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立命館大学「ゲーム資料現物寄付」のページは、なぜ炎上してしまったか

井上明人ゲーム研究者

来月のあたまに、筆者が講演をさせていただく、立命館大学ゲーム研究センターのウェブページが、今朝起きたら、炎上していた。

私は、この件の当事者…というには、微妙な立ち位置ではあるが…

まずは、ゲーム研究のコミュニティの一員としては、ゲーム研究にご協力を検討していただける皆様に、不快な気持ちを起こさせてしまったこと自体に対して、お詫び申し上げたい。

と、同時に、本件については、情報が十分に伝わりきっていないところもあるようなので、当事者…に比較的近い立場の解説者というところから、状況を整理させていただきたい。

炎上の経緯

ことの次第は、私の認識する限り、次のような経緯である。

(1)だいぶ昔から※1、立命館大学ゲーム研究センターは、ゲームソフトのアーカイブを作るというプロジェクトを行っているのだが、2ヶ月ほど前に、複数の新聞や雑誌などで紹介された。

ゲーム研究の取り組みの一部が、きちんと世の中に紹介されるという点では、ゲーム研究者の一人である私としてもとても喜ばしい話だった。

この時点では。 

(2)だが、メディアで取り上げられたことによって、少しだけ困ったことが起こる。「ゲームを大学が集めている。寄付を募っている」という話を読んだ、読者の方が(おそらくは善意から)無断で、着払いでいらなくなったゲームを送りつけてくるという事案が発生したようだ。

今後、こういう事例が増えるとなると、もちろん、研究センターとしてはいささか困ってしまうわけで。多くの人からいきなり無断で着払いで、ものを送りつけられることになると、どれだけ予算がそこにかかるのかも、わからず、保管場所にも困ってしまう。なので、対応の必要が立命館サイドに発生する。まあ、「嬉しい悲鳴」といったところだろう。

(3)そこで対応策として、11月19日ごろに、ゲーム資料現物寄付 募集というページを関係者が告知した。

ざっくりと言うと、「ご寄付いただける場合、事前連絡をしていただきたい。」「原則、着払いでご送付いただいても対応は難しい」旨が記してあった。

(4)だが、この寄付のお願いをしたページが、11月24日に、2ちゃんねるで、次のようなタイトルのスレッドとして立つ。

立命館大学「昔のゲームソフト・本体・攻略本下さい。汚いのやダブリは要らないです。送料は負担ヨロシク」

このタイトルが付けられたところから炎上がはじまる。

「金出せクズ共が 」

「お願いの仕方も知らねえのかよ」

「送料も自己負担で送れとかこいつら何様なんだ?w 」

出典:http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news/1385275236/

といった反応が主に2ちゃんねるで見られた。

(5)そのまま、2ちゃんねる系まとめサイトなどに記事が掲載され、Twitterなどにも拡散し、昨晩から炎上中

(6)先ほど、立命館のゲーム研究センター側で、緊急対応?として、下記の記事が掲載される

この度、立命館大学ゲーム研究センターにおけるゲーム保存研究の活動が新聞、雑誌等で広く紹介されましたことを受け、多くの方々からゲームソフトやハード類の寄贈の申込み、ご相談をいただいております。研究の環境および予算に限りのある本センターの現状を鑑るに大変ありがたいお申し出ではありますが、無原則に寄贈を受領いたしますとその扱いに本センターとしての責任を負いかねる状況が生じてしまいかねません。従いまして、研究機関である大学の役割と責任を踏まえた上で、学内諸規則に則った形で受入が可能な現物寄付を告知させていただくことにいたしました。下記の募集要領は、本センターへの現物寄付をお考えいただいている方々に対してのご案内になります。寄贈をご検討の皆様には手続きが少し煩雑になりますが、ゲーム文化の体系的な保存と国内外の研究者のための研究資料としての活用を目的として活用させていただきますので、どうぞご理解をお願いいたします。

出典:立命館大学ゲーム研究センター

といった様子である。

炎上の分布模様

さて、炎上しているとは言っても、この件、ネットコミュニティによってだいぶ反応がばらけている。

筆者がざっと確認した形だと、批判的なコメントが多いのは、発端となった2ちゃんねる 及び Twitter がほとんどである。

一昔まえは一部で「ネットイナゴ」などと言われた、はてなブックマークでのコメントは

「そんなに叩くものか?あげたいという人がいればそれで成立する話で、あげる気の無い人がギャーギャー騒ぎ立てるのはおかしい。詐欺でも何でもない。(id uma666)」

出典:http://b.hatena.ne.jp/entry/blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1780844.html

と立命館大学側を支持するような反応も多い。

この反応は、ゲームアーカイブ界隈の大御所の一人であるRetroPC Foundationの森瀬氏なども、同様の見地からのTwitterでコメントをしている。

「RetroPC Foundationも寄贈を受け付けておりますけれども、対応は基本、ご同様ですよ。」

「寄贈のご連絡をいただく方は、「これ以上保管することができないのだけれど、捨てるのは忍びない」というケースが殆どです。送料を負担させていただく場合もありますが、「送料負担も含め、お預かりする以上のことはできませんけれど、それでも宜しければ」--というのが大部分。」

