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ドローン少年事件から、既存のキャリア教育が危ういと感じた件

石渡嶺司大学ジャーナリスト

Yahoo!個人のオーサーコメントでちょこちょこ登校、もとい、投稿するようになった石渡です。

何でも投稿していい、というわけでなく「専門家の知見を活かして」という条件付き。

どうせ、Twitterなどで関連記事は紹介しているので、面白いと思い、ちょこちょこ投稿しています。

さて、昨日、ドローン少年事件の記事で以下の投稿をしました。

少年からすれば、動画で面白映像を流していればお金になる、無理に就職する必要もない、との発想だったのでしょう。

社会人であれば、警察の注意が何度もあれば、ゴミ屋敷の主人でもない限り、従うはずです。

しかし、10代ゆえの未熟さが無視となり、逮捕につながったものと思われます。

好きなことを仕事にすればいい、これが現在のキャリア教育の根幹にあります。

確かにそれがうまく機能する人もいますが、一歩間違えると今回のような少年を生み出しかねません。

今回の事件は既存の「総合的な学習の時間」、情報、それに道徳(小学校は2018年、中学校は2019年から)など、それぞれ該当する話、とも言えます。

新たな科目を設置するところまで行かなくても、いずれかの科目できちんと教えない限り、今回のような事件は繰り返されるのではないでしょうか。

この投稿に対して、知人から、

「最初の2行の少年の行動、これ、単なる推測なんじゃないの?」

「そもそもキャリア教育と結びつけるって、無理やりすぎない?」

とのご指摘をいただきました。

※その後、本記事を受けて、コメントは一部変えました

せっかくなので、こちらで記事に。

まず、前者から。

現時点(2015年5月22日14時現在)では、

・中学卒業後、進学せず、定職にも就かず、自身のツイッターでは「配信業をやってます」としていた

・親から小遣いは貰っていない

・動画配信で資金を得た(電子マネーや商品券)

