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「女性手帳」は誤報?国会では勘違い系コントが繰り広げられた模様。

井上明人ゲーム研究者

ここのところ具合が悪くて寝込んでおり、かつ日本におりませんもので、「女性手帳」がホットなネタを今朝になって知る、という情報アンテナの優秀さ加減に驚かれたりする日々を過ごしております。ほんとに今朝、知りました。たった10日遅れでの最新情報入手です。

さて、それで、なんのこっちゃいと調べてみたのですが、なるほど、どうやら「誤報の部分が多い」と。当該の森まさこ大臣が申しあげているとおり、なるほど、新聞報道には、ちょっと言い方がわるいところがあるようです。

とりあえず、少子化危機突破タスクフォースの資料一覧と議事録と、ネットで見られる範囲の新聞報道、それと、参議院インターネット中継のアーカイブも、見て確認しましたが、なるほど、これがインターネット住民の怒りを買ったのはよくよく理解いたしました。

確かに、こういう報道のされ方であれば「女性手帳」案は怒りを買うでしょう。そりゃそうでしょう。

ただ、私の個人的な感想としましては、5月9日の参議院内閣委員会での蓮舫さんと、森さんの、やりとりが、たいへんにおもしろい。むしろ、これは、おもしろコントとして広めるべきではないか、と強く思った次第です。まだ国会の議事録にもあがっていないようですので、やや長いですが、該当部分を書き起こしてしまいました。

以下、書き起こしです。

■5月9日の参議院内閣委員会でのやりとり

蓮舫:これはどうしてもこれは理解できない。女性手帳とはなんでしょうか。

森:女性手帳ということは何も決まっておりません

蓮舫:少子化危機突破タスクフォース。これは森大臣が議長をつとめられていらっしゃる。ここで手帳の概案できてませんか?

森:できておりません

蓮舫:「妊娠・出産に関する知識の普及教育。そこで、案として生命と女性の手帳の配布等」とあります。これはなんでしょう。

森:タスクフォースの議論ではございません。

…あの、政府の施策をお尋ねになるんでしたら、政府の議事録や、とりまとめ。その報告書を基にご質問をいただきたいと思います。

蓮舫:議事録はまだアップされてません

森:それでは何をもとに質問してるんですか…?

蓮舫:少子化危機突破タスクフォースで議論をされた「妊娠・出産に関する知識の普及、教育」の資料を事務局からいただきました。これはただの民間のペーパーか。関係のないものですか?

森:少子化危機突破タスクフォースのもとにサブチームがあります。そのサブチームが作った資料でございます。その資料は配布されておりますが、それによって何かが決まったとか、とりまとめができたということはありません。

蓮舫:これは…その…(失笑)…小チームであろうとなんだろうと、タスクフォースのもとで、最終的なとり…まとめの中の一項目になる、と思います。「自分の関与しない」という先ほどの答弁とは…関……まったく整合性が合わないのではないですか

森:とりまとめになるという、その根拠がわかりません

蓮舫:もう一回教えてください。どこでこの議論はされてるんですか?

森:会議というのものは有識者の皆様がそれぞれの知見をもちよって、最終的にとりまとめができますけれども(省略)蓮舫議員のおっしゃることの意味は私はわかりません。

(野次)

静かにしていただけませんか。

いま、タスクフォースでこのような議論がなされています(省略:議論の内容を詳細に紹介。医学的に高齢の妊娠が難しいという話が議論されているという話を紹介)

議長:あの、大臣、ちょっと…

森(議論の内容の紹介を続行)

議長:大臣…!

