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『ドナルド・トランプゲーム』なるものを考えてみた

井上明人ゲーム研究者

ドナルド・トランプゲーム、なるものを考えてみたので、下記にとりあえず手順を公表しておきたい。トランプ当選ということそれ自体が決して面白い話ではないので、それを扱ったこのゲームも面白いゲームというわけではない。

面白いゲームというよりは、トランプ当選後の現状について、自らで状況を評価していくための手立てのようなものとして捉えていただければと思う。

ゲームの手順解説

プレイ人数は1人~4人程度。推奨プレイ人数は2人。

1人で遊ぶ場合は、「正解なら、今日の晩飯に好きなものを食べる」「正解なら、好きなゲームを買う」など、賭けるものをあらかじめ決めておく。

下記のシートを埋めていくようにする。(単に白紙の紙を一枚用意するだけでも問題ない)

画像

■I .宣言する

まず、ドナルド・トランプがどのような大統領になりそうであるか、ということについて自分なりの予想を最初に宣言する。

「ドナルド・トランプは思われていたより○○○な大統領になりそうである。」という文章の「○○○」の部分を埋めるかたちで、次のうちの四択のいずれかを、それぞれのプレイヤーが選ぶ。

  1. かなりマシ(60%以上の行動を支持できる)
  2. マシ(41%~59%の行動を支持できる)
  3. ひどい(21%~40%の行動しか支持できない)
  4. かなりひどい(20%未満の行動しか支持できない)

宣言は、それぞれ紙にボールペンで書き留めておく。

※もし、全員の意見が同じ選択肢になった場合は、勝敗が全くつかなくなるのを防ぐため、「自分はおそらく55%ぐらいの行動について支持できる」とか「自分は35%程度なら支持できる」など、支持できそうな具体的なパーセンテージを宣言する。 

■ II .調べる

さて、その上でトランプが実際に当選後にどのような行動をとっているかを調べる。

調べるのが面倒な人むけに、簡単にまとめておいたので、下記のもので良いのであればこの16個を読んで、次の手順にすすむ。

  1. ムスリムの追放を公約から削除:選挙活動時には米国からムスリムを追放することをうたっていたが、当選後ウェブページから削除された(ただし「安全を担保できないテロの起こりやすい地域からの移民の受け入れの停止」は「100日プラン」に盛り込まれている)
  2. 日韓への核保有拡大を否定:日本や韓国など核保有国の拡大を認めるような発言をしていたが、11日にこれを否定するコメントを発表
  3. メキシコとの境界に壁を作る:選挙活動時からたびたび取り上げられていたとおり、これについては撤回する気がいまのところ無いようだ
  4. TPPからの米国脱退:「100日プラン」でTPPからの離脱をうたっている
  5. 北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し:同じく「100日プラン」で、再交渉するか離脱するかをうたっている
  6. 不法移民の強制送還:200万人を超える移民の強制送還を行うと主張している
  7. 気候変動枠組条約で支払っている何十億ドルもの分担金を取りやめると主張
  8. 軍拡方針を主張:兵士を49万→54万人、戦闘機を1113→1200機以上、海兵大隊を23→36部隊、水上艦・潜水艦を276→350隻に
  9. オバマケアを部分的に残す:当初、オバマケア撤廃を公約していたが、オバマとの会談後、(1)持病のある人の保険加入、(2)26歳未満については親の保険の対象にできるといった点については残していく形で公約を修正する考えを示した
  10. 金融規制改革法は部分的な撤回にとどめる意向か:撤廃を公約していたが、部分的な撤回にとどめることを検討しているという関係筋の情報がWSJから報道された
  11. 政権移行チームにピーター・ティール氏を加える:シリコンバレーの有名な投資家であり、ゲイであることも公言している、ピーター・ティール氏政権移行チームに加わる。
  12. 政権移行チームに共和党主流派を加える:ラインス・プリーバス党全国委員長を首席補佐官にすると発表
  13. 政権移行チームに身内を加える:息子2人と、娘1人とその夫を政権移行チームに選出した
  14. 政権移行チームにステファン・バノン氏を加える:オルト右翼の有名人であるバノン氏を政権移行チームに加えた。KKKがこの判断を素晴らしい判断だと褒め称えている。
  15. 自らの支持者に、差別的行動をやめるよう呼びかけを行う:大統領選のあと、アメリカ各地でヘイトスピーチなどが盛んになったことを受けてトランプ自らマイノリティへの暴力的行動をやめるように呼びかけた
  16. 差別的発言に対する謝罪がほぼないまま:2005年の女性差別的な発言については「気分を害する人がいたら謝罪する」と述べたが、それ以外のほとんどの問題発言については、調べた限り謝罪はないまま

