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芸能界の薬物事件を考える(井上公造×元「週刊文春」記者・中村竜太郎)

井上公造芸能リポーター
元「週刊文春」記者の中村竜太郎氏と対談

今年の芸能ニュースとして象徴的だったのが、芸能(有名)人の薬物事件。その報道をリードしてきた「週刊文春」で数々のスクープを連発してきた記者・中村竜太郎氏との対談第2回目は、薬物事件、さらに来年の芸能ニュースの動向について激論しました。

井上:プロ野球界のスーパースターの清原和博さんが、今年2月2日に逮捕されたのは衝撃でした。以前、ある週刊誌に「金髪ストリップ通い」の記事が出た時には訴えたのに、2014年3月に「週刊文春」に薬物疑惑を報じられた時は訴えなかった。前は訴えたのに、なんで今回は…ということで、「ああ、そうなのか」と。

中村:そうなりますよね。

井上:ボク、清原さんが逮捕される3週間ほど前にテレビの収録で会っているんです。その時には正直言って、テレビに出てきているってことは…大丈夫なんだと思ってしまった。全然変に感じなかったし、プロダクションもちゃんとついていたし、なおかつ、共演した人が挑発するようなことを言っても、清原さんは腹を立てなかった。なのに、逮捕されて…。みんなから「何も気付かなかったの?」と言われました。でも、ホントに変わった様子はなかったんですよね。

中村:気づかないっていうの、分かります。僕もいろんな薬物系の取材をしていますが、薬物中毒の人のイメージって、“ゲッソリして目の下にクマ”みたいな感じですが、実際は、人それぞれなんですよね。

身近にいても分からない

井上:ボク、高知東生さんも、一緒にご飯を食べた約1ヵ月後に逮捕されて。

中村:そうですよね。

井上:ボクは、高知さんのことは結婚前から知っていて、プライベートでゴルフなんかも行っていましたし、高島礼子さんと結婚する時には、結婚式を仕切るためにハワイまで行きました。この1~2年はあまり付き合いがなかったから、その間にやり始めたというならまだしも、「ずっと前からやっていた」と聞いて、昔からよく知っていただけにショックでした。

中村:ですよね。

井上:高島さんが会見で「気づかなかった」って言っていましたけど、そうだろうなと。高知さんは、高島さんにバレることが一番怖かっただろうから、本気で隠そうとしただろうし。

中村:高島さんから、事業にも融資してもらっていましたからね。確かに、覚せい剤の中毒って、身近にいても分からないかもしれないですね。

井上:噂とかも全然なかった分、高島さんは本当に気付かなかったんだろうな、と。

中村:執行猶予中ですが、今は高知さんはどうされているんですか?

井上:芸能界と関係ない仕事をしているみたいです。車の教習(短縮講習)にも行っているそうです。

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雑談の中で直感的に気付く

中村:それにしても、薬物って意外と分からないものだなと。僕は2014年にASKA容疑者の覚せい剤使用をスクープしましたけど、ASKA容疑者ってクリーンなイメージだったし、あの元歌手の山口百恵さんも一番好きな歌手は「CHAGE&ASKA」なんですよ。それくらい薬物とは遠い存在だったので、まさか薬物に手を染めているとは思えなくて。僕も最初に情報を聞いた時は、ガセかな?とか、悪意のある噂かな?と思っていたんですけど、調べてみると、徐々にそういう情報が出てきて。調べながら、ちょっとゾッとした部分がありました。

井上:そういう情報って、どこから入ってくるんですか?

