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中国だけでない「大気汚染」の脅威

石田雅彦サイエンスライター、編集者
Photo by Masahiko Ishida

改めて「PM2.5」とは

中国、北京の12月25日は、ホワイトクリスマスならぬPM2.5のスモッグによる暗黒クリスマスになった。ある測定によれば、12月25日の北京のPM2.5濃度は1立方メートルあたり620マイクログラムだったらしい。

すっかりなじみ深くなった単位「PM」とは、Particulate Matterの頭文字から取られた。これは「粒子状物質」という意味で、何かが燃えた後に出る煤や風に巻き上げられた土壌の微細な砂、工業生産過程で生じる粉じん、排気ガス、石油などの揮発性物質から出る粒子などを指す。

粒子の大きさによってPM10やPM2.5などの基準がもうけられ、PM10とは粒子の大きさが10マイクロメートル以下、PM2.5は2.5マイクロメートル以下の粒子のことを言う。1マイクロメートル(0.001mm)は、髪の毛の太さの約1/30、蜘蛛の糸の直径の約1/4の大きさだ。最大のウイルスがだいたい1マイクロメートルの大きさと言われている。

PM2.5は、ほぼバクテリアと同じ大きさで、我々の呼吸器官に入り込むと肺がんや喘息などの呼吸器疾患や心疾患など循環器系疾患を引き起こす。また、PM2.5程度の微小粒子が花粉にくっつくと、花粉症を引き起こしやすくなったり、より重篤なアレルギー症状が出る、という研究もある。

日本の環境省は「大気汚染に係る環境基準」として「浮遊粒子状物質(SPM、Suspended Particulate Matter)」、さらに「微小粒子状物質による大気の汚染に係る環境基準について」で「微小粒子状物質」と定義している。前者の基準は、PM10以下の浮遊粒子状物質で1時間の1日平均値が1立方メートルあたり0.10マイクログラム以下、かつ1時間の値が1立方メートルあたり0.20マイクログラム以下となっている。

後者については、微小粒子状物質を「大気中に浮遊する粒子状物質であって、粒径が2.5μmの粒子を50%の割合で分離できる分粒装置を用いて、より粒径の大きい粒子を除去した後に採取される粒子をいう」とし、PM2.5の1年の平均値が1立方メートルあたり15マイクログラム以下で、かつ1日平均が1立方メートルあたり35マイクログラム以下であることを大気汚染の環境基準にしている。

世界中で大気汚染が悪化

世界保健機関(WHO、2014年)によれば、世界でも最も汚染がひどい国は、PM10(89カ国中)でもPM2.5(91カ国中)でもパキスタンだったし、インドのデリーで2014年にPM2.5が1立方メートルあたり153マイクログラムも測定されたらしい。もちろん、北京の数値は瞬間最大値でこれの記録を更新し、11月30日にはPM2.5が1日平均で1立方メートルあたり1000マイクログラムに近づいた。

また、冬になると大気汚染が悪化する。中国やインド、パキスタンなどの開発途上国に限らず、大気汚染は世界的にも寒くなると問題になる。環境省の大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」の北京のモニタリングデータによれば、10月以降、気温が下がるにつれてPM2.5の濃度も上がっていることがよくわかる。

「そらまめ君」による北京の一年を通したデータグラフ
「そらまめ君」による北京の一年を通したデータグラフ

冬期に大気が滞留し、雨による浄化が少なくなる地域では、排気ガスも大気の重要な汚染源になる。イタリアのローマやミラノでも暖房や排気ガスによる大気汚染が悪化し、28日と29日に市内において6時間の交通規制が実施されるようだ。

こうした浮遊粒子状物質による大気汚染はフランスのパリでも問題になっている。パリ当局はPM10以下の粒子が1立方メートルあたり80マイクログラム以下であることを環境基準にしているが、2015年の春にも汚染が悪化し、市民に対して警告が出された。バルカン半島のボスニア、サラエボでも大気汚染が深刻で、クリスマスイブの24日にはサラエボの学校が休校になった。

ただ、PM2.5などの浮遊粒子は、暖房燃料など大気汚染源だけではなく、砂塵なども含むため、パキスタンやカタール、インド、モンゴルなどの乾燥地帯の諸国で高くなる傾向もある。もちろん「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉のように、土壌から舞い上がった砂塵も眼病を引き起こすことがある。乾燥した季節には、大気汚染が起きるだけではなく風邪も流行るので健康には要注意だ。

ちなみに、コンビニなどで売っている一般的なマスクにはPM2.5を吸入防止できるものもあれば、できないものもある。厚労省の国家検定企画「DS2」区分のマスクか米国の労働安全衛生研究所(NIOSH)認可の「N95」規格のものが望ましい。また、顔とマスクの間にスキマが開いていると意味はないので、これも要注意だ。

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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