森(議論の内容の紹介を続行)

議長:ちょっと議事録止めてください!大臣!ちょっと、あの、限られた時間ですので

(録音ストップ)

…蓮舫くん

蓮舫:全くわかりません。タスクフォースで議論されてるんですか。されてないんですか。

森:「とりまとめをされると思います」ということについては、違いますといいました。まだ決まっていませんと言いました。ただ、議論をされているということはお答えしています。

議長:…あの……先ほどの蓮舫議員の質問は「女性手帳とはなんですか」という本当に、その…、単純な、ご質問でございますから、それがタスクフォースで議論をされているのであれば、そこはおっしゃっていただかなければ困ります。

森:そのような名称は出ておりません。

議長:はい!蓮舫くん

蓮舫:生命と女性の手帳という名称は出ています。さっき言いました、議論をしているとおっしゃいましたが、冒頭にこの女性手帳、生命と女性の手帳ということを聞いた時には「知りません」というお答えがありました。どっちが事実ですか。

森:冒頭には、議事録を見ていただければ分かるように「女性手帳」とはなんですかという質問がありました。女性手帳という名称は、議論されておりませんし、決まっておりません。

蓮舫:生命と女性の手帳とはなんですか

森:生命と女性の手帳(仮称)というものは、タスクフォースの下にある妊娠出産についてのサブチームについて、高齢出産、高齢妊娠の難しさについて啓蒙する必要があるということで、一つの資料として出ております

蓮舫:一つの資料ということは、確認しますけれども、今メディア等で報道されているのは、ぜんぶ誤報ということでいいですね。

森:このタスクフォースは、報道に公開をされています。その公開されている議論を聞いて、た、記者さんが書いていれば、このような報道はされないと思います。

ですから、私は誤報の部分が多いと思います

蓮舫:…公開され…て…それを聞いてない記者が書い…て…それが…誤報…なら…訂正を要請したほうがいいと思います

森:はい。訂正をしていただきたいと思います。

■どこまでが「誤報」だったのか?

…と、まあこんなやりとりでした※1。ナマのものが見たいかたは、参議院インターネット中継のアーカイブから5月9日の蓮舫議員の質疑を見ていただけるとよろしいかと思います。

蓮舫さんが、途中で失笑してしまうあたりや、ダ・イ・コ・ン・ラ・ン状態に陥ったあたりで、議長も巻き込んで、わけがわからない感じになっていくありさま。そして、最後の最後に、さしもの蓮舫さんも、「ちょっと、待ってくれ…(笑)」状態に陥ったのか、言いよどみながら「…訂正を要請したほうがいいと思います」などと、しごく当たり前と言いますか、もう「それはそうですね…!」としか言い様のない発言をせざるを得なくなるまでのくだりなど、なかなかにすばらしいコンテンツとなっているな、と。感動した次第です。

さて、ただ注意するべきは、「ぜんぶ誤報」なのか、と蓮舫さんに問われての、森さんの応答が「全部誤報です」ではなく、「誤報の部分が多いと思います」という微妙な受け答えになっているところです。

どういうことか。

まず、第一点目。

「30歳半ばまでの妊娠・出産を推奨」するものなのかどうか。

これについては、5月5日の産経新聞報道では、「30歳半ばまでの妊娠・出産を推奨」という表現が見当たる※2のですが、タスクフォース内の議事録では、それは見当たりません。ざっと見た感じ、おそらくですが委員の中では齊藤英和さんというお医者さんの方が、妊娠出産についての医学知識の啓蒙をかなり努力されていらっしゃる方ですので、この方から啓蒙の話自体は出てきたのでしょう。「女性はさっさと子どもを産め」という無神経で抑圧的な物言いではなく、やはり医学知識の普及という観点が強い。第三回(5月7日)のタスクフォース議事録では「妊娠について、自由度を阻害するという意味ではなく、基礎的な知識を伝えていくことは大事ではないかという議論」という表現があり、妊娠・出産の自由度については神経を配りたいという意図が表現されています。※3

第二点目。

女性手帳導入については、どのような段階で、どの程度前向きなのか。

これは、森さんがおっしゃられている通り「一案として検討されている」という段階ではあるようです。特に名称についてはまったく決まっていない、ということなのだと思います。…が、公開されている議事録や資料をみる限り4月16日に開催されている少子化危機突破タスクフォース第二回の議事録では「女性手帳について議論が活発に行われた。委員からは基本的には賛成という意見が多く」「座長からは大きな柱になるので、サブチームでしっかり議論をしてほしいとの話」という表現。5月7日の第三回の議事録では「手帳については、全ての委員が大変大事ではないかという認識であった。」となっております。最終報告書に盛り込むという文言は、公開資料からは見えないのです。議事録を読む限り「最終報告書に盛り込むことを決めた。」といういくつかの新聞報道で見られる話はウソかホントか判別不能です。…が、手帳について「検討」されたという表現は、まあ、誤報とは言えないのでは。けっこう前向きみたいですし。