中村:雑談から入ってきますね。雑談の中で「なんか変だな」と直感的に気付いて、それにまつわる証拠固めをしていくと…。

井上:クスリをやっている芸能人の噂って、毎年10人くらいは聞きますよね。

中村:そうですね。

井上:捜査している側は、そんな噂レベルの情報でも欲しがりますよね。

中村:はい。マスコミって基本、当局が逮捕して後追いで報じますけど、ASKA容疑者とか清原さんは週刊誌の方が先だった。だから、報道したことで、捜査当局から「話を聞かせてくれないか」と逆に来ましたね。

井上:捜査当局の人は、クスリをやった人は絶対にやめられないと思っているから、一定期間泳がせておけば、絶対に逮捕できると。そこで、マスコミとのいろんな関係が生まれてきたりしますよね。

中村:あと、麻薬の捜査員って多いようで少ないんです。麻薬は蔓延(まんえん)しているけど、薬物使用者全員を捕まえることはできないので、著名人を逮捕した場合、警鐘を鳴らすことができますからね。

井上:麻薬Gメンも各所に目が届き切れていない中で、あれだけセンセーショナルにASKA容疑者の記事を書いたってことは、中村さんがそれだけ確実な情報を手にしていたってことですよね。

中村:そうですね。ただ、書いた後も、「これで逮捕されなかったらどうなるんだろう」と思っていて、ずっと名誉棄損で訴えられた場合のことを考えていました。「訴えられるかもしれない」ということが前提の記事なので。だから、相手には「反論するならちゃんと反論してくれ」と。スキャンダルを誌面で書く場合は、…これは裁判の知識なんですが、こちらの主張があったら、同じくらい相手の反論も掲載しないといけないんです。記事を掲載するうえで、そのバランスが問われるんですね。とはいえ、ASKA容疑者や清原さんの関係者は反論することなく逃げ回っていましたし、だからこそ、これは“絶対そうなんだろう”と思っていました。

井上:クスリの場合は、クスリをある期間かけて身体から抜いて、検査でも陰性で「クスリなんかやっていません」となったら、報じた側は裁判では弱くなりますもんね。

中村:まさしく。なので、こちらとしては、握ってはいても“出さない情報”や“出さない証拠”もあるんです。反論された時のための“隠し玉”としてストックしておくんです。“10”情報があっても“10”全部は記事にしない、というのが基本なんです。

井上:そのASKA容疑者が、またしても逮捕されたのには驚きました。ボクは昨年12月から何度も彼と電話で話してきました。盗聴や盗撮をされているという悩みはたびたび聞かされましたが、彼が語るストーリーにはブレがなかった。正直、覚せい剤をやっているとは思いませんでした。そもそも、覚せい剤をやっていて、芸能リポーターのボクに何度も電話をしないと思いますしね。

中村:実は今年の9月、ASKA容疑者と都内のホテルでバッタリ遭遇したんです。その時会話しましたが、以前と変わったところはなく、井上さん同様、まさか覚せい剤をやっているとは思いもしなかったです。

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選挙に出馬したのがきっかけ

井上:薬物の捜査員は少ないという話でしたが、大麻で逮捕された高樹沙耶被告については、全国からGメンを30人かき集めて、石垣島まで送り込んだ。普通、ここまではやらないですよね。

中村:あれは合同捜査で、麻薬取締部の関東が中心になって、中国・四国・九州も応援に行っているんです。そもそものきっかけは、高樹容疑者が参院選で出馬したことですね。

井上:そうですね。

中村:法律で禁止されているにもかかわらず、「医療大麻のために」と大麻解禁運動をやって。捜査当局の人に聞くと、「とにかくあの高樹沙耶被告の動きはけしからん」という感じでした。がん患者とか弱者の名前を利用して同情票を買って、結局自分たちが大麻で快楽を得るための大麻合法化運動だ…という点が卑怯だと。それを政治活動にまで利用してる。こうなると当局としても見過ごすことはできず、このところ一網打尽にやっている。鳥取や香川でも逮捕されて…。