これらに付け加えるのであれば、この一週間で大きな注目をあつめたものとしては、政権移行チームの編成や、10月22日に発表された「アメリカを再びかつてのような偉大な国にするための100日プラン」の中身についての発言などについて調べるといくつかニュースが出てくるので、それを追加していく。

■III 支持/不支持を分ける

  • 原則、すべての行動について「支持する」「支持しない」のどちらかを決めていく
  • 二人以上でプレイする場合は、支持できるかどうか、意見が割れることがありうるので、その場合は「保留」としておき、全員が支持できるものについては「支持」、全員が支持できないものは「支持しない」としていく。
  • すべての行動について、判断を終えたら、トランプについて、トータルで何%が支持できる行動だったのかを計算する。
  • なお、ルールの簡便化のため、それぞれのトランプの行動はすべて等価のものとし、「この行動はより重要」などといった判断によって、行動の重み付けや比重を変えることはしない(やりたかったらやってもいいが)。

■ IV 結果確認

:最初の自分の宣言と、「支持できる」行動の割合がどの程度近かったかを確認する

  • 二人以上でプレイしている場合は、最初の宣言と、実際の行動への支持率がもっとも近かった人がゲームの勝者となる。※たとえば、最初にAさんが「マシ(51%~79%の行動を支持できる)」を選んでいて、Bさんが「ひどい(21%~50%の行動しか支持できない)」を選んでいた場合に、全員の合意として「支持できる」行動の割合が6割だったとした場合は、Aさんの勝利。
  • なお、「保留」の意見が30%ある場合は半分の15%を支持、残りの15%を不支持として換算する。20%ある場合は10%支持、10%不支持として換算。
  • 一人でプレイしている場合は、最初の宣言と近ければ、最初に賭けたものを得る。

■ V 再宣言

:最後に、半年後(2017年5月ごろ)のドナルド・トランプ次期大統領が、どのような大統領になるか、改めて選んでおく

半年後にもう一度、自分の予想があたるかどうかを確認するため、「ドナルド・トランプは思われていたより○○○な大統領になりそうである。」という文章の「○○○」の部分を埋める選択をもう一度行う。

選択肢は先程と同じく、下記の四つ。

  1. かなりマシ(60%以上の行動を支持できる)
  2. マシ(41%~59%の行動を支持できる)
  3. ひどい(21%~40%の行動しか支持できない)
  4. かなりひどい(20%未満の行動しか支持できない)

半年後に忘れないためにTwitterアカウントのある人は「#DonaldTrumpGame」とハッシュタグを付けて、

「ドナルド・トランプは思われていたより○○○な大統領になりそうである。#DonaldTrumpGame」

とツイートしておくのもいいかもしれない。

そして、半年後にもう一度、いまの予想がどの程度まで妥当だったかを検証するため、「II」から「IV」の手順をやってみる。

■ゲームの趣旨と解説

このゲームの趣旨は、トランプに対する極端な楽観論や、極端な悲観論と、自分自身のトランプ政権に関する評価との間にどの程度まで実際のひらきがあるのか、ということを確認するためのものである。

トランプの報道については、当選前までの報道があまりにも批判的な報道ばかりだったということもあり、トランプが少しでもまともなことをすれば「思ったよりまともな人なのではないか」という声があがることがある。「いくらトランプが嫌いだからと言って、対立を煽るのはよくない」という声もある。逆に、「トランプも意外とそこまで悪くないのではないか?といった意見は、人間の正常化バイアスにすぎないのではないか」といった批判的な意見もある。

どのような見解が妥当なのが?それには、多様な人々の意見を読むことも重要だが、具体的なトランプのアクションをもとに判断していくための手立てを見つけていくことがより重要なことだろう。

本ゲームの目的は、こういった具体的な評価をしていくための手助けをしていくことにある。

なお、筆者が、実際にやってみたところ、最初に想定していたのは、「# ひどい(21%~40%の行動しか支持できない)」で、具体的に表に整理してみると、次のような形になった。