このやりとりがあった直後の5月10日の産経でも、「導入を検討している」という表現は変わっておらず、新聞社としても「検討」までなら、表現としてオーケーだろうという判断なのだと思います。ただ、5月9日のことを報道している記事で「誤報の部分が多い」という結構インパクトのあるやりとりが記事にならず、別の部分に焦点のあたった記事構成になってしまうのは何故なのでしょうね。新聞社の感覚がわからない門外漢としては、いささか理解に苦しみます。

■誤報はなぜ、「誤報」として広まらないか。

確かに突っ込まれ要素がある案ではあるにせよ、情報に尾ひれがついた状態になって受け取られているということはやはり、望ましいことではない、と思います。

さて、ここからがようやくもう一つの本題です。

マスメディアは「一切誤報を流すな」とか「デマを許すな」という考えを私はもっていません。予算、読者層、チェック体制等のいろいろな制約により一定確率で情報におひれがついたり、デマが流れるという事態は確率としては否定しがたく存在するかと思います(※4)

誤報率を減らしていくための制度的とりくみはもちろん重要だと思うのですが、「誤報である、という情報がきちんと伝わる」ということがより重要だと思っています。

誤報だ、デマだ、という情報は広まりが遅いものと、そうでないものがあります。

日本報道検証機構がマスコミ誤報検証サイトの「Gohoo(ごふー)」などというものを展開しているようですが、まあ、日々チェックされる方は、あんまりいらっしゃいませんよね。

誤報ネタは、炎上ネタと比べると、ネタとしての強度が弱く、拡散しにくい傾向があるかと思います。

ただし、すべての誤報がつまらないわけではありません。

たとえば「森口尚史のiPS細胞移植手術は誤報」という話です。

まさか、そんな人生かけたホラを吹く人がいたのか……っ!!ということが驚愕をもって多くの人の歓心を買い、新聞社の手落ちということ以上に、キャラクターが立ちまくっており、メディアでさんざんとりあげられました。

要するに、誤報周知の情報拡散がおもしろければ、いいわけです。

■誤報周知をおもしろくする3つの案

さて、そこでご提案。

いくつか、誤報の周知を面白くする案を考えてみました。

誤報をした人にペナルティを与えるのとかは、なんか、あんまり気楽にできる感じじゃなくなるので、なるべく誰かに罰を与えるとか、そういうのは「ナシ」という方向性で。

1.#蓮舫の心中を推測してみる

蓮舫さんが、国会質問中、「ちょ、おま…違うのかよ…!」と気分に陥ったであろうことは、推測に難くありません。

どのような心理状態にあったのかを、勝手に推測してみることはなかなか奥深い楽しみがあるのではなかろうか、と思っております。

たとえば、こんな感じのツイートでRT数/ファボ数を競ってみるのはいかがでしょうか。

  • 蓮:生命と女性の手帳とはなんですか 森:ただの資料です 蓮:決まってるとか誤報? 森:だいぶ誤報 蓮:(ちょ、勘弁…。この後の質問どうしよう……まじで…)…訂正…したほうがいいですね 森:そうですね  #蓮舫の心中を推測してみる
  • 蓮:生命と女性の手帳とはなんですか 森:ただの資料です 蓮:決まってるとか誤報? 森:だいぶ誤報 蓮:(おまえは何を言っているんだ)…訂正…したほうがいいですね 森:そうですね  #蓮舫の心中を推測してみる
  • 蓮:生命と女性の手帳とはなんですか 森:ただの資料です 蓮:決まってるとか誤報? 森:だいぶ誤報 蓮:(ちょ……な… 何を言ってるのか わからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった…催眠術だとか超スピードだとか…)  #蓮舫の心中を推測してみる

