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人のミスをとことん追求する”愚者”にならないために。

五百田達成作家・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

糸井重里のほぼ日刊イトイ新聞で大ヒットコンテンツとなった「言いまつがい」。読者から寄せられた様々な言いまちがいを掲載する企画でしたが、言いまちがいをあらわす言葉としてすっかり定着。

先ごろ公開された映画『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』でも、主人公の優しい巨人がワニを「ワーニ」、キリンを「キーリン」というように微妙に言葉を「言いまつがえる」様子が人気となっています。

とはいえ、実際に目の前で、言いまちがいを目撃したとき、あなたならどうしますか?

先日、飲み会で「公の場」を「こうのば」と言っている人に出くわしました。違う、それは「おおやけのば」って読むんだ……と思いながらも、相手に恥をかかせて空気を悪くしてもよくないし、とつい言葉を飲み込んでしまいました。このように、「ん?」と引っかかるような言い間違い、指摘すべきかどうでないか迷いますよね。

私の友人は、「言い間違いをしたときの、彼氏の指摘の仕方に少し腹が立った」と愚痴をこぼしていました。その彼は、彼女が何度か言い間違いをしてしまった後に「ごめん、がまんできない、やっぱり訂正させて。それ、○○じゃなくて××って言うんだよ」と言ってきたのだとか。

彼女は「それなら早く言ってよ!」とイライラしたと言います。もちろん、彼なりに気を遣ったのでしょうが、それが裏目に出てしまったのです。

このように、一歩間違えれば相手の怒りも買ってしまう「言い間違いの訂正」。一体、どうすればいいのでしょうか。永遠のテーマとも言えるこの問題、周囲にヒアリングしてみました。

訂正しない派も

まず、言い間違いに遭遇したとき、訂正するかしないかという判断があります。

「訂正しない派」は先日の私がしてしまったように、相手の間違いには触れずにスルー。基本的にはスルーするけれど、今後問題が起きそうな間違い(取引先の相手の名前を後輩が間違えていた、など)についてだけ指摘するという人もいました。

訂正する派もいろいろ

そして、「訂正する派」にもいくつか流派があるようです。

まずは、「真正面から指摘する」派。「それ、××じゃなくて○○ですよ」と気づいたその時に言ってあげるのは優しさでもありますが、相手からは「いちいち細かい人だな」と思われるリスクもあります。

次に、「やんわり言い直す」作戦。相手が「○○が…」と言うのに対し「あ~××ね~」と受け答えしつつやんわりと言い直します。相手が察してくれるのを待つ作戦です。一見穏健ですが、嫌味に聞こえる危険性もあるのがたまにキズです。

次が、別れ際に訂正する「言い逃げ」派。その場ではスルーしておきながら、最後の最後に「さっきのって、××だよね」と指摘。言った方はスッキリするでしょうが、先ほどの友人のように「もっと早く言ってよ~!」と、言われたほうはモヤモヤする場合もあります。

高等テク=聞き返す

また、「不安そうに尋ねる」派もいます。言い間違いだとはっきりわかっている場合でも、「あの、もしかして〇〇じゃなくて××ですよね?」「あ、それって○○って言うんですね・・・?」とあえて知らない振りをして聞き、相手に間違いを察してもらう方法です。

円満に解決することも多いのですが、「え? 違うよ、○○でしょ? 合ってる、合ってる」と言い切られてしまうと、ただ妙な空気になっただけで終わってしまうこともあります。

なんだか八方ふさがりにも見えてきた「言い間違いの正し方」問題。何かいい方法はないものか……と考えあぐねていた頃、ある友人がとてもいい方法を実践しているのを目にしました。

訂正→共感フォロー

それは、ある飲み会で友人が名字を呼び間違えられていたこと。「すみません、私〇〇じゃなくて××なんですよ」と即座に訂正した後、ある言葉を付け足していたのです。

「ほんと、読みづらい名字ですよね~。私も他人だったら間違えてると思います。」

彼は、相手の間違いに「共感」し、言い間違いの責任を相手ではなく「名字」に押し付けていたのです。

悪いのは、言い間違いをしたあなたでも、それを指摘する私でもなく、言い間違いやすい「名字」。「二人の共通の敵」に名字を置いたのです。この作戦は、名字だけでなく言葉の言い間違いにも使えます。このやりとりを目にしてから、名字を読み間違えられた時も訂正するのが怖くなくなりました。

ヒアルロン酸の悲劇

さて、私自身、広告会社に在籍していた時、化粧品のクライアントに対してしたり顔で「ヒアロルン酸」と言い切っていたことがあります。しかも、何度も。もちろん正しくは「ヒアルロン酸」です。

というのも内心、「どっちだったかな」とドキドキしながら「こういうのはきちんと言い切らないと」と思って賭に出て、毎回失敗していた、という始末です。担当者のなんとも微妙な表情は、今でも忘れられません。

いっぽうで、以前、一緒に飲んでいた女性が「それは的を得てますね」と言ったとたんに、即座に条件反射で「的を射る、ね!」と訂正してしまったことがありました。

一同が唖然とするだけでなく、考えるまもなく訂正していた僕自身が一番驚いてしまった、という経験もあります。

ミスは当然。問題はその後

人はミスをする生き物。コミュニケーションにも間違いは当然生じます。勘違い、思い込み、言い間違え、聞き間違え、誤解……。どうやっても避けられません。問題はそれをどう処理するか、フォローするか、です。

トラブル処理やピンチの時に、その人の人間性が浮き彫りになります。そして言うまでもなく、それはミスをされた側、言いまちがいを聞いた側も同様です。

いきりたって訂正する、正しい知識を誇る、そんなことも知らないのかと罵倒する、そのような対応をしてしまったら、あなた自身の品格が確実に落ちるのです。

現代の世の中は、とかく、ミスや間違いに厳しくなっています。蓮舫氏の国籍問題、企業のさまざまな不祥事……。どれだけ説明しようが、謝罪しようが、「ごめんで済んだら、警察は要らない」とばかりに、とことんミスを許さない空気が醸成されている中、糸井重里の提唱した「言いまつがい」という響きそのものが、どこか優しい響きで、救いがあります。

間違えた→やんわりと指摘する→あ、そうだっけ、ごめんごめん→いやいや、ほんと難しいよね。

そうした互いの優しさのやり取りこそが、現在、私たちについつい欠けてしまい、だからこそ、意識して持たなくてはいけないものでしょう。

というわけで、僕自身、テレビ番組で流れるテロップの誤植を大声で指摘することのないよう、自戒したいと思います(職業柄、ついやっちゃうんです、気をつけます)。

(作家・心理カウンセラー 「察しない男 説明しない女」著者)

作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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