・動画の視聴者から資金やドローンの提供を受けた

・「これは生きがいなんだよ! 俺の。唯一の仕事なの!」と、ネット中継を「生きがい」、「仕事」だと叫んでいた。

・動画配信による収入で生計を立てるのが夢だった

などが報道から明らかになっています。

ご指摘のうち1点目については、上記の点から考えていくと、推測ではありますが、それほど外れてはいないでしょう。

もし、就職する気があれば、高校や専門学校に進学するなり、IT企業に就職するなり、具体的なアクションを取っていたはずです。

続いて2点目。

これは1点目ほど、事件に関連した事実に基づいているわけではありません。

ただし、この2点目は私が高校を取材していて強く感じていることです。

日本のキャリア教育の根幹は、現在のところ、

「夢を持とう、夢に向かって頑張ろう」

というものです。

ま、夢を持つことはいいことです。

ただし、夢を持ってダメだったときに次にどうする、と考える力を持つ、これも生き抜いていくために必要でしょう。

高校以前の教育は、目指す職業と直接関係ないにしても、基礎教養として、生き抜くために必要なものです。

もちろん、スポーツや芸術などの分野を目指す人は必要ない、との議論もあるでしょう。

が、そうした分野でも、基礎教養があるかないかでは大違いです。

たとえば、元・マラソン選手の増田明美さんは1984年ロサンゼルスオリンピックでは途中棄権するなど、世界大会で上位に入ったわけではありません。

しかし、練習日誌を付けるなどの習慣から、現役引退後、スポーツライターに転身しました。

解説者としては、選手のプライベートを調べ上げて触れる解説が視聴者から好評です。

今年、2015年には中野区の教育委員に任命されるまでに至っています。

マラソン選手としての実績はもちろんですが、基礎教養がなければ、教育委員にまでなっていたかどうか、疑問です。

こうした事例は、いくらでも挙げられます。

しかし、高校生を取材していると、目先の成績・成果にこだわる方が多いと感じています。

さらに、「夢こそ大事」とするキャリア教育を真に受けてしまうとどうなるでしょうか。

たとえば、次の事例。

女子高生/とりあえず、手芸が好き/手芸部に入るとか、自作をフリーマーケット・ネットで売るなどはしていない

この女子高生が、

「高校卒業後、すぐ手芸ショップを開きたい」

と言い出したらどうでしょうか。

まあ、客観的に言って、

「ふざけるな」

ですよね。

これがたとえば、

「手芸の大会で日本一になった」

「手芸をネット販売したところ、月50万円近く、売れるようになって、製作が追いつかない」

などの実績があれば、まだわからないでもありません。

が、そこまでの実績があったとしても、経営学部で経営を学んで将来の独立に備える、などを考えた方がより大きくできるはずです。

ところが、この女子高校生は、勉強が嫌いということに加えて、夢が~とするキャリア教育から、だったら手芸ショップを、と考えてしまいました。

短絡的な思考ですが、こうした思考に陥る高校生が一定数いる、と高校を取材して感じます。

それから、同様の話を高校教員からもよく聞きます。

今回の事件のドローン少年も同様です。

面白動画を趣味でやる(プラス・迷惑をかけない)分には、何の問題もありません。

しかし、職業として考えた場合には、どうでしょうか。

さらに高度な映像技術が必要となるかもしれません。

過去の映画・映像などを見て、クリエイティビティを高める努力も必要でしょう。

企業の製品の宣伝に関連する場合は、企業との交渉も増えます。

自然や祭事を撮影するにしても、関連の自治体・団体・企業との交渉は必要です。

さらに効果的な映像にするには、どんな工夫が必要か、考えることも欠かせません。

本気で職業とするのであれば、

「撮影禁止と言われていないから撮影しても大丈夫」

などの屁理屈を並べたり、上半身裸で中継する程度では、ああっと言う間に負けてしまいます。

このドローン少年や例として挙げた手芸少女からすれば、

「夢がある、だから、それに無関係なことは勉強しなくてもいい」

との発想なのでしょう。

しかし、本人はムダと考えていても、その職業を目指すうえでは本来は必要な知識・基礎教養というものがあります。

あるいは、直接関係ないにしても、長い目で見て、必要となる可能性が高いものもある、それが基礎教養です。

夢の有無とは別に、メシが食える大人になるための基礎教養を身に付ける、それが高校以前の教育であり、大学でも同じ。

私はそう考えています。

このあたり、中学・高校では、道徳になるのか、「総合的な学習の時間」になるのか、情報か、それとも社会か。

整理はされていません。

まあ、どの科目で触れてもいいのですが、現状の、

「夢を持とう~」

とするキャリア教育の発想のままでは、ドローン少年や五十歩百歩の青少年を量産しかねない、と、私は危惧しています。

そのあたりから、今回の投稿に至ったわけです。

ところで、ドローン少年に、金品を提供した社会人が、21日逮捕の翌日、22日朝に出頭している、というのは、実に象徴的です。

逮捕の翌日に出頭したのは、警察から呼び出されるよりも、先に出頭した方がその後の展開が変わることをわかっているからにほかなりません。

一方、ドローン少年は、再三注意を受けながら無視しました。

それどころか、横暴云々と動画でも流したため、反省の色なし、と警察は判断、立件・逮捕に踏み切りました。

年を取っていれば、何でも知っているわけではありません。

私も知らないことは山ほどありますし、15歳(あるいは18歳、あるいは22歳)に教えてもらうことだってあるでしょう。

が、この件については、ドローン少年は、社会とのかかわり方、警察の動きなどについて、あまりにも無知でした。

一方、ドローン少年に金品を提供した社会人は、社会とのかかわり方、警察の動きなどをちゃんとわかっていました。

それが出頭のタイミングなどを左右したのではないでしょうか。

好きだから仕事になるのかどうか。

このドローン少年事件は、様々なことを示唆していると考えます。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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