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Buzzfeed Japanはヤフーがコンテンツ制作に乗り出す狼煙である

いしたにまさきブロガー/ライター/アドバイザー

Buzzfeed Japanローンチの記者会見にお呼びいただいてお邪魔してきました。それというのも、ひとつの大きな疑問があったからです。

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疑問というのは、非常に単純なものなのですが「なぜ、今このタイミングで、ヤフーと組んでBuzzfeed Japanをスタートさせたのだろうか?」というものです。

Buzzfeedは簡単にいうと、ソーシャル時代の申し子の様なメディアです。それは例えば、その流入の様子からわかります。

Buzzfeedの流入比率
Buzzfeedの流入比率

なんと、グーグルからの検索流入がわずか2%。普段ブログを運営している私としてもびっくりするような数字です。そして、それを支えるのが、記事と技術の両輪です。

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Buzzfeedの技術には、2つの側面があります。ひとつは単に記事を公開するだけではなく、その記事の動きに合わせて対応させていくという記事を広げていく技術。もうひとつは、BuzzFeed Japan編集長に就任した元朝日新聞の記者である古田大輔さんがこの日語ってくれた、記事を作るときのストレスをなくす記事作成そのものへの技術です。

  • 写真を記事のどこにおくか、細かく設定できる
  • クイズコンテンツ作成のためのシステムがもう入っている
  • 技術陣からのフィードバック要求が高いし、反映も早い
  • 必要があれば、1年かかっても調査(データ調査)する

これらの技術をまとめて、古田さんは「記事を書くライターに欲しい機能が全部ある」と表現されていました。

そして、記事。これについては、本家Buzzfeedの編集長であるベン・スミスさんがこう語ってくれました。

  • ソフトニュースもハードニュースも扱う
  • シリアスもばかげたニュースも扱う
  • 企業も行政も分け隔てなくヘッドへのインタビュー・取材をやっていきたい

ちょっと意外に思うかもしれませんが、Buzzfeedの記事はすべて自社編集部の手によるものです。はっきりと明言されることはありませんでしたが、いわゆるパクリ記事メディアとは編集部の体制が違うというニュアンスが、言葉の端々から私は感じました。

実際、オバマ大統領への単独インタビューをWebメディアで最初にしかけたのがBuzzfeedですし、「○○で成功する7つの方法」といういろいろなところで多用されているテンプレートを作り出したのもBuzzfeedなわけです。

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こう考えていくと、Buzzfeedがグローバル展開していく中で、日本は10番目の国なのですが、それはむしろ遅いぐらいで、ベンからも古田さんからも、日本のニュースに注目しているし、日本のニュースがいわゆる特派員記事ではなく、Buzzfeedのプラットフォームで全世界に広がっていくことを期待しているということが語られました。

ということで、記事とメディアというところだけで考えると、Buzzfeed Japanの成功に期待します!みたいな感想にどうしてもなってしまいます。

ちょっと整理すると、こういうことです。

  • Buzzfeed本社はプラットフォームと技術を提供する
  • Buzzfeed Japanは日本の記事作成を担う

なにか足りないと思いませんか?、そうWebメディアの収益の柱になるはずの広告の部分が、まだごっそりと抜けているのです。そして、その広告の部分を担うのがヤフーです。

ヤフーはみなさんもご存じのように、各種媒体から提供された記事にバナーを中心とした広告を掲載し、その膨大なPVで成功してきました。つまり、基本ヤフーは自らニュース記事を作ってきていません(もちろんこのヤフーニュース個人のような例外もあります)。なぜなら、ポータルと検索というネットの2つの時代で勝ち続けてきたヤフーが自ら記事を作る必要がなかったからです。

でも、スマホシフトに象徴されるように、ネットの構造は徐々に変化して、あるタイミングでどかーんと変化します。そういう時代に王者ヤフーがこのままでいいはずがないという決意のようなものを、この日の記者会見の冒頭を飾ったBuzzfeed Japan株式会社の代表取締役でありヤフー株式会社のマーケティングソリューションカンパニーのエグゼクティブマネージャーでもある高田徹さんの言葉から私は感じました。