井上:高樹沙耶被告のこれまでの人生を振り返ってみると、その“ハマりやすさ”っていうのは普通じゃない。最初の結婚は中西圭三さんとでしたが、結婚する時にそれまでの所属事務所を移籍して、離婚してまた古巣の事務所に戻った。次に、ハワイ島で同棲していた時には、相手の男性(水中カメラマン)の影響でフリーダイビングにハマって、日本記録を更新したり。その後はエコロジーにハマって千葉県に引っ越して、自然農法家の男性との噂もあって。そういうことも含めて、ズボッとハマるタイプ。

中村:ですね。

井上:彼女は、「相棒」(テレビ朝日系)シリーズで、主演の水谷豊さん演じる杉下右京の元妻で、彼らの行きつけの小料理屋の女将役…という、とてもいい役をやっていましたよね。相棒の俳優は変わっても、女将は変わらなかったから、ドラマが続く限りは出演できるし。女優としても、「相棒」に出演していることはめちゃめちゃオイシイ。それを、中途半端に辞めてしまって。

中村:ドラマでは、「お遍路にでも出ようかしら…」みたいな唐突な脈絡でいなくなりましたからね(苦笑)

井上:高樹沙耶被告の逮捕で、テレビ朝日系列がどれだけ迷惑をこうむっているか。再放送ができないですからね。「相棒」は再放送でも、視聴率を取ってますからね。

中村:ですね。

井上:迷惑を被っているのはテレビ朝日系列だけじゃなく…。石垣島出身の具志堅用高さんも怒ってました。「あれで石垣島のイメージが変わってしまう」と。昔、「トリカブト保険金殺人事件」(1986年)が石垣島で起こりイメージが悪くなって、観光客が減ったらしいんです。トリカブトも毒物で、今度は大麻で。具志堅さんは、「執行猶予がついても、お願いだから石垣島に戻らないでほしい」って言ってました。

中村:でも、身元引受人は沖縄の方になりますよね。

芸能人逮捕は本質ではない…

井上:中村さんが現在取材している中で、クスリ系で「これは」という人はいますか?

中村:いますけど、なかなかこういう場では言えませんね(笑)

井上:クスリをやっているだろうと、確信を持てる芸能人はいますが、捕まるとも限らないですよね。今年は結構、芸能人が捕まりましたが、来年はどうでしょう?

中村:この流れは、当分続くと思います。薬物は、売人からつながってラインができてくるんです。だから、それをたどっていって、大物を挙げたら手柄になりますから。麻取(麻薬取締部)の人が言っていましたが、大物芸能人を逮捕することは本質ではなくて、本当は水際作戦が狙い。覚せい剤やコカインなどは、海上取り引きで大量に日本に入ってくるので、そっちを食い止めることの方が大事。ただ、芸能人など大物を捕まえて、警鐘を鳴らすという意味では重要です。

井上:それにしても、今年の「週刊文春」の報道は、大きなネタを連発してすごかった。

中村:確かに勢いづいたところもありますが、やっていることはいつもと変わらないんですよ。だから今年は、運もあったんだと思います。

井上:それに、スクープを連発していると、「週刊文春」なら…ということで、新たな情報も多く提供されるようになるでしょうから。

中村:そうですね。今、テレビは芸能事務所の顔色を見すぎて、あまりちゃんと報道をしないことが多い。唯一門戸を開いているのが、週刊誌。しかも、「週刊文春」だったら、ちゃんとゴールまで持っていってくれるんじゃないかという期待感もあって、ネタが集まる好循環になっているんだと思います。

井上:ネタは、集まるところに集まりますもんね。形にしてくれるところに集まる。

中村:甘利さんの話も、もともとは大手全国紙に持ち込まれたんですが、「できない」とはじかれて。大手新聞は政権与党の話は取り扱ってくれないんだ…となると、告発する側も意地があって告発しているので、通じるものがある媒体を探すようになりますよね。

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反動も大きい

井上:他の「週刊文春」の記者は、どういった方が多いんですか?

