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国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その1~2015年度入試結果から

石渡嶺司大学ジャーナリスト

先月、国際教養大批判への疑問から「国際教養大があれこれけなされている件」を書きました。

では、私は国際系学部がどんどんできれば、それで大学改革が実現して、社会の利益にもなると考えているか、と言えばそんなことはありません。

既存の国際・外国語系学部はともかく、新設の国際系学部については、強い疑念を持っています。

すなわち、

「大丈夫かなあ?」

と。

大学の学部新設は、往々にしてブームに乗っかる、という側面があります。

もちろん、ニーズがあって、それに応える形で、かつ、教育内容がしっかりしていれば、それは問題ありません。

需要と供給のバランスが取れますし、しっかりとした教育を展開することになるのですから。

しかし、こと、大学の学部新設の場合、

「他大学がやっているから、じゃあ、うちも」

「あの××大(伝統校)が新設したのだから、うちも」

という、見栄先行で、あまり中身がないようなところが多いような気がするのです。

薬学部、法科大学院、観光系学部、医療系学部……。

そして、ここ数年では、国際系学部も、ブームとなり、その行く末がどうなるのか、不安を感じています。

毎年3月に刊行する私の進路ガイド『時間と学費をムダにしない大学選び2016』(中央公論新社)は、草稿締め切りが例年10月末~11月中旬ごろです(なにせ、約1000ページある本なので)。

この進路ガイドに、昨年11月7日の時点で、国際の章で以下のコラムを書きました。

ちょっと長いですが、以下、引用で。

●乱立・国際系学部の行方は?~躍進、低迷はどこ?

国際系学部が増えています。とある中堅私大の関係者からも国際系学部新設についてどう思うか、と相談を受けました。

2015年新設では以下の学部・学科が予定されています。

●国立大

山口大学国際総合科学部

●私立大

順天堂大学国際教養学部

千葉商科大学国際教養学部

青山学院大学地球社会共生学部

関東学院大学国際文化学部(文学部から名称変更)

名古屋学院大学国際文化学部(外国語学部の2学科を募集停止)

名古屋外国語大学外国語学部世界教養学科

龍谷大学国際学部(国際文化学部を廃止して新設)

大阪国際大学国際教養学部(国際コミュニケーション学部を募集停止)

神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部

安田女子大学現代ビジネス学部国際観光学科

10校が学部・学科の新設ないし改組を予定しています。2014年には秋田大学国際資源学部、長崎大学多文化社会学部の2校も新設・改組。

それだけ、国際化が進んでいて、そうした人材育成が求められる時代になっています。

しかし、著者・石渡としては、国際系学部の全部が全部、いいか、と言えばそんなことはないと指摘せざるを得ません。

どの国際系学部も理念は素晴らしいものですし、教員等もきちんと専門家を揃えたことでしょう。

問題は学生がそれについていけるかどうか。

国際系学部について、2014年の出願状況を見ていきましょう。数字は競争率、前が2014年、後ろが2013年です。

●国公立

宇都宮大学国際学部 2.3倍/2.9倍

東京外国語大学国際社会学部 3.2倍/3.4倍

神戸大学国際文化学部 3.5倍/3.1倍

長崎大学多文化社会学部 3.0倍/-

国際教養大学国際教養学部 5.1倍/7.9倍

新潟県立大学国際地域学部 2.6倍/2.6倍

静岡県立大学国際関係学部 1.9倍/2.7倍

福岡女子大学国際文理学部 2.7倍/3.1倍

●私立大・難関(早慶、関関同立、MARCH)

青山学院大学国際政治経済学部 5.7倍/5.6倍

上智大学総合グローバル学部 6.7倍/-

法政大学国際文化学部 7.2倍/7.2倍

法政大学グローバル教養学部 5.4倍/10.9倍

明治大学国際日本学部 5.3倍/5.1倍

立教大学異文化コミュニケーション学部 8.9倍/9.7倍

早稲田大学国際教養学部 4.4倍/5.2倍

同志社大学グローバル・コミュニケーション学部 4.1倍/4.3倍

立命館大学国際関係学部 3.3倍/3.2倍

関西学院大学国際学部 7.6倍/8.7倍

●私立大・準難関~中堅(獨協・明治学院、日東駒専、産近甲龍、地方私大伝統校)