2.#森まさこの心中を推測してみる

逆バージョンです。

3.#誤報大喜利

また、今回の件に限らず、誤報全般に関する周知を、面白くする仕組みのようなものができれば、日本のネットがベターな場所になるのではあるまいか、と愚考しております。まあ、時間をかけて、いいものを作ることは可能かもしれませんが、とりあえず、すぐやれることとしては

#誤報大喜利

というハッシュタグをつけて、RT数/ファボ数を競ってみてはどうかと。

日本報道検証機構がマスコミ誤報検証サイトの「Gohoo(ごふー)」をみてみると、なかなかに面白い誤報もけっこうあります。いけそうです。

こんな感じで

  • 5月8日 読売 人民日報「沖縄も中国に領有権」の記述するが誤報。 5月11日 中国紙社説「沖縄領有権主張を示唆」 読売再び誤報(誤報、三回連続記録なるか…!)#誤報大喜利
  • 「がれき広域処理、大半3月末終了」 実際は一部だけ(ただし、「大半」が3割を意味すると解釈すれば、誤報ではない…!誤報では…ない…!)#誤報大喜利

とつけてつぶやくだけ。

■誤報記事に求められる秀逸なタイトル職人

世の中には、「お墓の「無料提供」に希望者殺到 本庄の長泉寺」というタイトルの記事を、「墓地が無料!急いで死ね!」などと変換してみせる、なんとも特殊な才能をもった人がいらっしゃいますが、「墓地が無料!急いで死ね!」というタイトルを考えた人には、何か特殊な精霊のチカラでも宿っているのではないか、と感じられてなりません。凡才には不可能です。

世の中には、検索ワードを利用したゲームや、節電をネタにしたゲーム※5もありうるわけでして、誤報の周知も、ひとつどうにか、日本のネットのネタコミュニティとして機能すれば、日本のネットコミュニティの未来は、明るいのではないか。

そう思います。

<注>

※1 やりとりはこの後も続き、蓮舫さんのほうから「議論されている内容」についてのツッコミがもう後数分ほど入りますが割愛します。

※2 同産経の記事の中でも、「医学的に30代前半までの妊娠・出産が望ましいことなどを周知」という記述が、記事の冒頭に見えますので、医学的見地からのものであることがわかるようにはある程度は書かれています。ですが、「女性手帳では、30歳半ばまでの妊娠・出産を推奨し、結婚や出産を人生設計の中に組み込む重要性を指摘する。ただ、個人の選択もあるため、啓発レベルにとどめる。」という記述が後半に登場しており、これは妊娠・出産について思い入れのある人が読めば政府側からのやや強制的な施策であるように読むことも可能ではある、というぐらいの記述かと思います。タスクフォースの会議でどういうやりとりがあったのか、私はわかりませんが、やはり、ここは産経の記者さんの表現の選択が強すぎたのではないか、と推測しております。もし、この記述の明確な根拠があるようでしたら、申し訳ありません>産経の記者さま

※3 もちろん、いくら選択の自由度に配慮して「生命と女性の手帳(仮)」をつくったとしても、「明示的には選択の自由度を制限せずとも、非明示的な意味が受け取られることを考えろ!」というツッコミはあると思います。確かに、非明示的な意味の制御は難しい問題かと思います。ですので、「国が手帳を配布」ということに慎重であるべき、という議論はまったくその通りかと思います。

※4 私も、思い込みで間違ったことをいうことがあります。すみません…。

※5 自分でつくりました。ステマです。すみません。

ゲーム研究者

1980年生。ゲーム研究者。立命館大学講師。現在、ゲームという経験が何なのかについて論じる『中心をもたない、現象としてのゲームについて』を連載中。著書に『ゲーミフィケーション』(NHK出版,2012)。ゲームの開発も行い、震災時にリリースした節電ゲーム『#denkimeter』でCEDEC AWARD ゲームデザイン部門優秀賞受賞。ほか『ビジュアルノベル版 Wikipedia 地方病(日本住血吸虫症)』など。

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