなく、それ以前にれっきとした犯罪である。

今もこのスタンプは見つかっておらず、この車両のスタンプは1つが欠けたままだという。あなたのその行為が、念願の「トワイライト」に乗車した数百人・数千人をがっかりさせているのである。これが盗まれたのではなく、酔っていたか何かで偶然ポケットに入れてしまったもので、今からでも遅くないから勇気をもって返してくれることを祈りたい。

あと1か月足らずで、「トワイライト」をはじめいくつかの列車がその歴史に終止符を打ち、また北陸新幹線など様々な列車が新たにデビューする。これまで多くの歴史と思い出を残してきた列車の最後のページを、これから活躍を始める列車の1ページ目を、我々鉄道ファンはもちろん、少しでも縁のあった人々が汚さないよう、切に願う。

北陸新幹線の試験一番列車を出迎える人々。どうせなら、楽しく見送り出迎えませんか?
北陸新幹線の試験一番列車を出迎える人々。どうせなら、楽しく見送り出迎えませんか?
鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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