獨協大学国際教養学部 3.2倍/3.2倍

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部 3.4倍/3.4倍

東洋大学国際地域学部 4.9倍/4.8倍

日本大学国際関係学部 2.3倍/2.5倍

明治学院大学国際学部 3.7倍/3.4倍

愛知大学国際コミュニケーション学部 4.0倍/3.3倍

龍谷大学国際文化学部 3.3倍/3.5倍

関西外国語大学英語国際学部 2.4倍/2.5倍

西南学院大学国際文化学部 3.9倍/3.2倍

●私立大(大東亜拓桜帝国、その他地方私大)

東京国際大学国際関係学部 1.2倍/1.3倍

文教大学国際学部 1.9倍/2.1倍

城西国際大学国際人文学部 1.0倍/1.0倍

亜細亜大学国際関係学部 3.7倍/2.8倍

国士舘大学21世紀アジア学部 1.6倍/1.9倍

創価大学国際教養学部 13.9倍/-

大東文化大学国際関係学部 1.5倍/2.0倍

拓殖大学国際学部 2.7倍/3.3倍

東京農業大学国際食糧情報学部 3.6倍/3.8倍

武蔵野大学グローバル・コミュニケーション学部 5.9倍/6.7倍

追手門学院大学国際教養学部 2.0倍/1.7倍

大阪観光大学国際交流学部 1.0倍/1.0倍

阪南大学国際コミュニケーション学部 4.0倍/3.4倍

桃山学院大学国際教養学部 2.1倍/1.8倍

広島女学院大学国際教養学部 1.1倍/1.1倍

立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部 4.6倍/3.5倍

鹿児島国際大学国際文化学部 1.0倍/1.0倍

こうして見ていくと、国公立と難関私大から日東駒専クラスまでと地方私大伝統校は入試が成立する倍率の目安とされる、2.0倍を超えています。

それ以外の私大でも、方向性がはっきりしている(創価大、東京農業大、武蔵野大、阪南大、立命館アジア太平洋大)、設立が古い(亜細亜大、拓殖大)などは堅調に推移しています。

上記一覧には入れませんでしたが、外国語大学・学部で伝統あるところの学科も受験者はきちんと集まっていました。

しかし、それ以外の私大だと2倍前後か1倍台で苦戦している大学が多数。

大阪観光大は、倍率もひどいですが、受験者数・合格者数ともに3人という、ちょっとあり得ない数値をたたき出しました。

これはどういう事情か、と言えば、大学関係者が見ぬふりをしている事情があります。ものすごく簡単なことで、偏差値が下がれば下がるほど受験生は英語が苦手なんです。

英語ができない受験生に対して、国際的だの、英語で授業をやるだのとアピールしても、面倒と敬遠されるだけです。

面倒そうと敬遠されないギリギリのポジションが日東駒専・産近甲龍クラス。あるいは、地方私大でも伝統校かつ難関校と評判の大学であれば、問題ありません。

しかし、それ以外の大学で国際系学部を作っても、よほど特色があり、かつ、英語が苦手な受験生でもちゃんとフォローできる、とアピールする教育内容でないと苦戦するでしょう。

たとえば、実用英検4級以下の学生でも、補習授業を大々的に展開して、卒業時にはグローバル人材に生まれ変わらせる、とか。

そういう点では宮崎国際大国際教養学部がいい教育をしているのですが、宮崎という立地が敬遠されてここも大苦戦中。

このあたりを含めて、2015年新設の国際系学部がどうなるか、予想してみました。

国際系学部、今後も増えそうですが、国公立・難関大はまだしも中堅以下の私大(それも外国語系学部以外)は無理に作らなくても、と思わざるを得ません。

このあたりを含めて、2015年新設の国際系学部がどうなるか、予想してみました。

●安泰

山口大学国際総合科学部、青山学院大学地球社会共生学部、名古屋外国語大学外国語学部世界教養学科、龍谷大学国際学部

寸評…山口大は国立大なので黙っていても受験生が来る。青学も同じ。名古屋外国語大も外国語大の老舗で英語嫌いはまず来ない。龍谷大は前身の国際文化大も堅調だったのをさらに衣替え。

●微妙

順天堂大学国際教養学部、神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部、安田女子大学現代ビジネス学部国際観光学科

