LINE世代は「返信」をしない!? 「KS(既読スルー)」でコミュニケーションが変わる

ユーザー数が2億人をはるかに超えるなど、急成長を見せるLINEへ世間の注目は高いものがあります。

つい先日も、1カ月間に約1000通のLINEメッセージを、教え子の女生徒に送った男性教師が懲戒処分になるなど、LINEにまつわるニュースは後を絶ちません。

これは、メールや携帯、掲示板やフェイスブックなど、その時代その時代で流行しているコミュニケーションツールが、その都度メディアからやり玉に挙がりがちなだけで、LINEそのものに罪があるわけではありません。

ところが、LINEの急激な普及のおかげで、この国のコミュニケーション作法に大きな変化が生まれているのは間違いのないところです。

現代のコミュニケーションを変えた「KS=既読スルー」

LINEには、送ったメッセージを相手が読んだかどうか(厳密には表示したかどうか)が分かる機能があります。

相手がそのメッセージを開いた時点で、自動的に「既読」マークがつきます。「既読」になったのに返信がないことを、「既読スルー」といい「KS」と略されたりもします(「既読through」なのに、なぜ「KS」なのか?「KT」じゃないのか? というツッコミはさておき)。

この既読機能、送った方としては相手が読んだか、読んでないかがはっきり分かります。逆に、分かってしまうので、返事がないと「あれ…?」と、当惑することに。

いっぽう、送られた方としても、いったん開いてしまうと即、相手に「既読」が伝わってしまうのは不都合というもの。「返信しなきゃ」とプレッシャーがかかるし、返信しにくい内容だったり、検討が必要だったりすると、つい放っておいて忘れてしまうことも。なんなら、まだ読んでないことにしたい、気づかなかったことにしたい。だけれども、その融通は利かない…。

「既読をつけずに内容だけ読みたい」という多くの声をよそに、現段階では、既読をつけずに読む設定はありませんし、一度ついた既読を未読に戻す機能もありません(ちなみにフェイスブックメッセージには、一度開封したメッセージを未読に戻す機能がついています)。

思い起こせば20年ほど前、PCメール黎明期には「開封通知」メールがよく届いたものです。開封すると「開封したことが送り手に通知される」というもので、「ちゃんと届いたのかな? 読んだのかな?」という不安を解消すべく利用する人もいましたが、最近ではめっきり見なくなりました。

相手の顔が見えないコミュニケーションにおいて、相手の動向が分かりすぎるというのはストレスになることもあります。「既読なのに返事がない」「フェイスブックにログインしているらしいのに、そしてほかの人とは交流しているのに、自分の近況にはコメントがつかない」など、画面の向こうの相手を想像しては、やきもきするというわけです。

LINE世代は「断りの返事」をしない!?

さて、スタンプなど他の便利機能ではなく、この「既読」「既読スルー」こそが、現代のコミュニケーションを大きく変えている要因。この「既読スルー」のおかげで、世の中から「断りの返事」というものが激減しています。

たとえば友人を飲み会にLINEで誘ったとします。「●日にでも、飲みに行かない?」と。これまでなら、もしOKであれば「いいね! どこにする?」と返ってきましたし、ダメなら「ごめん、その日は空いてないんだ」と返ってくる。いずれにしろ返事があったわけです。

ところが、行けるときにはこれまでと同じように「OK!」と返事が来るけれど、ダメなときは返事がない、スルーされる場合が圧倒的に増えているのです。

そもそも何かを断るというのは、気が重い行為です。誘ってきた相手に嫌な思いはさせたくないし、自分も悪者になりたくない。行きたいのに予定がある場合、気乗りしない場合、いずれにしても、なるべくならあえて返事を出してまで断るようなアクションは起こしたくない。「ごめんね、その日は~」と文を考えるのもめんどうだし、そもそも返信自体もめんどう…。

そこで「既読スルー」の出番です。「返事をしないってことは、ダメってことです。その辺、察してくださいね」と無言のメッセージを伝えようとするわけです。

こうすれば、なんなら気づかなかった(はずみで既読になってしまった)ことにもできますし、さらには、明確な断りの返事をしていない以上、当日ふと気が向いたら「そういえば、飲み会、きょう何時から?」と、ぬけぬけとドタ参の権利も主張できる。

もちろん、みんながみんな、そういった意志をこめてスルーしているわけではないでしょう。一部のメーラーのようにフラッグをつけたり、フォルダ分けしたりすることができないのですから、本当の返信し忘れもあるはず。

だからこそ誘ったほうとしては、無視されたような気がして気持ちが萎えるだけでなく、これは断りの既読スルーなのか、単に見落としている既読スルーなのか判断しにくい。こうして、飲み会の予定・メンバー・時間は、いつまでたっても永遠に決まりません。

