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日本アニメは中国で戦えるか?「中国コンテンツビジネスの現状と可能性 関連する法制度と諸事例」レポート

飯田一史ライター
(写真:ロイター/アフロ)

2015年7月24日に一般財団法人デジタルコンテンツ協会が開催した「中国コンテンツビジネスの現状と可能性 関連する法制度と諸事例」(BLJ法律事務所・遠藤誠氏発表)のレポートをお届けする。

遠藤氏は北京に2006年から2011年まで駐在経験もあり、十数年中国ビジネスに携わり、現在も日本企業を主なクライアントに中国関係の法務を行う弁護士である。

遠藤誠

1998年弁護士登録。2002年に米国シアトルのワシントン大学ロースクールを卒業後、東京の大手事務所で執務。2006年~11年、北京事務所に駐在。13年4月にBLJ法律事務所(http://www.bizlawjapan.com/)を立ち上げ独立、中国等の外国との渉外案件・知財案件を中心とする企業法務案件に従事している。

遠藤氏によれば、

(1)中国市場では一部に本物志向の傾向が現れており、偽物ばかり買っているわけではない

そもそも対面販売型の模倣品DVDに関しては主に観光客や出張者、駐在員が買っていくものである。中国人の多くはDVDではなく、インターネットで観るという。

(2)近年、中国政府は知財権侵害・海賊版に対する摘発も積極的であり、以前よりも力を入れているし、商標法や特許法の改正も行っている(一方では表現の自由、報道の自由に対する規制は強化されている)

地方はともかく北京、上海の裁判官は真摯で優秀であり、日本企業が負けっぱなしというわけではない(ただし、明らかにパクリの商標などを取り消すのにも、取り下げてもらう側の企業が裁判所に十分な証拠を出さないといけないので大変ではある)。

(3)中国国内コンテンツ産業の保護・発展奨励政策を行い、アニメ、映画、テレビドラマ育成に注力している。

2004年以前は中国で放映されるアニメはほとんど外国のものだったが、中央政府、地方政府は国産アニメに優遇制度を創設し、補助金を出すようになった。中国のテレビ局のアニメ番組の放送における国産率を60%以上とすべきことを規定したため、外国アニメのシェア率は一気に下降した。

05年「中国アニメ創作発展促進に関移管する具体的措置」を発布し、17時~21時の時間帯にテレビ局が放送できるアニメ番組は国産アニメのみとなり、子ども向けチャンネルにおけるアニメ国産率は70%以上となった。その後、上記時間帯は22時まで延長されている。

したがって中国のTVメディアへの外国産アニメの参入は容易とは言えない(インターネット上での流通に関しては後述)。

(4)投資関連法令(外商投資)に関しては、中国側の協力者を探してきて共同出資するか、中国資本100%でつくることが基本だが、外国企業が中国に現地法人を設立してビジネスを行うことは、一般的には規制緩和の傾向にある

ただしコンテンツ関連についてはあまり進んでいない。また、認可を出すか出さないかは担当者の広い裁量があり、法令上できるはずのことでも、運用上、担当者が認可を出さないこともある。

(5)日本企業の中国へのコンテンツ輸出の最近の動向はと言うと…

『STAND BY MEドラえもん』のが2015年5月30日の上映収入は8500万元となり、中国映画史上、一日の収入の最高記録となった。

一方で、2015年6月の上海国際映画祭では、「進撃の巨人」が上映中止となった(規制強化の影響)。

さらには中国政府文化部が日本のアニメ38作品について輸入禁止リストを出し、「未成年者を犯罪に誘い、暴力・欲情、テロ活動を助長する内容が含まれる」ことを理由にインターネット配信が禁止された。

リストアップされた作品の8割~9割は暴力表現やオカルト的な画像が含まれているものであり、残りは若い女の子の裸に近いものが入っているものである(今回公表された38作品これはあくまで一部基準であって、今後、ほかに禁止されるものもあるという)。

これらの理由から、日本企業は「どうせ中国政府は許可を出さないだろう」と諦めを持っていることが多い。

ではこれらを踏まえて、具体的な施策としてはどんなものがありうるのか?

遠藤氏は、日本のコンテンツの輸出が認められるかどうかは中国政府の判断次第であり、当該判断に対して日本企業は口出しできない――が、しかしコンテンツの輸入、上映などが許諾されるか(法規制が適用されるか)どうかを政府に対して働きかけるのは本来、輸入する中国企業側の責任である、と言う。

日本企業が中国企業にライセンスした場合、そこからあとは日本企業がやること、できることは実はあまりない。

ライセンシーである中国企業側が政府と交渉する努力を負う(日本企業が責任を負うわけではない――その旨、契約書にも明記しておいたほうがよい)。

よって、日本企業としては「そういうものである」ことを前提として、どうビジネスに繋げできるかを考えるべきである。

たとえば、もし中国でのアニメ上映が不許可になった場合は、逆に、中国人観光客向けに日本アニメを日本国内で上映・販売すること(旅行パッケージとして用意する)も検討に値する。

さらに言えば、単発のライセンスだけで終わらせるのではなく、戦略的にまとまった方策――たとえばアニメはあえて無料または安価で流通させ、アニメキャラクターのグッズ販売で利益を稼ぐリクープするといったビジネスモデルをとるといったこと――も考えられる、と。

最後に私見を差しはさめば、中国のコンテンツ市場は急成長と変化の只中にあり、指をくわえて待つのではなく、方法論を考えて積極的にチャレンジすべき、というメッセージが印象的なプレゼンテーションだった。

(取材・文 飯田一史)

ライター

出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経験した後、独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材&調査してわかりやすく解説・分析。単著に『いま、子どもの本が売れる理由』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』『ウェブ小説の衝撃』など。構成を担当した本に石黒浩『アンドロイドは人間になれるか』、藤田和日郎『読者ハ読ムナ』、福原慶匡『アニメプロデューサーになろう!』、中野信子『サイコパス』他。青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。息子4歳、猫2匹 ichiiida@gmail.com

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