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ソフトバンクがARMを3.3兆円で買収もシナジー求めず 石川 温の「スマホ業界新聞」Vol.188

石川温ケータイ/スマホジャーナリスト

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石川 温の「スマホ業界新聞」

2016/07/23(vol.188)

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《目次》

1.ソフトバンクがIoTへのパラダイムシフトを前にARMを3.3兆円で買収

━━スプリント買収でシナジーに失敗したことで、ARMにはシナジー求めず

2.NTTドコモがMVNOに394円のSIM発行手数料を徴収

━━ビジネスモデルの変更を余儀なくされる格安スマホ会社たち

3.ポケモンGo日本配信開始で、栄枯盛衰の課金ゲーム業界

━━上場したばかりのLINEの存在も脅かすか

4.今週のリリース&ニュース

5.編集後記

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1.ソフトバンクがIoTへのパラダイムシフトを前にARMを3.3兆円で買収

━━スプリント買収でシナジーに失敗したことで、ARMにはシナジー求めず

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3連休の最終日である7月18日、実家に帰省してたら、突然、ソフトバンク広報から電話がかかってきた。何かと思ったら、「先ほど、ARM買収に関する記者会見のご案内メールを送ったので確認して下さい」とのことだった。「これから記者会見に出かけなくてはいけないのか」と一瞬、暗くなったが「ロンドンで開催されますので、ネット中継をご覧ください」ということで一安心した。

その日の夜、ソフトバンクがARMを3兆3000億円で買収することが発表となった。

孫さんとしては、「学生のころに半導体の写真を見て涙が止まらなかった」と言っていたくらい、半導体に対して思い入れが強いため、ARMを買えるとなれば、3兆3000億円なんて安いものだろう。もちろん、孫さんが言うところの「IoTのパラダイムシフト」が起こるのは間違いないため、その中核企業であるARMの成長も大いに期待できるはずだ。

ただ、誰もが「ARMは今後、期待できる企業」と認識されている中で、孫さんが買収を仕掛けたというのはちょっと拍子抜けした気がしてならない。

本来、孫さんは、中国・アリババのように、まだ先が見えないベンチャー企業に投資し、その後、大きく成長させ、莫大な投資益を得るのを得意としていたはずだ。しかし、今回のARMはすでに勝ち組の企業であることは間違いない。競合であったインテルがモバイル向けチップからの撤退を発表したことで、ARMのポジションは揺るぎのないものとなっている。そんな企業を今さら買収するなんて、孫さんらしくないという気がするのだ。

もしこれが、2007年のiPhoneが出始めたあたりに「スマホのパラダイムシフトが起こる。だからARMを買収する」といって、今よりも破格値で購入してたら、「孫さんの先見の明は素晴らしい」ということになるが、すでにスマホが普及しきった状態のARMを買ったところで、「え、いまさら」という残尿感しかないと言える。

投資家からは「ソフトバンクとARMとのシナジーが見えない」という指摘もあるようだが、おそらく、孫社長としてはソフトバンクとのシナジーなんて期待していないのではないか。

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ケータイ/スマホジャーナリスト

日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、日経TRENDY編集記者としてケータイ業界などを取材し、2003年に独立。現在は国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップル、海外メーカーなども取材する。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。ニコニコチャンネルでメルマガ「スマホ業界新聞」を配信。近著に『これからの5Gビジネス』(エムディーエムコーポレーション刊)がある。

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