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米国、大麻がタバコを逆転へ

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

マリファナ(大麻)の常用者数が、タバコの喫煙者数を数年内に逆転――。米国で、こんな見方が出始めている。

喫煙に厳しい米国では、タバコに関する規制強化が進み、喫煙者が年々、減少。半面、大麻は、各州で次々と合法化され、常用者の数がうなぎ上りに増えている。有力紙ワシントン・ポストは今週、「(この傾向が続けば)数年内に、大麻がタバコよりも、より普及することになるだろう」と報じた。

カリフォルニアも解禁へ

米国では、医療目的での大麻の使用は、すでに約半数の州で認められている。しかし、タバコのように嗜好用に吸引することは、これまで非合法だった。

ところが、コロラド州が2014年、住民投票の結果を踏まえ、全米で初めて嗜好用の大麻の使用を解禁。合法化の動きは瞬く間に広がり、現在は、ワシントン、アラスカ、オレゴンの各州と、首都ワシントンDCでも、嗜好用の使用が認められている。

今年11月には、全米最大の人口を誇るカリフォルニア、大都市ボストンを抱えるマサチューセッツのほか、メーン、アリゾナ、ネバダの合計5州で、大麻合法化の是非を問う住民投票が、大統領選挙と一緒に実施される。

最新の世論調査によると、カリフォルニア州では、投票に行くと答えた有権者の60%が大麻の合法化を支持。反対の37%を大きく上回っている。

連邦法は大麻を禁止しているが、政府は今のところ、各州の動きを静観している。

常習者は3,300万人

ギャラップ社が8日発表した世論調査結果によると、大麻を吸っていると答えた成人の割合は全成人の13%に達し、2013年の7%からほぼ倍増。現在の米国の人口に当てはめると、3,300万人を超える。合法化の流れが強く影響しているとみられている。

以前にも書いたが、大麻合法化の流れには、3つの大きな要因がある。

第1は、現状追認。米国の多くの若者にとって、大麻は、大人の仲間入りをするための通過儀礼のようなものだ。非合法でも、現実には、大麻を吸う若者は多い。感覚的には、日本の若者が、未成年でも親の目が届かなくなったらタバコを吸い始めるのと似ている。クリントン元大統領もオバマ大統領も、若いころに大麻を吸ったと告白しているが、ほとんど問題視されなかった。

第2は、タバコに比べれば健康に害がない言われている点だ。つい最近も、「大麻を長年吸い続けても健康への悪影響はほとんどない」とする、アリゾナ州立大学の研究者らによる研究結果が、医学専門誌に掲載された。依存症に陥る可能性も、タバコより低いと指摘する専門家は多い。

第3に、大麻の不法所持で検挙されるのが黒人に偏っているという問題がある。黒人団体や人権団体は、大麻を取り締まる法律は人種差別的だと強く非難している。また、大麻の所持が、銃の所持などに比べれば重大事件につながる可能性が低いにもかかわらず、その取り締まりに警察官を動員するのは、税金の無駄遣いとの批判も多い。

タバコ人口は尻すぼみ

一方、米疾病対策センター(CDC)によると、米国の推定喫煙人口は、2014年現在で、全成人の16.8%にあたる約4,000万人。2005年の20.9%から約4ポイント低下している。米国では、1995年にカリフォルニア州が他州に先駆けて公共スペースでの喫煙禁止を打ち出して以来、喫煙できる場所はどんどん狭まっており、タバコ離れが進んでいる。

今年に入ってからも、ハワイ州やカリフォルニア州が合法的に喫煙できる年齢を18歳から21歳に引き上げるなど、規制は一段と厳しくなっている。喫煙人口がさらに減少するのは確実だ。

大麻人口とタバコ人口が数年以内に逆転するとの予想は、かなり的を射ていると見て間違いなさそうだ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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