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シェイクシャックが「ホルモン剤不使用」にこだわる理由

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
シェイクシャック日本1号店(外苑いちょう並木店)(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「ニューヨークのベストバーガー」の称号を引っさげ、昨年11月、華々しく日本デビューを果たした米ハンバーガーチェーンのシェイクシャック。東京の明治神宮外苑内に開いた1号店に続き、2号店が今月15日、東京のJR山手線恵比寿駅の駅ビル内にオープンした。

平日午後、恵比寿の2号店に立ち寄ると、ランチタイムはとっくに過ぎているのに、注文客の列は店外にまであふれ、最後尾で立て札を持っていた警備員に尋ねたら、最大40分待ち。店内はほぼ満席で、女性客やビジネスマン風の若い男性客などで賑わっていた。

人気の理由は、味やボリューム感、おしゃれなイメージにあるようだが、シェイクシャック側が強調するのは、使用する食材の安心・安全へのこだわりだ。

メニューには、「ホルモン剤を一切使用していないアンガスビーフ100%」「ホルモン剤や抗生剤を一切使用していないベーコン」「糖分は砂糖のみを使用し、コーンシロップなどは使用していません」といった、安心・安全を強調する説明が並ぶ。

飲み物も、有機りんごジュースや、有機ワインで有名なカリフォルニア州ナパバレーのワイナリーに作らせたワインをメニューに加えるなど、一工夫。さらには犬用のクッキーにも着色料を一切使わないなど、なかなかの手の込みようだ。

安心・安全なものを消費者に提供するのは、当然と言えば当然。だが、ここまで安心・安全にこだわり、それをアピールするファストフード店は珍しい。シェイクシャックはなぜ、そこまでやるのか。

消費者ニーズとらえ急成長

実は、シェイクシャックの地元米国では今、消費者の間で、食の安心・安全への関心が急速に高まっている。特に関心が高いのが、遺伝子組み換え、抗生物質(抗生剤)、成長ホルモン剤(ホルモン剤)、人工添加物の問題。また、家畜が倫理的に扱われているかどうかといった動物福祉も、消費者が食品や店を選ぶ際の判断材料になっている。

こうした消費者意識の変化をいち早くとらえて急成長した新興ファストフードチェーンの一つが、シェイクシャックだ。日本でも食材の安心・安全にこだわるのは、それがシェイクシャックの成長の原動力となってきたからである。

では、シェイクシャックが使用しないと決めている成長ホルモン剤や抗生物質は、なぜ安心できないのか。

成長ホルモン剤には家畜の成長を早める効果があり、米国では多くの畜産農家が日常的に使用している。家畜が早く成長すれば、それだけ早く出荷でき、餌代の節約にもなるからだ。乳牛に成長ホルモン剤を与えると、搾乳量が10%以上増えるため、乳牛にもふつうに使われている。

ホルモン剤に発がん性の疑い

しかし、成長ホルモン剤の成分が残留した牛肉や牛乳を人が摂取すると、子どもの成長に異常が生じたり、がんを発症したりする可能性が以前から指摘されてきた。女の子の初潮年齢の早まりは、牛肉や牛乳に残留する成長ホルモン剤の影響ではないかとも言われている。

このため、EU(欧州連合)は、域内で飼育する牛への成長ホルモン剤の使用を認めておらず、成長ホルモン剤を使用した牛肉の輸入も禁止している。日本は、国内で飼育されている牛には、成長ホルモン剤は使われていないが、輸入牛肉に関しては、ホルモン剤の残留量が国の基準値以下なら、輸入を認めている。つまり、国内のスーパーで売られている米国産牛肉や外食で口にする米国産牛肉は、成長ホルモン剤入りの可能性が高い。

抗生物質も、人への影響が懸念されている。家畜に抗生物質を使うのは、病気を治療するためだけではなく、病気の予防や、ホルモン剤同様、成長促進の目的がある。抗生物質の最大の問題は、過剰に投与すると、その抗生物質に耐性を備えた耐性菌が体内に生まれ、同じ抗生物質が二度と効かなくなること。耐性菌に汚染された食肉を人が食べたり触れたりすると、家畜の耐性菌が人に感染し、その人が病気になった時に抗生物質が効かない可能性が出てくる。そうなると、治療が不可能になり、軽い病気でも死亡する可能性が高まる。

抗生物質の人への影響を危惧したEUは、2006年、成長促進を目的とした家畜への抗生物質の使用を禁止した。一方、米国はこれまで、家畜への抗生物質の使用は事実上野放しだったが、オバマ大統領は2014年、抗生物質の使用削減に動き出している。日本は、成長促進を目的とした抗生物質の使用は、飼料安全法に基づいて一定の規制をかけているが、使用そのものは禁止していない。

マクドナルドなども追従

米国では、シェイクシャックなどの成功に刺激を受け、大手ファストフードチェーンや大手食品メーカーの間で、消費者が安心できる食材に切り替える動きが急速に広がっている。例えば、マクドナルドは昨年、発がん性の疑いが指摘されている人工ホルモン剤(rbST)を投与した牛のミルクを、米国内店舗のメニューから外すと発表。同時に、鶏肉に関しても、人の病気の治療に使われる抗生物質と同種類の抗生物質を投与した鶏の肉は、今後使わない方針を公表している。

食の安心・安全を追求し、米国のファストフード業界に変革をもたらしたシェイクシャック。果たして、日本でも旋風を巻き起こすことができるだろうか。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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