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<北朝鮮住民2人に緊急インタビュー> 金正男殺害情報に驚きと恐怖 「なにも殺さなくても…」

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
キム・チョル名のフェイスブックに掲載された金正男氏本人と推測される男性。。

金正男氏が殺害された件を、北朝鮮の住民はどのように受け取ったのか。金正恩政権による犯行だという確証は、現時点ではまだないのだが、北朝鮮に住む二人の取材協力者に話しを聞いた。あらかじめ韓国で報道されたニュースの内容をメールで伝え、16、17日に電話とメールでインタビューした。まだ北朝鮮国内では、事件の情報が広がっていないようである。

一人目は、北部の咸鏡北道に住む取材協力者A氏(30代の男性労働者)。

――金正男氏について、そして今回の殺害事件を知っていますか?

A 他の人は(金正男氏を)知っているかもしれないが、私は金正男が誰なのか、聞いたこともないし、今回殺されたということも知らなかった。(金正男氏については)知らない人の方が多いのではないか。ここ(北朝鮮)では、ちょっとしたことでも罪とされて殺してしまうので、(金正男氏)が国に反対したり、将軍様(金正恩氏)の権威を傷つけるようなことをしたので殺されたのではないか?

――もし金正恩氏の指示だとしたら?

A (金正男氏を)殺すことはなかったのに。兄弟なんでしょう? 金正日将軍は、平日(ピョンイル)同志を殺さなかったではないか、大使として送り出して。殺してしまうなんて恐ろしいことだ。兄弟ですら殺すのだから、私たちのような者の命はハエのようなものだ。

(金平日氏は金正日氏の異母弟。東欧諸国で長く大使を務める。現在は駐チェコ大使)

――国内の雰囲気はどうですか?

A 最近のことだが、近くの職場で友人同士が集まって酒を飲んで、将軍様の年齢がどうだ、若造のくせに何が分かる、というような話しをしていたのだが、その中の一人が密告して、二人が家族ごとあっという間に消えてしまった。その人たちが働いていた〇〇職場にも検閲が入り、(党の)細胞秘書が首になった。とんでもないことだ。金正男も、同じような意図で殺したのかもしれない。

(関連記事 :「脱北者の家族は3代絶滅させる」秘密警察が住民対象の講演会 恐怖政治続く)

金家の三人の息子、正男氏の成田拘束も知っていた女性

同じく北部地域の両江道に住む女性(30代の女性労働者)は次のように電話で語った。

――金正恩氏の異母兄の金正男氏がマレーシアで殺されました。金正男氏について知っていますか? 知っているとしたらどんな内容ですか?

B 私は知っています。金正男のことを知っている人は多いですよ。幹部連中は皆知っているし、庶民にも知っている人がいます。咸興(ハムン)の方に行けば、南朝鮮の放送が聞けます。私はそこで聞きました。

――ラジオを通じて知ったのですね。放送はどんな内容でしたか?

B 2009年の冬に咸興に行ったのです。日本のソニーの録音機があって、南の放送を聞きました。金正恩は三番目の息子で、金正男というのが長子で、金正哲というのと合わせて息子が全部で三人いると。金正男が偽造パスポートで日本へ行って拘束されたとか、そんな内容でした。

――金正男氏は金正恩氏の異母兄ですよね。まだ北朝鮮の犯行かはっきりしませんが、私が送ったニュースを見て、どう思いましたか?

B あらかじめ送って来たニュースは読みました。「横枝狩り」というやつでしょうね。

※金正日氏が1974年に後継者に内定した後、政敵だった金日成の後妻の金聖愛(キム・ソンエ)と息子の金平日らを、金一族の傍流=「横枝」として徹底的に疎外した。金平日派とみなされて人が数多く粛清された。

――そう思いますか?

B はい。今まで殺さなかった理由は分かりませんが、こちらの実情から見ると、何か重大な問題を引き起こしたことで殺されたのではないのでは。朝鮮では「横枝狩り」で死んだ人は一人、二人ではありませんよ。張成沢(チャン・ソンテク)もそうだし、金敬姫(キム・ギョンヒ)同志はどこに行ったのかも分からないし。

(張成沢氏は2013年12月に処刑された。金敬姫氏はその妻で金正日氏の実妹)

――「横枝」としても、兄なのに殺したりできますか? もし北朝鮮の犯行なら、なぜ殺したと思いますか?

B 叔父(張成沢)でも殺すのに腹違いの兄ぐらいは…。張成沢は反乱容疑で殺しましたが、よく分かりませんが、家族(正男)がいること自体が不都合だったのでしょう。父親から財産ではなく国を譲り受けて、その座を「横枝」に奪われることを恐れて殺したのでは? 太陽が二つあってはならない、というのと同じ理屈ではないでしょうか。しかし、なぜ騒ぎになるのに外国で殺したんでしょうね。兄弟なのに、邪魔だから殺すなんて私にはできない。

(関連記事:金正恩に逆らった張成沢 写真に現れていた粛清の理由)

張成沢処刑、その時北朝鮮で起こっていたこと ~「粛清の嵐」吹かせた金正恩)

――国内の雰囲気はどうですか?

(金正男殺害が)なくとも、今、幹部たちはぶるぶる震えています。下級の幹部らはともかく、上級幹部たちは、いつ落ちるか(粛清されるか)分からないので、おべんちゃらに精一杯です。下の連中も、皆それに倣っています。(幹部たちは)自分の出世しか考えず、そのために賄賂を使います。どうすればお金を着服できるかしか考えておらず、仕事なんか何もしない。(社会が)何がどうなっても関係ないんです。

「兄殺し」の非難拡散か

金正男氏殺害に関する情報は、中国国境を通じて国内にどんどん流入していくだろう。また韓国政府は、軍事境界線付近で大型拡声器を使った対北宣伝放送で、金正男氏殺害事件を扱うとしている。

2013年12月に張成沢氏を処刑した際、「叔父殺し」という道徳的非難が金正恩氏に向けられた。金正男氏殺害の真相はまだ明らかではないが、事件は北朝鮮内で「金正恩氏による兄殺し」と意味づけられて拡散していくだろう。金正恩氏の統治者としての評価は大きく傷つく可能性が高いと見る。

(関連記事:<北朝鮮住民>金正恩氏に厳しい評価続々 「祖父の真似ばかり」「若造」「デブ」呼ばわりも)

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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