「既読スルー」が持つ、あまりにも便利な「断り力」に多くの人が慣れてしまい、もはやLINEに限らず、メールだろうがメッセージだろうがメーリングリストだろうが、「前向きなら返事をするけれど、後ろ向きなら返事をしない」ことが、現代のコミュニケーションにおいて日常的になりつつあります。

すべてのコミュニケーションが「チャット化」していく

LINEはそもそもメールサービスではなく、インスタントメッセンジャーであり、いわばチャットツールです。チャット(chat)とは「きちんとした会話」ではなく「雑談・おしゃべり」のこと。

ですから「LINEのやりとりにそこまで目くじらを立てられても」と戸惑う声もあるでしょう。

確かに、いまの10代の携帯を見せてもらうと、LINEのトーク(会話相手のグループ)が10も20も並んでいて、放っておくと未読のメッセージが何十と溜まる。それらにいちいち、確実に丁寧に返信していくのなんて不可能だし疲れてしかたがない。ただただ周りを流れていくおしゃべりの波に、なんとなく乗っているだけ、という思いもあるはずです。

高校生が5~6人で、放課後にドーナツ屋さんでわいわいと他愛のないことをしゃべっていることを想像すれば、ひとつの発言に対してリアクションし損ねることもあるだろうとわかります。「既読スルー」は、目の前の相手がつまらない冗談を言ったとき、苦笑いしてスルーする。にっこりと流す。そんなようなニュアンスなのかもしれません。

そう言われてみたら、そもそもまじめな話、返事が必要な誘い、意思確認したいような内容をLINEでするほうが野暮という気にもなってきます。

ならば、とメールで誘いを送ると、これはこれでまったく返事が来ない。チャットに慣れた世代にとって、電子メールはとても堅苦しいもの。いちいち返事を書くのがおっくうになっているのです。それは、僕のようなメール世代が、手書きの手紙やハガキをもらうとどうすればいいかわからずうろたえてしまうのと同じなのでしょう。

ソーシャル時代のコミュニケーションの傾向は「ゆるく、適当に、いつでも、誰とでもつながる」です。それが、LINEをはじめとするチャットツールのおかげで急加速。いまや、LINEのみならず、メールも対面での会話も、すべてのコミュニケーションが「チャット化」しているというわけ。

こうしてひとつのメッセージ、ひとつの誘いの重みは、どこまでも軽くなっていきます。まるで、ネットで流れては消えていく、幾多あまたのニュース・情報のように。

そんなことでは、社会に出たとき、困…らない

返事をしない、明確な意志を示さない、適当におしゃべりをする中で物事が決まっていく(ような、そうでもないような)…。それが現代のコミュニケーショントレンドだという話をすると、「そんなことでは、社会に出たとき困る」と憤慨するオトナも少なくありません。

確かに現在のところ、たいていのビジネスはメールと対面の打ち合わせによってなされていますし、「断りの返事」をするストレスを避けているようでは仕事にならないかもしれません。

ところが個人的には、その点もたいして困らないのではないか、とにらんでいます。

いまのLINE世代が社会人になるころ、ビジネスコミュニケーションもいまのまま変わらないとは、とうてい思えません。

近い将来、得意先とチャット的に会議をし、適当にアイディアを交換。「見積もりをお送りします。●日までにご確認の上、ご返信ください」「承知いたしました」ではなく、「ファイルあげておくんで、見ておいてください!」「りょうかーい」になる日は、遠くないのではないかと思うのです。

メールにしても、職場に導入された当時は「メールもいいけど、お礼状は手書きで」とか「メールは迷子になって届かない可能性もあるから、そのあと必ず電話でフォローが必要」などと言われたものです。現在ではむしろ「電話をかけられても迷惑なので、とりあえずメールで用件を送ってほしい」という人のほうが多いのではないでしょうか。

プロポーズにも「既読スルー」?

対面、手紙、電話、メール、チャット…。コミュニケーションのあり方は、技術の進歩とともにどんどん変化していきます。人と人をつなぐことばのやり取りが、カジュアルに、適当に、ふわふわと、ゆるくなっていく流れは避けられないどころか、加速するいっぽうでしょう。

そのうち、「そろそろ結婚とかどう?(指輪のスタンプ)」とLINEでプロポーズ→既読スルーであえなく撃沈、というケースも出てくるはず。というか、もう実際に起きていることかもしれません、本気で。

(いおた・たつなり)《30万部突破「察しない男 説明しない女」シリーズ》東京大学教養学部卒。角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て独立。「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」「SNSと人づきあい」「ことばと伝え方」を主なテーマに執筆・講演。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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