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オタク趣味は就活で不利?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

質問:鉄道オタクは鉄道会社に受からないとか、同人誌活動が就活で内定取り消しになるという記事が出るなど、オタクが就活で不利になる話をよく聞きます。オタク趣味は就活で不利になるのでしょうか?

元・鉄道オタク(東洋大学鉄道研究会出身)、現・地方のスーパーめぐりオタクの石渡です。こんにちは。ちなみにここ最近で好きなのは岡山駅ビル「さんすて」にあるユアーズです。刺し身がなかなか美味しいです。

このYahoo!個人では相談ものもあり、ということでこういう就活相談ものも入れていく予定です。リクエストなどがあればお気軽にどうぞ(ちなみに、大学ネタ、進路相談ネタも今後展開予定)。

さて、ご質問の件。鉄道会社が鉄道オタクを採用したがらない、というのは結構有名な話です(理由は後述します)。

「同人誌活動が就活で内定取り消しになるという記事」は「就活ニュース:デジタル版」の2013年12月18日記事「同人誌即売会に行った大学生は内定取り消しになる」のことでしょう。

「Yahoo!個人」で就活関連記事を長く書かれている酒井一樹さんもこれを受けて記事を書かれていました。

酒井さんの記事タイトルでネタバレしていますが、「就活ニュース:デジタル版」の記事は全てフィクションです。

お笑いネタと分かって読めばよくできたフィクションです。ちなみに私がツボにはまったのは「幼稚園中退の発覚で内定取り消しになった大学生」

「同人誌即売会で内定取り消し」もなかなかの力作。

もちろん、ちょっと読めば「んな、アホな」で終わりのはずなんですけどねえ。

どうも、こういうシュールなフィクション、真に受けたり怒り出す人がいるようですね。私も自分の新書で何度かフィクションを出したところ、

「ライターの適性に欠ける」

「ウソを適当に書いているだけ」

などと批判されてしまいました(舌打ち)

「就活ニュース:デジタル版」に話を戻すとシャレのわかる方なら面白いですがそうでない方は読まない方が無難か、と。

ご質問のオタク趣味が就活で不利になるかどうか、同人誌関連では酒井さんがすでに書かれています。

当コラムでは同人誌だけでなく鉄道、キャラクター、食べ物なども含めて「なぜ敬遠されるのか?」を7点に分けてまとめてみました。

なお、その1~2は「趣味→趣味関連の企業」、その3~7は「趣味→趣味とは無関係の企業」についてです。

その1:いいお客さんでいてください

これは「鉄チャン→鉄道会社」などでよくあるパターン。

他に「ディズニーファン→オリエンタルランド(ディズニーランドの運営会社)」「キティグッズ集め→サンリオ」「映画ファン→映画会社」などでもよくある話。

鉄道会社については『就活のコノヤロー』でもネタにしましたが、ちょっと調べれば鉄道事業よりも不動産事業・流通事業で利益を出している会社が多数を占めていることが分かります。

鉄道会社からすれば鉄道事業に配属するのか、不動産事業・流通事業に配属するのか、決め打ちして総合職採用をするわけではありません。

それを「鉄道が好きだから」が志望理由だと、逆に言えば不動産事業・流通事業はやりたくない、と言っているも同然。だったら落とそうか、となるのは自然な話でしょう。

他の業界・企業についても同様です。好きです、ファンです、と言うのであれば、採用側からすれば「だったら、いいお客さんのままでいてください」となるわけです。

その2:アンチ・無関心層が理解できない

その1の変化球パターン。

たとえば、映画がものすごく好きな学生からすれば「映画はろくに見ない」という一般人は理解できない存在でしょう。

「映画ほど素晴らしいものはないし、それを見ないなんて理解できない」などと言い出すわけで。

そういうの、映画が好きな者同士で非難している分にはいいでしょう。

しかし、映画会社は非難するだけでは済みません。無関心層を非難することで客が入るならどの映画会社も非難するでしょうけど、現実にはそんなことはあり得ません。

と言って手を打たないとどんどん利益が減っていきます。

利益を確保するためにはアンチ・無関心層を客として呼び込むことを考えなければなりません。

それがマニア・オタクの域まで行くとそういう視点を持てないのではないか、と採用側は懸念するわけです。

その3:趣味の話が理解不能

オタク・マニアの域まで行った学生は自分の趣味を熱く語ります。

オタク・マニアレベルまで行く趣味があるのはいいんです。問題はそれを面接で採用担当者に聞かれると延々と話し出す点にあります。

次の面接学生が来て聞いている側がイライラしていることなどお構いなし。

話が長いだけでなく、オタク・マニアレベルでしかわからない話を分かっている前提で話すのも特徴。つまり、一般人には理解できません。

熱く語られて、しかも内容が理解できなかった採用担当者が落とすと決めることをどうして責められるでしょうか(反語)。

なお、「熱く語る」の逆バージョンとして話さない、「どうせ理解してもらえないので」「好きだから好きなんです」と事実上の回答拒否、というのもよくあります。

あの、オタク趣味が悪いというわけでなく。面接で人となりを判断するためにあれこれ聞いて、その一環で趣味も聞いているわけです。それを「話しても理解してもらえないので」はちょっとひどい。

