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米カップヌードル、脱“味の素”

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:Reuters/AFLO)

米国でもファンの多い「日清食品カップヌードル」が、1973年の現地発売以来、初めてレシピを大幅に変更し、話題となっている。変更は、塩分の削減、人工香料の自然香料への切り替え、そしてMSG(グルタミン酸ナトリウム)の添加中止の3点。MSGは「味の素」の主成分だ。背景には、米消費者の自然志向、健康志向の高まりがある。

「歴史的変更」

日清食品グループのNissin Foods (U.S.A.) Co.(アメリカ日清)は、9月15日、「アメリカ日清は、その象徴的ブランドである『カップヌードル』のレシピの歴史的変更を行った」と発表した。

米主要紙ロサンゼルス・タイムズは同日、「消費者の健康志向が高まる中、カップヌードルが史上初めてレシピを変更」と伝え、変更の中身やその背景を詳報した。カップヌードルに対する米国民の関心の高さをうかがわせるエピソードだ。

アメリカ日清によると、変更の内容は次の通り。

塩分の削減は、「チキン風味」など特に人気の3風味に関しては、従来の製品より20%以上削減、その他の風味については15%前後、削減する。風味を強化する香料に関しては、化学合成した人工香料の使用を止め、ターメリックやパプリカ、ライムなど自然由来の香料を使用する。MSGの添加は全面的に中止。ただし、トマトや唐辛子などの農産物に少量含まれる自然由来のMSGに関しては、その限りではない。

根強いラーメン人気

日本風のラーメンは、米国人の大好きなイタリア料理のパスタをイメージさせるからか、米国でも人気だ。ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市では、ラーメン店が次々とオープンし、その都度、マスコミに取り上げられている。その中でもカップヌードルは、安価で、お湯を注ぐだけですぐに食べられ、しかもお腹にたまるとあって、お金のない大学生など若者を中心に根強い人気がある。

ただ、「世界ラーメン協会」によると、米国では、2015年のインスタントラーメンの消費量が2年連続して減少するなど、ラーメンブームとは裏腹に、インスタントラーメン人気に陰りも見られる。インスタントラーメン業界にとって、米国は中国、インドネシア、日本、ベトナムに次ぐ世界5位の市場だけに、日清食品にとってもテコ入れは急務だ。アメリカ日清は11月、レシピの抜本変更に合わせ、同社としては初めて、全米規模のキャンペーンを展開する計画だ。

自然・安全志向を反映

その日清が、同社の象徴でもあるカップヌードルを再び成長軌道に乗せるために目を付けたのが、米消費者の自然志向、健康志向だ。

肥満や高血圧が死因の上位を占め、大きな社会問題となっている米国では、政府や専門家が、糖分や塩分の摂取量を減らすよう口を酸っぱくして呼びかけている。同時に米国では、農薬や化学肥料、遺伝子組み換え技術などを使わない有機食品が飛ぶように売れるなど、「できるだけ自然なものを食べたい」という消費者ニーズが、かつてなく高まっている。ちなみに、同様の傾向は、EU諸国でも見られるなど、先進国共通の現象となりつつある。

カップヌードルの抜本的なレシピ変更も、こうした米国の消費者ニーズを映したものだ。アメリカ日清のアル・ムルタリ社長は、「お客様の声を聞いた結果、お客様は、従来の味を変えることなしに、塩分の低減、MSGの無添加、人工香料の不使用、の3つを商品に反映させることを望んでいることがわかった」と、レシピ変更の理由を説明している。

MSGは義務表示

今回のレシピ変更で特に注目されるのが、MSGの使用中止だ。MSGは、日本ではほとんど聞かない言葉だが、グルタミン酸ナトリウムを意味するmonosodium glutamateの略。味の素のホームページによると、うま味調味料「味の素」の成分は、「グルタミン酸ナトリウム97.5%、イノシン酸ナトリウム1.25%、グアニル酸ナトリウム1.25%」。つまり、MSGは、ほぼイコール「味の素」だ。

MSGは、日本では家庭用、業務用ともに幅広く使われているが、米国の消費者には評判が良くない。食品安全行政を担当する食品医薬品局(FDA)は、食品に人工的に添加されるMSGに対し「安全」のお墨付きを与えている。しかし、MSGを添加した食品を食べて、頭痛や吐き気など様々な症状を訴える例が多数、報告されているため、FDAは、MSGを添加した食品は、その旨をパッケージに明記するよう義務付けている。こうした経緯から、米国では、米国に進出している日本の食品メーカーを含め、「MSG無添加」を強調する企業は多い。

果たして、MSGと決別した新生カップヌードルは、自然志向、健康志向を強める米国の消費者の心をつかむことができるだろうか。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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