中村:個性はありますが、みんな結構マジメです。だいたい個人プレーでやっていますが、「いざ!」となったら、選択と集中。例えば、甘利さんのネタをやると決めたら、それまで個々でやっていたのが、急にぐっと4人くらいのチームになって、集中して動くようになるんです。締め切りに合わせて動く。チームになった時は、連携がうまくいっているのでいい仕事ができますよね。

井上:今の「週刊文春」のように、他の雑誌がすごい時期は、これまでもありました。そういう流れは、巡り巡るものなのかなと。写真誌すごかった時もあったし、女性誌がすごかった時もあるし。

中村:ありましたね。

井上:スクープを連発していると、そこにいいネタが来るのは事実ですよね。

中村:逆に言うと、こういう状態で「週刊文春」がトラブルを起こした場合、一気に離れていくんですよ。反動も大きい。

井上:風向きって、変わりますよね。あと、裁判で立て続けに負けたりすると、過激なことが書けなくなって、とたんに売れなくなってしまったり。

中村:このところ、「スクープの秘訣は?」とかよく聞かれますが、やはり、運は大きいと思います。マジメだからといって、スクープは取れないですから。運の手繰り寄せ方ってあります。

来年はどうなる!?

井上:ところで、来年の芸能界は、今年これだけ大騒ぎになったこともあって、不倫は減るでしょうね。

中村:そう思います。

井上:あと、芸能界的に、恋愛を隠さなくなってきている。分かりやすいところでは、宮沢りえさんと「V6」森田剛くん。変装しないで沖縄旅行に行って、舞台を一緒に観に行った時も、普通に会場に入って堂々としていた。これが今の恋愛だろうと。今はみんなカメラ付きの携帯を持っているから、簡単に写真が撮れて、国民総記者時代。熱愛報道は多くなるんじゃないかな。そこから、勢いで結婚したり…。

中村:おっしゃるとおり、SNSとかスマホの普及で、国民全員がパパラッチと化している。今、雑誌はパパラッチを派遣する体力がないので、SNSを見て記事にしたりして。それが加速するんじゃないかと。

井上:ええ。

中村:ネットのニュースで、一番アクセスが多いのが芸能ニュースなんですよね。実は世間的なエンタメに対する比重が大きくなってきていると思います。昔だったらどうでもいいようなニュースも、どんどんアップされて、アクセスされている。芸能人の方に、よく「なんで私たち狙われるの?」と聞かれるんですけど、それだけ芸能人やエンタメの社会的ステイタスが上がっているんだと思います。

井上:ただ、今年は不倫報道が多すぎたから、芸能人もガードは固くなりますよね。

中村:それも、仕方ないと思います。

今年の「ゲス不倫」を斬りまくる!(井上公造×元「週刊文春」記者・中村竜太郎)

◆ 中村竜太郎プロフィール

ジャーナリスト。1964年1月19日生まれ。大学卒業後、会社員を経て、1995年から「週刊文春」編集部で勤務。政治から芸能まで多岐にわたる特集記事を担当し、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」では歴代最多、3回の大賞を受賞。第46回「大宅壮一ノンフィクション賞」候補。2014年末に独立し、フリーランスに。現在は「文藝春秋」「週刊文春」「Forbes Japan」などで執筆の他、「みんなのニュース」「バイキング」(フジテレビ)に出演中。今年10月、「スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ」(文藝春秋)を上梓した。

芸能リポーター

福岡市出身。大学卒業後、フリーライターや雑誌編集長を経て、サンケイスポーツ文化社会部記者として事件・芸能取材を担当。1986年に故・梨元勝氏の「オフィス梨元」に入り、芸能リポーターに転身。テレビ朝日「モーニングショー」などに出演した。その後、フリーとなり、98年「有限会社メディアボックス(現・株式会社KOZOクリエイターズ)」を設立。現在、日本テレビ「スッキリ」、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」など、数多くの情報番組に出演中。モバイルサイト「井上公造芸能」では、毎日ホットな芸能情報を配信している。

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