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青色LEDが健康障害を引き起こすメカニズムとは

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
SORAA日本法人を立ち上げた中村修二UCSB教授とG・ストリンガー同社副社長

白色LEDは青色LEDと蛍光体で光る

2014年のノーベル物理学賞も受賞した青色LEDだが、白色を発光できる一般照明への道を開いた画期的な発明だ。ただ、現状の白色LEDは、青色LEDを含めた色の三原色RGBを組み合わせて発光させているのではない。

下の図のように、青色LEDの光を蛍光体に当て、黄色や赤色の光を出す。青色と黄色、赤色が混ざって白色に発光する、というわけだ(*1。この図でわかるように、白色LEDでは疑似タイプも高演色タイプも波長の短い475nmあたりの青色光が最も強い。

横田省二「照明用LEDデバイス」シャープ技報、第99号、2009年8月より引用
横田省二「照明用LEDデバイス」シャープ技報、第99号、2009年8月より引用

青色LEDの健康障害はなぜ起きるのか

一般光源となったLED照明は、長寿命で省エネ省資源の「優等生」技術とも言われているが、一方で青色LEDによる睡眠障害や健康障害が問題視されるようになっている。

その理由は、我々の目の中で光を感受する受容体が、460nm前後の青い波長の光に強く反応するからだ。この波長光は朝日に多く含まれ、我々が1日を始める時間帯に浴びる。いわゆるサーカディアンリズム、体内時計がこの光によってまどわされ、夜にLED光を浴びれば夜なのに体は朝と勘違いする。一種の時差ボケのような反応が起き、これが睡眠障害などにつながる、と言われている。

体内時計がおかしくなると、乳がんや大腸がんなどに罹りやすくなる、というエビデンスがある(*2。これは、看護師や昼夜交代勤務の工場労働者など時間差勤務をする人たちの体内時計が崩れ、その結果、睡眠に関係するメラトニンの分泌が減り、乳がんなどの発症につながるのでは、というわけだ。

青色LEDの直接の健康障害については、その波長の短さのため、網膜や視細胞を傷つけることも指摘されている。岐阜薬科大学のマウスを使った実験では、白色と青色のLEDが細胞障害を引き起こす可能性が示唆された(*3。また、こうした光源はミトコンドリアにも障害を与えることもあるらしい。さらに、青色の光源は、がん細胞の増殖速度を上げる、という指摘もある(*4。

青色LEDよりピーク強度が弱い紫色LEDの可能性

青色LEDの発明者の一人、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授の中村修二氏も先日(2016年1月12日)、自身が創業したベンチャー、SORAA社の日本法人設立記者会見で「青色LEDはピークがちょうど睡眠障害を引き起こしやすい波長にある」と明言していた。同時に、SORAA社が開発販売する紫色LEDについて「紫色LEDは、波長のピークが410nm前後なので、そうした健康被害は低くなる」と言っている。

いずれにせよ、本来なら寝る時間に強い光を浴びることでサーカディアンリズムに変調をきたすのは変わらない。ドイツには、照明器具の使用ガイドラインがある。寝る前に食べ物を食べるのは健康に悪いが、同じようにパソコンやスマホなども健康障害や生活習慣病の原因となる。

パソコン仕事でブルーライトカットメガネを使うことも一考だが、生活習慣そのものも見直すべきなのかもしれない。中村修二氏が言うように、紫色LEDが従来の青色LEDよりも健康障害を引き起こしにくいとすれば、我々の健康のための技術革新も必要だろう。

  • 1)横田省二, シャープ電子デバイス事業本部システムデバイス第3事業部, 「照明用LEDデバイス」, シャープ技報, 第99号, 2009年8月
  • 2)T Ravindra, NK Lakshmi, YR Ahuja, "Melatonin in pathogenesis and therapy of cancer", Indian Journal of Medical Sciences, 2006, Volume : 60, Issue : 12, Page : 523-535
  • 3)Yoshiki Kuse, Kenjiro Ogawa, Kazuhiro Tsuruma, Masamitsu Shimazawa, Hideaki Hara, "Damage of photoreceptor-derived cells in culture induced by light emitting diode-derived blue light." Scientific Reports, 9th, June, 2014.
  • 4)Patrick Logan, Miguel Bernabeu, Alberto Ferreira and Miguel N. Burnier Jr. "Evidence for the Role of Blue Light in the Development of Uveal Melanoma", Journal of Ophthalmology, Volume 2015 (2015), Article ID 386986, 7 pages

※2016/02/10 一部、修正

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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