寸評…神戸学院大は産近甲龍クラスの下の摂神追桃クラスの一角。桃山学院大国際教養学部、追手門学院大国際教養学部はどちらも苦戦(定員割れではない)。ただ、神戸学院大自体が伸びているのでどうにかなる可能性も。安田女子大は地元女子大の伝統校だが現代ビジネス学部は苦戦。順天堂大は医療系大学の名門でこうした大学が国際系学部を新設するケースは初。お茶の水キャンパスという立地の良さは受験生を集める可能性大。ただ、医療系大の文系学部新設だと杏林大が総合政策学部(1984年)・外国語学部(1988年)を設立し、2000年代はずっと苦戦している先例もあり。

●苦戦

千葉商科大学国際教養学部、関東学院大学国際文化学部、名古屋学院大学国際文化学部、大阪国際大学国際教養学部

寸評…どこも前身がぱっとしない。あるいは大学全体が受験生集めで空回りしている。よほど補習教育がしっかりしていないと、定員割れになる可能性が高い。

国際系学部、今後も増えそうですが、国公立・難関大はまだしも中堅以下の私大(それも外国語学部以外)は無理に作らなくても、と思わざるを得ません。

関西の某中堅私大学長とちょっと話したのですが、

「うちも無理にやるよりも、他のことを充実させたい。だけど、文部科学省がアンケートで英語による講義の有無とかあれこれ聞いてきてプレッシャーかけてくる」と弱っていました。この某中堅私大は結局、国際系学部も作らず、英語にもこだわっていません。それが正解、と私は思います。

※引用終わり

さて、2015年度入試が終了し、ぼちぼち結果が出そろいつつあります。

自著コラムの予想が正しかったかどうか、4月7日時点で判明している入試結果(代々木ゼミナールデータ/3月26日現在の出願者データ)から検証してみました。

●安泰予想

山口大学国際総合科学部→× 前期入試1.3倍、後期6.9倍

青山学院大学地球社会共生学部→○ 全学部日程13.5倍、個別学部日程37.3倍、

名古屋外国語大学外国語学部世界教養学科→○ 前期A日程37.7倍、前期M3方式108.3倍、前期M2方式11.5倍、後期18.6倍

龍谷大学国際学部→○ 一般A日程20.9倍、一般B日程16.0倍、一般C日程28.1倍

●微妙予想

順天堂大学国際教養学部→○ 非公表

神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部→× 一般A日程4.2倍、一般B日程8.7倍、一般C日程9.2倍

安田女子大学現代ビジネス学部国際観光学科→○ 非公表

●苦戦予想

千葉商科大学国際教養学部→○ 非公表

関東学院大学国際文化学部→× 前期2科目型・全学部統一5.9倍、前期3科目2.4倍、前期得意科目重視3.2倍、後期2.6倍

名古屋学院大学国際文化学部→△ 前期6.7倍、中期2.9倍

大阪国際大学国際教養学部→○ 非公表

※私立大はセンター試験利用入試の倍率は省略。

この代々木ゼミナールデータ、非公表とは、大学が情報を提供していないことを示します。

なぜ、提供できないか、それは色々な理由がありますが、非公表の大学はその多くが定員割れないし苦戦している大学が多く、志願者集めでも苦戦したことが予想されます。

そこで、非公表の4校については予想的中とさせていただきました。

この4校を入れると、的中が7校、外れが2校、保留2校(関東学院大、名古屋学院大)となりました。

私立大では、青山学院、龍谷、名古屋外国語の3校は順当なところ。

微妙予想だった神戸学院大も躍進。

考えてみれば、この神戸学院大、大学全体も延びているのを忘れていました…。

関東学院大は文学部からの名称変更で、英語文化学科は英語英米文学科からの名称変更。

倍率を見れば、予想は外れとも言えますが、前身の文学部は昨年(2014年)、1165人合格で入学は422人(定員440人)。

どう変わるか、まだ見えないので、保留扱いに。

名古屋学院大も、前身の外国語学部中国コミュニケーション学科・国際文化協力学科の前年データと比較して、大きく伸びたというほどではありません。なので、ここも保留扱い。

さて、予想で一番大きく外れたのが、山口大です。

前期入試の倍率が1.3倍とは、想定外でした。

この山口大、そして、今年、大量の欠員補充を出した長崎大多文化社会学部がなぜ受験生を集められなかったのでしょうか。

以下、力尽きたので、次回にでも。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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