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<北朝鮮内部>ピアス、ポニーテールもアウト 違反の若者の強制労働 ついに親の集団抗議に発展 

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
10万世帯建設に動員された青年同盟突撃隊の若者。2011年8月平壌市大同江区域。

労働党傘下の社会団体である青年同盟※が、3月から若者たちを対象に、街頭や市場で身なりや金日成バッジの着用を厳しく検査をしている。違反者は、家族への連絡も許されずそのまま遠方の労働現場に強制動員されるケースが続出。親が役所の前に集まり集団で抗議する事態も生じている。北朝鮮内部の複数の取材協力者が伝えた。

◆ジーパン、ピアス、ポニーテールは禁止

咸鏡北道の取材協力者A氏によれば、取締りの対象になっているのは、ジーパンをはじめとする足にフィットするスリムスボン(「線の無いズボン」と呼ばれている)、頭髪を黄色や茶色に染めている者など、「資本主義文化に染まった者」だという。

両江道からも同様の報告が届いている。恵山(ヘサン)市の取材協力者B氏によれば、取締り対象の女性の身なりは次のようなものだという。

「ジーパン、肌にぴたっと張り付くような服、髪型はポニーテールと染色が引っかかる。イヤリングはいいのだが、耳たぶに穴を空けて付けるもの(ピアス)はだめだ。肖像徽章(金日成バッジ)を着けているかも見る」

関連記事<北朝鮮内部>ジーパン絶対禁止 特異な髪型も取締り 党大会控え風紀検査 違反者は強制労働

◆検束された若者は強制労働現場へ

深刻なのは、街頭で検査に引っかかった若者たちが、事実上拘束されて労働現場に送られていることだ。A氏は次のように伝える。

「青年同盟には『突撃隊』の事務所があって、引っかかって留め置かれた若者たちが30人溜まると江原道の『6.18突撃隊』に送られている」

「突撃隊」とは、国家的な大きな建設プロジェクトに動員される労働部隊のことだ。多くは青年同盟や職場などで組織・管理され、発電所建設や、道路や鉄道の建設などに投入される。

『6.18突撃隊』とは、労働党直属の「突撃隊」で、1999年6月18日に金正日氏が「三池淵(サムジヨン)郡の建設を進めるように」と指示したことがきっかけで結成された。各職場には一定の人員を出すノルマが課せられている。江原道に拠点があるという。

テレビで放映された「6.18突撃隊」。人海戦術で成果と自賛も、死者続出だという。
テレビで放映された「6.18突撃隊」。人海戦術で成果と自賛も、死者続出だという。

◆「子ども返せ」と親たちが集団抗議

A氏が続ける。

「検閲に引っかかると、男女関係なく家に連絡もさせずに突撃隊事務所に送っている。帰宅しない子どもを心配した親たちが保安署(警察)に行くと、『青年同盟に行ってみろ』と言われ、それで初めて行方が分かる」

咸鏡北道の別の取材協力者C氏に調査を依頼したところ、12日に次のような連絡がきた。

「子どもが捕えられて親が黙っているはずがない。○○郡の党事務所の前に毎日親たちが集まって、『子どもを返してくれ』と泣いたり喚いたりしている。4月2日には親が15人ほど集まって集団抗議のようになった。

保安員や幹部、金持ちの家の子供の場合には、突撃隊に留め置いていることを党から親に知らせて罰金80万ウォン(約1万1000円)で帰宅させている。それで貧しい親たちは『金も力もない家の子供たちは荷物のように引きずって行っていいのか』と慟哭しながら抗議している。娘が捕まった知り合いは、党事務所で『子どもの教育をちゃんとしろ。会いたければ「6.18突撃隊」に面会に行け』と言われたそうだ」

「6.18突撃隊」どんなところなのだろうか。協力者たちは次のように説明する。

「連れて行かれると6カ月間は働かなければならない。軍隊のように部隊生活だ。最近は突撃隊に行こうという人間がいなくて、青年同盟で風紀取締りやって若者を狩り出している」(前出B氏)

「貧弱な飯に塩汁しか出ないのに、突貫工事の現場で長時間働かされるので、よれよれの半死のようになってしまう。(突撃隊の)こんな無理な動員は初めて見る。各地で組織的にやっているのを見ると、上からの指示でやっているのだと思う」(前出A氏)

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江原道の六・一八突撃隊で死者が続出 上[事件・事故]

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建設現場で働く突撃隊員の女性。栄養失調で生理が止まる人が多いという。
建設現場で働く突撃隊員の女性。栄養失調で生理が止まる人が多いという。

◆党大会に向け突貫工事に動員か

それでは、なぜ、今、このような強引なやり方で若者を動員労働に駆り立てるのだろうか? 理由の一つは、やはり五月に控えた労働党大会まで、国内の綱紀の乱れを正そうということだろう。

この20年間、自然発生的に市場経済が拡大した北朝鮮では、外国の文化・情報の流入もあって、北朝鮮当局のいう「黄色文化」(資本主義退廃文化)が拡散した。特に若者が韓国や中国のファションを追う傾向はとめどがない。

金正恩氏が主宰する36年ぶりの党大会を前に、社会秩序維持に粗相があっては、批判、叱責の対象になりかねない。党機関で若者を標的に風紀検査を徹底させていると思われる。

二つ目は、「突撃隊」の人員不足だ。90年代飢饉の影響で若年人口が減っている上、3-5年の「突撃隊」生活が過酷なため、若者たちはなんとか忌避しようとする。

「突撃隊」生活を務め上げると、出世の前提である労働党入党という褒章・対価があり、かつては志願する若者が大勢いた。だが昨今、出世しなくても市場活動で金儲けをするチャンスが大きくなり、党員になることのメリットはかつてに比べて小さくなってしまった。

党大会に合わせて、平壌はじめ各地で土木建築工事が急ピッチで進められているが、本来タダで投入できる「突撃隊」の人員が不足している。若者を無理に強制動員することで労働力を確保したいというのが当局の狙いだと思われる。

C氏によれば、4月12日現在、彼の居住地の党事務所前には、子供の強制動員に対して連日8~10人の親たちが集まり、「こんな無法天地がどこにある」と抗議が続いているという。

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青年同盟の正式名称は「金日成社会主義青年同盟」。中学校4年生から概ね30歳未満の非党員を組織する。

突撃隊とは、国家的な大きな建設プロジェクトに動員される労働部隊のこと。多くは青年同盟や職場などで組織・管理され、発電所建設や、道路や鉄道の建設などに投入される。建前は志願制だが、職場や組織ごとに、そこに送る人員の割り当てが決まっており、参加は半ば強制だ。期間は通常は3~5年の間である。軍隊を模倣した組織形態を持つ。青年同盟は中央と地方を合わせて20以上の「青年突撃隊旅団」を組織しており、一大勢力となっている。

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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