趣味一つ、ほどよく話せないようだと、コミュニケーション能力に問題があるんじゃないか、と採用側は危惧します。

ほどよく、でも抑えめに話す工夫が必要でしょう。どうしてもできそうにないなら、2番目の趣味の話に変えた方がいいでしょうね。

その4:過剰な自己PR病

これはオタク・マニアでなくてもよくひっかかる話。世の中、なんでもよく言おうと思えばよく言えるわけです。

オタク趣味についても、「同人誌→プレゼン能力が向上した」「海外旅行→グローバル感覚が身に付いた」などどうとでもなります。

が、こうした過剰な自己PRは採用側が段々敬遠するようになってきました。

まあ、「自己PR」と書かれた項目で書く・話すのはまだしも、聞かれてもいないところでもアピールするのは相当なマイナスです。

「何でも自己PRにつなげろ」とするマニュアル本の悪影響ですが、この話はいずれ別の機会にでも。

話を戻すと、この過剰な自己PRがオタク趣味だった場合、偶然、落ち続けた学生が「オタク趣味は就活に不利」と考えて喧伝、一定の説得力をもって現在に至る、というのもあるようです。

その5:転職リスク

オタク趣味の中でも漫画、映画・動画作成、バンド、演劇など社会人からでもプロに転職可能なものが引っかかりやすいです。

オタク趣味を持っている学生は、自分の力量が分かっていますし、プロになれる人はごくわずか、ということもわかっています。と言って趣味を捨てるほどでもないので、オタク趣味を趣味として話すわけです。

ところが、オタク趣味を理解しない一般人からすれば「プロになれるレベル」と「プロにはなれないけど趣味として続けられるレベル」の違いが分かりません。

わからないだけならいいのですが、

「よくわからないけどなんか凄そう」

→「仮に内定を出して入社しても数年でやめてプロになるのではないか」

→「早期退職のリスクが高いなら採用しないでおこう」

という三段論法で不合格としてしまいます。

実際に、漫画家や小説家などは企業に入社してしばらくしてから専業のプロになった、という例が多数あります(朝井リョウとかいつまで兼業で持つんだろう)。

これについては、プロになるつもりはない、と言い張るしかないでしょう(言い張っても必ず納得してもらえるかどうかは別問題です)。

ちなみにこの転職リスク、オタク趣味ではないですが、教員養成系学部・教職課程履修の学生も同じです。

教員免許は取りたいけど教員になりたいわけではない、と考えた場合はそれをきちんと説明する必要があります。

その6:趣味への誤解

趣味があること自体はいいんです。

で、なんでもよく言おうと思えばよく言えるのは「その4」で書いた通り。この逆、悪く言おうと思えばいくらでも悪く言えます。

「同人誌・漫画→どうせエロでしょ」

「鉄道→なんか暗い趣味だよね」

「アイドルのおっかけ→イケメンというだけで何がいいの?」

などなど。この誤解が解けないままだと、書類選考でも面接でもうまく行かないまま終了ということになりかねません。

『理系クン』などの著作がある漫画家の高世えり子さんは学生時代から同人誌活動をしていました。

ご自身の就活についても描かれており、それを読んで数年後にリライトしたうえで書籍化したものが『就活のバカタレ!』(PHP研究所)です。

全210ページ中、高世さんの漫画は40ページ(他は私が原作で他の漫画家に描いてもらった漫画やコラムなど)。

この中で高世さんは自己PRを「漫画の自費出版」としたところ、就職課職員から

「この自己PR、変化球だね~」

と言われるくだりがあります。

高世さんは結局、自己PRを変えないまま就活を進めるのですが、漫画の中ではこう振り返っています。

「面接官が『同人誌』の実態を知らない限りあんまりステキな印象を持ってくれなかったんじゃないかと思う…。自己PRは面接官に『わかってもらう』を目標にした方がいいですヨ」

その7:総合職への無理解・本業に不熱心

その1と多少かぶるのと、オタク趣味以外の学生にも言える話。総合職である以上は様々な部署に配属されます。

たとえば、文房具が好きという学生はどんなに文房具が好きでも、無関係な総務や経理、人事などに配属される可能性だってあるわけです。

そういった部署に配属されて文房具とは無関係な仕事ばかりでつまらないから、と早期退職されてはかなわない。そう企業側は考えます。

それから、本業に不熱心になるのではないか、と企業側が恐れることもあります。

趣味のために本業である仕事の手を抜かれては企業側からすれば困るわけです。

だったら、最初からやめておこうか、となる次第。まあ、これは「仕事は仕事できちんとする」と言い張るしかないでしょう。

入社したらしたで配属先で「仕事は仕事、趣味は趣味」の姿勢をはっきりさせる必要があります。

たとえば、同人誌趣味の社会人だと日頃は残業でも休日出勤でも何でも受ける、その代わりコミックマーケットの開催日とその前日(8月中旬と12月末)だけは休ませてくれ、とアピールするわけです。

職場からすれば、コミックマーケット開催日とその前日(特に12月だと仕事納めや大掃除とバッティング)に休まれるだけでは困りモノなのですが、他の日程で仕事をしていれば

「コミケの前後はいなくなって困るけど、普段は無理を聞いてもらっているからしょうがない」

となるわけです。

貸し借りなし、という状態ですね。そういう計算をきちんとできるかどうかも重要です。

以上、7点についてまとめてみました。で、ご質問の件「不利か?」は

「まあ、個人差があるし」

としか答えようがありません。

たとえば、1・2については事前に業界研究・企業研究をやっておけばある程度は克服可能です。3~7についてもアピール内容を変えていく、あるいはオタク趣味を前面に出すにしてもほどよく話すようにする、理解してくれない企業は縁がなかったとあきらめる、などの対策・対応次第で結構変わるのではないでしょうか。

最後、投げやりな回答になりましたが、オタク趣味の学生の方はご参考までに。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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