「RPFの場合は、実質、僕の個人負担で倉庫を維持し続けておりますので(時折、新規にハード/ソフトを購入・追加)、それ以上の負担は不可能だとう事情もありますけれど。」

「予算は常に有限なので、研究なり保管なりを「継続」することを優先順位のてっぺんに置くのであれば、送料負担をお願いするなどの対応は仕方ないのじゃないでしょうかね。」

出典:https://twitter.com/Molice

ファミ通10年分。この部屋で生きていくのは無理があった…。
ファミ通10年分。この部屋で生きていくのは無理があった…。

なお、筆者もゲーム関係の資料コレクションは一時期、大量にやっており、先述の森瀬氏など、他のコレクターのみなさんがたと、ヤフオク!で戦いを繰り広げたりしていたが、ファミ通10年分を自宅に集めたところ、単純に自分の部屋から寝るスペースが消え失せた。

しかたがないので、ファミ通10年分の上で寝ることになったが、言うまでもなく、これは大変寝心地が悪く、そもそも寝るべきものでもなく、何かの限界を感じた…。根性だけで、無理やりゲームのアーカイブを行おうと思うと、どうしても、自らの生活をどこまで犠牲にできるのか、という話になってしまい、なかなか持続しない。

炎上はなぜ起こったか

今回の炎上は、基本的には「言葉足らずで申し訳ありませんでした」という話に尽きる。

「ご寄付いただけるのは、感謝の限りです。」

「ただ、恐縮ながら、受け入れ側でも予算・マンパワーともに限界がありますので、その点は、どうかご理解願いたい」

「無断で着払いで送りつける…というのは、さすがに、ご勘弁願えれば…」

というニュアンスが十分に伝わりきらなかった。

それが、なぜ伝わりきらなかったといえば、立命館ゲーム研究センターの側としては「何かしらの枠組みを設けないと、これは対応しきれないぞ」という文脈がもともとあって、その感覚から書かれた文章が「ゲーム資料現物寄付 募集」だった。

ただ、ネット上ではじめて、この文章を目にする読者のほとんどは、もちろん、立命館側が新聞等でとりあげられた後の対応で困っているという状況はご存じない。おそらく、ネット上の多くの方は「ゲーム資料現物寄付 募集」というタイトルの文章をはじめて目にしたとき、特に何とも思わない方も多いとは思う。だが、「今まで大切にしてきたコレクションを寄付してあげてもいいかな」という気分の方が、問題の文章を目にした場合には、不愉快に感じられる方も少なからずいらっしゃったろう。

そのすれ違いが、今回の炎上へと繋がっている。

ゲーム研究という取り組み自体が、まだはじまってからそれほど大きな注目を浴び慣れておらず、大きな注目を浴びた際の対応の不慣れさが、今回は出てしまったという形だろうと思う。

立命館ゲーム研究センターの諸氏は、高飛車…というよりも、ファミコンの開発者でもいらっしゃるセンター長の上村雅之先生をはじめ、ほんわりとしたムードの方が多く、今回は不幸な誤解が生じる形になってしまったが、高飛車とは真逆だという印象がある。上村先生とか、「ファミコンの開発者」って、日本のゲーム史の偉人の一人なのに、いつも、すごく腰が低くて驚異的な人だなあ、と感じる。お会いすると、私のようなチンピラにも、いつもすごく丁寧。

かの上村先生が、上から目線…というのはちょっと想像しにくい。

立命館側のミスは、単に、ネットへの文書の出し方が不慣れだったという話だと思うので、「上から目線」と批難された文章は、じきにもう少し穏やかなものに変わると思います(たぶん)。

(なお、本記事が、「当事者的な立ち位置なのか、何なのかわからん」という形で、お怒りになられる読者の方がいらっしゃるかもしれません。私も、広い意味では関係者のようなものですので、当事者の一員として謝れ、という方がいらっしゃるようでしたら、改めて、頭を下げさせていただきます。ゲーム研究は、まだ、はじまってからまだまだのよちよち歩きの活動です。成果もまだまだ先達の諸学と比べれば不十分なものです。みなさまにご不快な思いをさせていただくことも多いかと思いますが、よろしければ、その際は、ご指導、ご寛恕のほど宜しくお願いできましたら幸いです。)

※12000年代初頭1998年からずっとやっている。昔は、Game Archive Projectという別の名前で活動なさっていた。

*2013/11/27 20:50 一部、表記を修正しました

*2014/7/1 この記事執筆時点では直接の関係はありませんでしたが、2014年6月より筆者自身が、このプロジェクトに直接かかわることになりました。

ゲーム研究者

1980年生。ゲーム研究者。立命館大学講師。現在、ゲームという経験が何なのかについて論じる『中心をもたない、現象としてのゲームについて』を連載中。著書に『ゲーミフィケーション』(NHK出版,2012)。ゲームの開発も行い、震災時にリリースした節電ゲーム『#denkimeter』でCEDEC AWARD ゲームデザイン部門優秀賞受賞。ほか『ビジュアルノベル版 Wikipedia 地方病(日本住血吸虫症)』など。

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