Yahoo!ニュース

「懐かしがりブーム」に異議あり。たかだか15周年や20周年で「復活」って、おかしくないか?

五百田達成作家・心理カウンセラー
「デジモンアドベンチャーtri.」ホームページより

いま、20代・30代の間で「懐かしがりブーム」が広がっています。アニメの新シリーズが、数十年の時を経て復活するいっぽうで、中には「けっこう最近のモノでは?」と思うようなものも「懐かしい」の対象に。ブームの裏側を探ります。

セーラームーンは20周年

「美少女戦士セーラームーン」では、アニメ放送開始20周年を記念し、新シリーズ「美少女戦士セーラームーンcrystal」が放送開始。さらに、バンダイプレミアムでは変身アイテムを模した本格コスメを発売。完売するほどの人気商品となっています。

また、コラボ上手で知られる人気下着ブランド「PEACH JOHN」では「セーラームーンなりきりブラセット」が売り出され、話題を呼びました。また、今年の夏には働く女性向けストア「IT‘S DEMO」でのコラボ第2弾が開催されるなどオタク以外の幅広い層にも支持されています。

他にも女児向けアニメの大人向けグッズ展開は止まりません。1996年放送開始の「カードキャプターさくら」や1999年放送開始の「おジャ魔女どれみ」といった作品でも、同じような大人向けファッショングッズが次々と販売され若い女性を魅了しています。

デジモンアドベンチャー、遊戯王も

この動きは男児向けアニメも同様です。「デジモンアドベンチャー」は15周年プロジェクトと銘打ち、11月21日には「デジモンアドベンチャーtri.」が劇場公開。かつての主人公が高校生というストーリーに、ネットでも注目が集まっています。

また、社会現象にもなった「遊戯王」では来年10年ぶりの長編アニメ映画が公開されることが発表されました。どちらの作品も主人公や設定を変えいくつかの続編シリーズが作られてきましたが、今回制作されるのはいずれも「初代」主人公を扱ったもの。かつて小学生の時にそれらにハマっていた若い社会人男性がターゲットになっています。

こうした幼少期に夢中になっていた作品のリバイバルが続々と展開され、彼らは「懐かしい!」と再び夢中になっているのです。

懐かしがりたい若者

この熱狂的な「懐かしアニメ」ブームの原因には、何があるのでしょうか。ひとつは、「懐かしい」と言いたい若者が多いということ。「懐かしい」という感覚は、年を重ねないとわからないもの。初めて経験する「昔夢中になっていたものが、自分たち向けに復活する」という現象に、興奮して飛びついていると言えるでしょう。

また、子どものころは買えなかったであろう高額なグッズを、働いている今は買えるのだという喜びからつい買ってしまう、いわゆる大人買い欲求もこのブームを加速していると言えます。

「懐かしい」「年とったな~」と声高に連呼する若者たちと話していると、背伸びしたい、オトナになりたいという気持ちの延長としての「枯れたい欲求」「年寄りぶりたい欲求」を感じます(これをさとり世代うんぬんなどと言うつもりはありませんが)。

コンテンツ不足も後押し

もちろん、幅広い若者を魅了するほどの強いコンテンツが不足していることも背景にあります。

かつては娯楽といえばテレビ。限られたチャンネルをみんなが見るので、同じアイドルや同じドラマに夢中になり話題を共有していたので、ビジネスを仕掛ける側も、マス消費させることが今よりもずっと容易でした。

しかし今は違います。一人一人が小さなパソコン――スマートフォンを持ち歩き、それぞれが好きな時間に好きなコンテンツを消費しています。昔に比べ情報量も増えたため、みんなが一斉に何か同じものに夢中になるということが極端に少なくなりました。

そんな現代において、若者たちにマス消費させる手段として利用されているのが、彼らが幼少期にみんなで夢中になっていた「懐かしアニメ」ということでしょう。

このままではジリ貧に?

みんなが夢中になるコンテンツが潤沢だった時代は、若者の前にわざわざ幼少期の作品を持ち出すことはあまりありませんでした。なぜなら次々と、新しいコンテンツが生まれていったから。

その動きに陰りが出始めたのが、2000年代に入ったころ。当時の新連載漫画といえば、「○○○2世」「新・○○○」「○○○リターンズ」ばかりでした。漫画誌を読む層も高齢化を遂げ、かつての子ども向けに「30周年」「40周年」と銘打ち、夢中にさせていたのです。

仮面ライダーは38年後、タッチは26年後

ちなみに、初代仮面ライダーが、映画の中で再び変身をしたのは38年の時が経ってからでした(2014年公開「平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊」)。

漫画「タッチ」の続編である「MIX」が始まったのは26年後(2012年連載開始)でした。それに比べると、「15周年」「20周年」での「懐かしビジネス」展開は、あまりに消費サイクルが早くないでしょうか。

そのうち5周年でイベントを?

今後は、更にマス消費向きのコンテンツがジリ貧となり、「あの作品がリバイバル!」というニュース性は、どんどん失われるでしょう。そのうち、たかだか5周年程度で大々的なプロジェクトが行われるかもしれません。

今の子どもたちが、おじさんおばさんになった時、一体何を懐かしがるのでしょう。(五百田 達成)

作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

五百田達成の最近の記事