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高田さんからは、Buzzfeedとヤフーの提携理由について語られました。

  • スマホ・ソーシャル時代に合ったメディアを構築
  • 新たなマーケティング手法の確立と展開

これ、とても平易に書かれていますが、なんとも奥深い内容です。というのも、記事とメディアだけが提携の理由ではないとさらっと書かれているからです。

ということで、ここからは私の憶測です。

  • 日本という他の国とは明らかに違いカルチャーを持った国での展開でコンテンツ供給パートナーが欲しいBuzzfeed、できれば日本一の相手がいいなあ
  • いずれバナー広告が今のようには売れなくなる時代がくる前に記事広告にトライしておきたいヤフー、できれば世界一の相手がいいなあ

こう考えると、今回のBuzzfeedとヤフーの提携はとてもすっきりと考えられるのです。というか、なんですかね、この勝利を約束されたかのような布陣は!すばらしいじゃないですか!

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質疑応答の中で、図らずももちろん冗談交じりに高田さんはこんなことを言っていました。

記事広告商品を提供し、その目標は「編集長・古田の作った記事よりもバズることです」

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さらにBuzzfeed Japan編集長の古田さんは、Buzzfeed Japanの成功指標について、こう語りました。

「目標はPVではなくて、信頼してもらえるメディアになれるかどうかだ」

この一見、相反する言葉は、実はBuzzFeed編集・倫理ガイドラインの中で、編集部と広告(営業部)の関係を示すものとして書かれた内容と一致しています。

BuzzFeedは、正確な報道、素晴らしい娯楽、有用なサービスを提供してくれるはずという読者の信頼に、強く依存しています。そのため、当社は広告と編集部によるコンテンツとの間で厳格かつ伝統的な方法による線引きを維持しています。記者、ライター、編集者の仕事は、当社の広告営業担当者やその顧客とは一切無関係です。広告制作チームは、BuzzFeedの営業側と連絡を取ります。編集側とは関わりません。当社は、プラットフォームであり、技術を担う存在であり、物語の語り部です。当社は、組織の部門がはっきり分かれていることによる恩恵を最大限に受けています。

出典:BuzzFeed編集・倫理ガイドライン

すでにスタートしてばんばん記事が出てきているBuzzfeed Japanを見ると、日本のWebメディアを見慣れていると、ちょっと違和感を感じする部分があると思います。そう、バナー広告も検索連動型広告も一切ありません。

Buzzfeed Japanの記事を広告という観点も踏まえて考えると、こう整理することもできるでしょう。

  • メディアの読者から見れば、広告に邪魔されない記事を読むことができる
  • 広告を使いたい企業から見れば、これまでの手法とは違うネット広告を試すことができる

つまり、ざっくり全体で見ると、日本のネットの中でやっぱりBuzzfeedって新しい展開だし、企業活動の一環として考えたときにはオプションが増える期待感があると言っていいのだと思います。

全部がそうであるとは言いませんが、日本のネットでは記事広告に対して、ステマという言葉が流行ってしまったように、若干のネガティブイメージがあります。その記事広告という分野にBuzzfeed Japanが次の風穴を開けてくれるんじゃないの?という希望を持ってもいいんじゃないかと思いますね。

ということで、個人的な疑問もきょうの段階では解消されましたし、今後のBuzzfeed Japanも楽しみになった、とてもいい記者会見でした。

ブロガー/ライター/アドバイザー

Webサービス・ネット・ガジェットを紹介する考古学的レビューブログ『みたいもん!』管理人。2002年メディア芸術祭特別賞、2007年第5回Webクリエーションアウォード・Web人ユニット賞受賞。「ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である(技術評論社)」「あたらしい書斎(インプレス)」など著書多数。2011年9月より内閣広報室・IT広報アドバイザーに就任。ひらくPCバッグ・かわるビジネスリュックなど、ネット発のカバンプロデュースも好調。 #カゲサポ

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