<図1:実際のプレイの例>

記入例(一人でやる場合)
記入例(一人でやる場合)

私の場合、だいたい予想していた程度では、それでも予想よりは少しはよかったと言える。「予想されたよりマシ」といえるいくつかの行動を確認することができたのは相対的に嬉しいニュースでもあったといえるだろうか。

また、最後に半年後の行動についても予測してもらっているのは、少なくとも半年後までは、このゲームに参加しているのだという感覚を維持するためである。何も事前予測なしに、今後のトランプの情報を見ているのと、事前予測をあらかじめ宣言のうえで、トランプの情報を見ていくのでは、その状況事態に自分が関わっているかどうかという感覚に大きな違いが生まれるだろう。

トランプの今後の行動は、まだ発生してから間もない台風の進路予測図のように難しいものだと思う。

だが、台風と違って実際の人の行動は、他者の予期に応じて、その行動を変えるものでもある。その意味で(楽観はあまりしていないが)今後のトランプの行動について、期待をこめて半年後は、今よりも、

2. マシ(41%~59%の行動を支持できる)

なものになっていくであろうということに、賭けておきたい。

【余談】

このゲームの背景ということで、個人的な話も少し付け加えて書いておくと、私はトランプが当選して、かなり落ち込んで、この一週間ほど本当に悲しい気分になっていた。

私は、サンフランシスコに8ヶ月ほど暮らしていた。トランプが当選してから、なぜこんなに落ち込んでしまっているのかといえば、私は、実はサンフランシスコがかなり好きだったのだろうということに気づいた。サンフランシスコという都市は、問題も多い都市ではあるけれども、明らかに日本のどこよりも明らかに「誰もがマイノリティである」という空気を、ごく当然のようにもっていた。毎年LGBTのパレードをやって、LGBTの聖地カストロがあって、市の中央図書館に行けば、図書館の一番目立つコーナーに「ADHD/ADD特集」や「African American」のコーナーがある。サンフランシスコの39%はアメリカ国外の生まれで、人種も言語もかなり多様だった。もちろん基本的には英語なのだが、下手な英語で喋っても馬鹿にされることのない場所だった。誰もがマイノリティである空間では「マイノリティの権利」の運動は、特定の少数者のための運動ではなく、全員のための運動だということがシンプルにわかりやすい空間だった。

トランプが、あのような言動を撤回することなしに大統領になるということは、ムスリムの友人や、メキシコの友人たちに苦しい気持ちを味合わせ、私が好きだったサンフランシスコが否定されるということだと思った。

トランプに対する反対運動をみて、日本の多くの人が、アンチトランプ運動が過激すぎるのではないか、と言っているのをよくみかけるが、私の実感とはそれは大きく異なっている。たった8ヶ月過ごしただけで、これだけ悲しんでいるのだから、あそこで生まれ育っていたのであれば、自分もまたトランプの行動に強い憤りを覚える側の人間になっていただろうと思う。

この悲しみは決してくだらないものではないと私は思っている。

他方で、ジョナサン=ハイトが論じているように、そのような憤りや悲しみをどのようにして鎮め、自分と異なる意見を持つ人と対話をする契機を見出すかということもまた、とても重要なことだ。

自らの対極にいるような相手に対して、ぼんやりとした忌避感だけでなく、相手のなかに尊敬できるポイントを見出していくきっかけを作ることも、同時に続けていくべきだろうと思う。

悲しみ、憤るべき点についてはそれを絶やすことなく、しかしながら相手に尊敬を払っていくことを両立していくことができるのならばそれに越したことはない。

その意味でも、提案させてもらったようなゲームのようなかたちで、具体的な論点を確認しながら議論の土台を構築していくことを折にふれてできればよいと思っている。

(#2016-11-17 9:45 ルール微修正)

ゲーム研究者

1980年生。ゲーム研究者。立命館大学講師。現在、ゲームという経験が何なのかについて論じる『中心をもたない、現象としてのゲームについて』を連載中。著書に『ゲーミフィケーション』(NHK出版,2012)。ゲームの開発も行い、震災時にリリースした節電ゲーム『#denkimeter』でCEDEC AWARD ゲームデザイン部門優秀賞受賞。ほか『ビジュアルノベル版 Wikipedia 地方病(日本住血吸虫症)』など。

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